ダイバーシティ推進室 > シンポジウム・セミナー参加報告 > 第132回日本森林学会・日本木材学会合同大会企画

更新日:2021年5月12日

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日本森林学会・日本木材学会合同大会企画参加報告

二学会におけるダイバーシィティ推進の取り組みとこれから
~Withコロナ時代の学会に求められること~

  • 日時:2021年3月24日(水曜日)13時00分~15時30分
  • 場所:オンライン開催
    (Zoom Webinar使用)
  • 主催:日本森林学会・日本木材学会の
     ダイバーシティ推進部門
  • 参加者:ダイバーシティ推進室メンバー6名

合同大会ポスター

合同大会「二学会におけるダイバーシティ
推進の取り組みとこれから」ポスター(PDF:735KB)
 

本セッションでは、森林学会および木材学会の今後のダイバーシティ推進活動を促進させることを目的として、両学会それぞれで取り組んできたダイバーシティ推進活動の情報を共有し、Withコロナ時代に学会に求められる役割について議論ました。第1部では、黒田慶子氏(森林学会理事/神戸大学)による「ジェンダーギャップを減らすための社会参画教育」と、藤澤秀次氏(木材学会ダイバーシティ推進委員/東京大学)による「木材学会におけるダイバーシティの未来」の講演2題がありました。次に、男女共同参画学協会連絡会が実施した『コロナ禍の研究者アンケート』の追跡調査として、木材学会からは中山榮子氏(木材学会ダイバーシティ推進委員長/昭和女子大学)、森林学会からは髙山範理氏(森林学会ダイバーシティ推進委員長/森林総合研究所)から結果報告がありました。第2部では「Withコロナ時代の学会に求められることとは?」というテーマで、杉山淳司氏(木材学会ダイバーシティ推進委員/京都大学)の司会のもと、上記発表者に木村恵氏(森林学会ダイバーシティ推進委員/森林総合研究所林木育種センター)加えて、パネルディスカッションが行われました。

講演1:ジェンダーギャップを減らすための社会参画教育(黒田氏)

男女格差の大きさを国間で比較したジェンダーギャップ指数が、日本は2020年に153か国中121位(2021年は120位)であることが発表され、改めて政治家や企業の管理職に占める女性の割合が低いことや男女間の給料格差、家事・育児に費やす時間の偏りなどが浮き彫りとなりました。このような日本の置かれている状況と黒田氏ご自身のジェンダーギャップの体験も踏まえながら、ギャップを解消するためには何が大事なのかを話されました。ジェンダーギャップの背景には差別があり、その中には無意識のものも多く含まれています。例えば、子育て中の女性はすべてが大変と勝手に考慮されて、仕事の量を軽くされることがありますが、その分業績が少なくなり、その人の昇格は遅れてしまいます。この場合、当人の意思を確認して適切にサポートすることが大事です。また委員の昇格等の選定対象に女性の顔が浮かばない場面も多く、女性の存在を気付かせるように働きかけることが重要な場合もあります。また、ジェンダーギャップの解消には、人の尊厳に意識をむけることが重要で、男女問わず無意識のバイアスや先入観に気付くこと、そしてそれに対して行動をとることが大事です。女性の割合を増やすことは逆差別などではなく、ポジティブアクションとして認められています。重要な政策に関連する委員会等に女性を登用するように働きかけたり、不公平な場面に遭遇したら救いの手を差し伸べる行動が望まれます。

講演2:木材学会におけるダイバーシティの未来(藤澤氏)

木材学会では会員の女性割合が20%であり、特に正会員における割合が小さいことから、社会人になってから会員を辞める女性が多い状況にあります。本講演では藤澤氏ご自身の育児体験を踏まえながら、ダイバーシィティ推進に学会として貢献できることについて話されました。出産・育児は心身ともに負担が大きく、特に研究者の場合、産休・育休中に公表された研究成果発表が所属研究機関の業績として認められないなど、産休・育休がキャリア形成に悪影響を及ぼすケースがあります。また、男性の育休取得率はまだ低い水準にあり、休暇制度の改善と意識の向上が必要とされています。今年3月の木材学会の年次大会はオンライン開催されたことで、会期中に子供を預けたりする手間などが無くなり、幼い子を持つ研究者にとってはメリットと感じられる点もありました。このように学会としては、例えばオンライン参加など多様な選択肢を会員のニーズに沿って提供するなどの柔軟な対応が今後望まれると思います。

講演3:「コロナ禍の研究者アンケート」追跡調査報告(中山氏、髙山氏)

新型コロナウイルスの感染拡大のため、2020年4月に出された緊急事態宣⾔により、長期の休校や在宅勤務が続きました。この環境の変化で生じた問題点を抽出し、必要な支援・対策を早急に国や研究機関に要望するため、主に理工系の科学者・技術者を対象に、男女共同参画学協会連絡会はアンケート調査(令和2年5月~6月に実施、総回答者数は約11,000人)を実施しました。これを受けて、木材学会・森林学会は共同で追跡調査を行い、学会員の置かれている現状と今後の展望について報告がありました。木材学会のみ所属の81名、森林学会のみ所属の94名、両学会に所属する15名の計190名の回答が解析に用いられました。性別・年齢構成は両学会とも同じ傾向で、若い人の回答が少なかったものの現状の男女比を反映していました。回答研究者の専門分野は森林学会では生命・生物・環境系の研究者が多く、木材学会では化学・材料・建築系の研究者が多くを占めていました。研究形態は、森林学会はフィールドワークが、木材学会はラボワークが中心でした。家族の構成は核家族が多く、役職は研究員や准教授クラスで大多数が占められていました。コロナ禍により約8割の研究機関で在宅勤務が導入されましたが、約75%の回答者は制度を利用していないことが分かりました。研究に費やす時間が減った方は全体の30%程度であり、影響はある程度抑えられていました。森林学会員では回答者の40%が研究内容を変更し、出張や調査が通常通りにできなかった影響が出ました。これに対し、木材学会員ではラボワーク中心であったためか研究の変更等をせずに済んだ方が多く見受けられました。研究の質は半数以上が変わらなかったと答えた一方、40%程度が下がったと回答しました。研究活動への不安は6割程度が不安と感じ、特に女性が研究や人間関係、キャリア形成などに不安と感じている割合が高い傾向が見られました。家庭生活への不安も6割以上が不安と回答し、その理由は主に健康面に関することでした。望まれる支援策としては、在宅勤務やweb会議の活用、手続きのオンライン化などが挙がり、在宅勤務については約7割の方がコロナ禍後も利用したいと回答がありました。今後の展望としては、在宅勤務等の制度拡充であり、例えば週当たりの在宅勤務可能日数の増加や、条件の緩和、制度の周知・徹底などが挙げられます。また、そのためには手続きのオンライン化やweb会議の利用促進などの環境整備が必要となります。学会にできることとしては、関連する団体等からの情報収集および会員への情報提供に努め、研究生活に関わる組織の垣根を超えた情報やネットワークの共有・提供の場として機能することが大事だと考えています。

パネルディスカッション

日本ではジェンダーギャップ改善のスピードが遅く、女性進出の妨げとなるものを払拭していかなければいけません。その根底にある「無意識のバイアス」について、まずはじめに議論されました。「無意識のバイアス」の中には男性側の善意にもとづくバイアスも多くあり、女性側のやる気とミスマッチのケースが多くあること、それに対して女性側が声をあげ、男性側が理解していくことが大事であると話されました。
「ロールモデル」の問題については、身近な女性のモデルが少なすぎたり、有っても手の届きそうにないモデルであったりして、自分の個性に合ったモデルを見つけることはほぼ不可能です。そのため、モデルを探すよりも男女問わず問題が起きた時などに相談できる相手を探すことの方が重要であるということ、そして学会はその相談者と出会える場として機能できる可能性があることが話されました。
その他に、森林学会役員の女性割合が増えたきっかけに「気付かせること」が大事であったこと、木材学会で創設された優秀女子学生賞の経緯や期待する効果、ライフイベントの視点から見た女性研究者にとってのテニュアトラック制度の問題点などについて話されました。

きのこ・森林植生研究領域 (ダイバーシティ推進室併任) 小長谷 啓介:記

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