ダイバーシティ推進室 > シンポジウム・セミナー参加報告 > 静岡大学平成22年度男女共同参画推進シンポジウム
更新日:2016年1月29日
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テーマ:「女性の潜在的な力を引き出す-企業・大学・地域- 」
日時 | 2011年2月22日(火曜日)14時00分-17時00 分 |
場所 | 静岡大学静岡キャンパス(浜松キャンパスはTV会議で参加) |
主催 | 静岡大学 |
参加者 | 金指 あや子 |
「企業戦略として女性の活用―その意義と方法―」
國井秀子氏(リコーITソリューションズ取締役・会長執行役員)
講師の國井氏は、海外も含めたIT業界・技術開発分野で長年活躍されてきた方で、現在、企業で活躍する日本女性のシンボル的存在のお一人である。企業における男女共同参画推進の重要性や、國井氏も理事を務めておられるJISA((社)情報サービス産業協会)による女性の活躍・就労の拡大を目指したアンケート調査や取り組み、さらに、(株)リコーでの事例などを紹介し、企業戦略として女性の活用について講演された。
ビジネスモデルが急激に変化している中で、モノカルチャの人材では対応できない時代である。企業が生き残るためには、変化に機敏に対応できる多様な人材を確保する必要があり、そのためには、女性の活躍は必要不可欠である。しかし、企業における女性に不利な状況(ジェンダーバイアス)は特に、子どもを持つ女性に大きい。企業の中で男女差をなくす(ジェンダーフリー)ための取り組みは、(1)「能力開発支援」、(2)「ワーク・ライフ・バランス」、(3)「意識改革」の3点であるが、制度はあっても活用されない事例が多い。いかに制度を運用するか、活用するかが重要である。制度を効果的に運用するためには、トップの強いメッセージを示すことと、専門組織の存在がカギである。
制度の効果的な活用の例として、「キャリアプラン」の作成がある。キャリアプランとは、企業における「女性の能力開発支援」の取り組みの一つであるが、これは、社員が職場で、今後どのように自身のキャリアを繋げていくか、行きたいか・・・といったキャリアに関わる目標・計画を明確に持たせるために作成する。プランには、専門的な部署でより専門性を深めたいとか、さまざまな部署を経験したいなど、また、どのようにステップアップしたいか、、、など、職場における具体的なキャリアの「目標」と、それを実現させるために必要な資格や、受けるべき研修など、何をなすべきかという具体的な「計画」を記載する。キャリアプランは、上司と相談して作成するが、この段階で、上司やマネージャーが部下の意識を把握し、メンターとしての立場でどのように相談に対処するかがポイントとなる。このため、相談を受け、プラン作成を指導する側への教育効果も大きい。
一方、残念ながら、女性はなかなか明確に自身の目標をプランに記載しない傾向が強いという。キャリアプランは、時期ごとに更新し、全く別の方向に進んでも構わないものなので、プランどおりに進まないからとペナルティが科せられるものではないが、実現に自信の持てない目標を掲げにくい傾向が女性に強いようだ。このため、キャリアプラン作成のための研修も実施し、高い目標に向けて職場全体がエンカレッジさせる取り組みを行っているということである。
IT業界は、世界的には最も魅力ある職場とされているが、日本では、どうも3K職場と受け止められることが多いようで、女子学生に避けられる傾向があるという。2010年のバービー人形の新型モデル(というのか?)にコンピューターエンジニアがあるのだが、日本では残念ながら販売していない。優秀な女子学生に来てもらいたいので、わざわざ、アメリカで沢山購入し、IT企業などに色々と配っておられるという人材の確保の微笑ましい努力も披露された。
ご自身が素晴らしいロールモデルである國井氏による理路整然とした講演は、改めて男女共同参画の意義を理解し、この取り組みを行う人々に大きな勇気を与える。
特に、キャリアプランは、その作成を通して、具体的な明確な目標・展望を持つこと、持たせることとなり、職員が活き活き活躍する組織とするためには、男女を問わず効果的なことだと思った。
「女性研究者支援策の過去・現在・未来―科学技術振興調整費による取組と意義―」
塩満典子氏 (JST科学技術振興調整費業務室長)
塩満氏は、内閣府男女共同参画局で第3期科学技術基本計画の立案に携わり、文科省の科学技術振興調整費・女性研究者支援事業の推進に大きく貢献された方である。科学技術基本計画における男女共同参画に向けた取り組みの経緯と展望について講演された。
科学技術基本計画は、第1期、第2期と比べ、第3期(平成18~22年度)では「若手研究者」と「女性研究者」の活躍促進といった人材の育成を大きな柱として取り上げた。この背景には、OECD諸国の中で日本における自然科学系の女性研究者・教員の割合は最低であり、世界的に科学技術分野における男女共同参画の動きがさらに進む中で、日本の状況を改善するための事業として、学術会議などからその実施が強く求められていたという事情がある。第3期基本計画を受けて、文科省では、科学技術振興調整費による女性の活躍促進のための一連の事業(学振特別研究員復帰支援、女性研究者支援、理系進路選択支援など)が開始された。
女性研究者支援モデル育成事業は、5年目となる平成22年度までに55機関が実施し、それぞれ大きな成果を上げた。一方、取り組みを実施していない機関では、セクハラ防止や休暇制度整備などの法定で定められた項目以外に女性研究者支援に関わる取組を実施していない大学が多く、この事業を継続する必要性は高い。
第4期(平成23~27年度)の科学技術基本計画の中で、女性研究者活躍促進に関連する記述を第3期と比べると、まず、女性の採用割合の目標値は、これまでの全体で25%から30%達成にアップした。両立支援に向けた取り組みについては、「支援する(このような表記をする場合は、予算措置を伴う)」という記述が、そのまま残った。一方、部局ごとの女性割合の公表については、「公表することを期待する」となり、前期の「公表する」よりもやや後退した表現となった。
第4期(平成23~27年度)の科学技術基本計画の中で、女性研究者活躍促進に関連する記述を第3期と比べると、まず、女性の採用割合の目標値は、これまでの全体で25%から30%達成にアップした。両立支援に向けた取り組みについては、「支援する(このような表記をする場合は、予算措置を伴う)」という記述が、そのまま残った。一方、部局ごとの女性割合の公表については、「公表することを期待する」となり、前期の「公表する」よりもやや後退した表現となった。
「女性研究者養成システム改革加速事業」が終了したことは、応募に向けて準備していた立場として残念である。しかし、科学技術振興調整費は、もともとシステム改革を行うための助走的資金という性格が強く、実際、事業期間終了後は、組織の自助努力で改革を進める義務を負う。女性研究者の採用割合を上げ、活躍を促進することは、社会的にも、また、組織のためにも必要なことに変わりはない。今後も、機関の実状に応じて工夫を凝らすことが重要だと思う。
・「静岡大学のオンデマンド支援の総括と展望」報告
船橋恵子氏(静岡大学副学長、男女共同参画室長)
パネルディスカッションの皮切りとして、静岡大学が女性研究者支援モデル育成事業として取り組んだ標記の事業を、アンケート結果や実績をもとに総括された。
学内で評価の高かった取り組みは(1)相談窓口・相談員の設置と(2)多目的保育施設の設置、(3)学会参加時の保育費支援制度導入、(4)休暇・休業制度の改善と周知などである。事業による環境整備の実績から、静大は厚労省の次世代育成支援認定マークである「くるみん」を取得した。また、「静岡大学男女共同参画憲章」や「静岡大学男女共同参画行動計画」を制定し、事業終了後の体制も整備している。さらに、女性研究者(教育者)の採用促進のため、女性を採用した場合のインセンティブを付与する採用加速システムを独自に導入した。この結果、事業開始前は、採用者の女性比率8.6%、教員比率9.6%と、ともに10%以下であったが、終了時には採用率は32.1%、教員比率は11.6%にそれぞれ向上した。今後、これらの制度をさらに充実させ、メンター制度、学童保育(浜松キャンパス)などにも取り組む予定。
静岡大学では、総合大学のように規模の大きな保育室の設置は困難であるが、やはり一時預り保育のニーズは高く、これに対応して、学内(静岡キャンパス)に保育施設を整備した。この施設を有効に活用するため、「多目的保育施設」として運用し、一時預り保育、授乳スペース、子連れでの打合せ会議室、学会開催時の保育スペースとしての利用を可能としたという。多目的活用は、施設の提供者と利用者の両者に意義のある取り組みで、アンケート結果での支持が一番高いのも、このような点にあるのではないかと感じた。
なお、パネルディスカッションには、時間の都合上参加できなかった。
生態遺伝研究室・男女共同参画室(兼) 金指 あや子 : 記
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