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更新日:2016年1月29日
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テーマ:ワーク・ライフ・バランス実現に向けた社会基盤構築:新しい研究者・技術者像とは
日時 | 2008年12月12日(金曜日)9時00分-16時50 分 |
場所 | 早稲田大学大隈記念講堂(小講堂) |
主催 | 日本女性科学者の会、お茶の水女子大学、早稲田大学、内閣府・男女共同参画推進連携会議 |
参加者 | 酒井 佳美 |
坂東内閣府男女共同参画局長より、平成19年は仕事と生活の調和元年として、1. 就労による経済的な自立が可能な社会、2. 健康で豊かな生活のための時間が確保できる社会、3. 多様な働き方・生き方が選択できる社会の3本柱を目指す行動指針の策定や、平成20年の1. 仕事と生活の調和の実現、2. 女性の能力開発・能力発揮に対する支援の充実、3. 意識の改革を課題とした「女性の参画加速プログラム」が紹介された。後者には、特に活躍が期待されながら女性の参画が進んでいない分野に研究者も指摘され、重点的な取組の必要性が挙げられている。
続いて、佐々木日本女性科学者の会理事は、女性研究者の活躍する条件に、1. 研究環境、2. 家庭・育児環境、3. ネットワーク、4. ロールモデルの4つが必要と指摘。研究分野における長時間実働は女性には現実的に無理である、と同時に女性は育児があるといって敬遠される。これまでの男女の役割分担主義を無くし、多様なライフスタイルの構築が必要である。
大熊理研理事より、理研の男女共同参画の取組の経緯と現在の状況の紹介があった。理研は、女性研究者モデル事業への応募とともに男女共同参画関連事業を始めたのだが、2年連続で落選してしまった。しかし、理研としてこの事業は必要なことであるとの判断から、独自に取組方針を策定し、活きた制度の実効に取り組んだ。速やかな問題解決のために責任ある役職者で構成する男女共同参画推進委員会の設置と、職員の多様な事情に合わせるための個別コーディネート制度の導入を行った。この制度の活用者は少人数ではあるが、このような制度があることで職員の安心感を提供することができている。平成20年度の第2期中期計画開始時に、女性PIを10%にすることを数値目標化し、さらに新しい課題への取組を開始している。仕事と生活のバランスの視点を重視した施策への転換を図っており、男女共同参画推進委員会は、ワーク・ライフ・バランス推進委員会へと名称を変更した。
岩切(株)東芝多様性推進部長からは、2004年に男女共同参画組織を設置し、「従業員一人ひとりが共に自分らしく、持てる力を十分に発揮する」会社・組織作りの内容紹介があった。当初はアンケート実施による意見のくみ取りで、制度整備を実施してきたが、整備だけではなく、最近は職場の理解を促進させるように取り組んでいる。WLBは、単なる「両立支援」「次世代育成支援」「楽な働き方」という誤解をされやすい。我々は「ワーク」と「ファミリー」「セルフ」「ソサイアティ」の調和を目指す働き方だと認識している。バランスは、必ずしも50時50分ではない、ライフステージごとに変化していくものである。現在、共働き世帯は増加の一途をたどり、方働き世帯より多くなっている。80年代ごろに入社した管理職世代は、方働き(配偶者は専業主婦)が当然であるという意識のまま、共働き世代と接している場合があり、意識のギャップが大きい。自分の世代の常識を押しつけてはいけない。会社にとってのWLBのメリットは、優秀な人材の確保、多様な人材の活用、離職率の低下、従業員のパフォーマンスアップ、業績アップであることを伝え、「従業員のため」だけではないことを伝える必要がある。企業はWLBの場ではなく、働く場であることを確認。ワークスタイルイノベーションを促進することで、従業員一人ひとり、および各職場での仕事の進め方の変革を進めて、企業として利益ある持続的成長と共に、個人のゆとりの時間の創出に繋げていきたい。ダイバーシティマネージメントには以下のことが必要である。1. 経営トップが危機意識を示すこと、2. 管理職が部下の考え方・行動を理解し、行動を変えること、3. 従業員自身の考え方と行動を変える、4. 責任・義務と権利・対価はセットであることを意識する。
はじめにパネリストが自己紹介と共にWLBに必要なことに関して言及した。
名取氏(内閣府情報公開・個人情報保護審査会委員) : このようなシンポジウム会場ではWLBは共通言語となるが、一歩外に出るとまだまだ通用していない。33の採択機関はまず機関のHPのトップページに頭出しをするべきだ。今後採択を目指す機関も、候補者として目に見える存在になるために広報活動に力を入れて欲しい。WLBにはポジティブアクションが必要だ。また、科振調費で現在雇用している若手PDのキャリアパスを考えておいてほしい。
北澤氏((独)科学技術振興機構理事長) : 国家の施策は民間と異なり期限があり、時代の流れに移っていくものだ。現在実施されている女性研究者支援も長く続かないことを見据えて実行する必要がある。個人的な意見としては女性が参加させてもらえないことが一番の問題で、アファーマティブアクションがないと排除される傾向だと思う。
小舘氏(日本女子大教授) : 環境・意識を含めて支援、あるいは、理解してくれる集団を作り上げることが必要だ。PDや若手自らこのようなシンポジウムに参加し、自分の意見を反映させるために、活動することも必要だ。
石原氏(東海大学教授) : 女性の教員がほとんどいない中で、女性研究者支援に関してはほぼ一人でやっているような状態である。古い常識に縛られている教授陣から理解と協力を得るのは非常に難しい。
矢島氏(三菱UFJリサーチ&コンサルティング) : 当社における制度構築は女性の活用や両立支援を目的としたものではない。高い専門性を持ち、自立した研究員を育成するために、研究員が働き方・仕事を自ら選択できる必要と、柔軟かつ裁量の高い働き方が可能な制度の構築が必要である。時間ではなく仕事の成果を評価すべきであり、成果を量と質ではかることで、仕事に専念した人も両立を図った人も納得のいく評価とするべきだ。また、両立するだけでなく専門性を追求できるようにし、ペースダウンしても前へと進むモチベーションを維持させることが大切だ。
大滝氏(早稲田大学教授) : アメリカでの院生生活を送った経験からすると、インフラの整備が大切である。これまでの経験から、日本人だけの組織では、互いに監視しているような雰囲気があって、制度はあっても使えない。個人のスタイルを尊重していないと思う。
Q : WLBの導入で、業績低下と言わせないようにするには?
名取 : 男性の育休では、最初の人が取ることが大切。これがロールモデルとなる。男性取得者の輪を作るのも良いと思う。
北澤 : 評価という点について、研究の世界では、働く時間が短いとその分研究が遅れるのは事実であり、それによって評価されてしまう。育児などで中断を余議なくされる女性が不利なのは否めない。選ぶ場合に、アファーマティブアクションや数値目標達成を実施させる必要があると思う。
小舘 : 女子大生は生き残りがキビシイので、女性のロールモデルを大切にしたい。女性教員の後任は女性にしていきたいと考えている。
矢島 : (自分自身がこれまで仕事を続けてこられたのは)上司に恵まれていたというのもあるかもしれないが、会社の方針として育成することが重要視されていた。北澤氏が時間と業績とに相関があると述べられたが、それもあるかもしれないが、少なくとも価値のある業績を出すことが評価されるべきではないか。
Q : 若手に見せる理想と現実とは?
石原 : ロールモデルは重要だ。若者は、自分に置き換えて予測し、将来が見えないとついてきてくれない。パンフレットではなく、現場の声が重要。
Q : 頭のカタイ人々にWLBを理解させるには?
大滝 : 今の社会情勢は非常に厳しい。しかし、経営者は中長期的な視点が必要である。優秀な人材確保が必要だと理解させると良いのではないか。
Q : 支援に必要なものは?
名取 : 女性研究者への支援はまだまだ必要である。ガラスの天井は非常にカタイ。皆で知恵を出し合っていきましょう。
北澤 : 個人としての意見は、先にも述べたが支援が続くとは思えない。国会での評判も悪いし、この不況下において何故研究者だけなのかと言われる。支援としては、女性が参画できる場を確保することが必要。
小舘 : 支援をいただけた事実は非常に大きい。先のアンケートにもあったが、支援を受けていない大学・研究機関との差が大きくなっている。当大学では、この支援事業を初めてから理数系の志願者・進学者が増えたので、大学としても今後も推進していくことを決定した。私学は一般に意識が低い。
石原 : 支援をいただいた以上組織を作ることが必要。教員と事務との意識の差は大きいため、意識改革がないと実施できない。個人差やライフステージに合わせた支援と評価が必要だと思っている。
矢島 : ポジティブアクションもWLBが無いと活きてこない。両立することで量が減ることは当たり前だが、個人が専門性の追求を進めることは必要である。仕事の成果として帰ってくることでモチベーションも上がる。
大滝 : ムダな拘束から解放することが必要。工夫で自由な時間を作ることは可能だ。Keyとなるのは時間だ。
北澤 : 我が家では、妻が働くことで妻が幸せであることがよいと考え、基本的には様々なことをお金で解決してきた。意識の低い人を引き込むために支援金を使っているだけの支援策は続けられない。お金で解決するというのは、支援によって女性の職員が増えたとか、周りを説得できる成果を上げる必要があるという意味である。
Q : 会場より、シンポジウムへの参加者を増やすことや、所属機関への目標達成への働きかけは非常に難しい。何か良い方法はないだろうか?
名取 : 目標値の明示や、その後のフォローアップが一番効果的だ。理事長や総長に、釈明や将来を正すような場を作るとよい。
北澤 : アファーマティブアクションは、女性の進出が進んでいる国でも実施しているので、進んでいない日本で実施してもおかしくない。7大学合同シンポジウムでは、7人の総長が全員壇上に上がって今後についての宣言をする場となっていた。壇上に総長を上げたまま、スクリーンに各大学の推進具合を映し出すところまでやっていた。このぐらいの方法が効果的だ。
Q : 提言をお願いします。
大滝 : 外国人の学生などを入れて劇的に変えさせることが必要だ。
矢島 : 仕事に専念した人も両立を図った人も納得した評価にすることと、ペースダウンしてもモチベーションは維持させることが必要。
石原 : 変わっていく中で自分も含めてどう変わっていくのかを意識することが必要。
小舘 : マルチキャリアパスが必要。
北澤 : 明るくなれる制度によって、男女共同参画が進むのは若手にも良いことだ。
名取 : 採択された33機関がある意義は大きい。この事業に参加することで、WLBや介護に関して知識を持つことになる。活きる力をつけることになるので必ず役に立つことがある。
男女共同参画室 酒井 佳美 : 記
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