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更新日:2023年6月27日

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日本森林学会第134回大会学会企画シンポジウム参加報告

テーマ「留学・研修を通じて見えてくる多様な価値観や考え方」に参加して

  • 日時:2023年3月24日(月曜日)
     12時10分~13時40分
  • オンライン開催
  • 主催:日本森林学会ダイバーシティ推進委員会
  • 後援:(一社)男女共同参画学協会連絡会
  • 参加者:林業経営・政策研究領域 林業動向解析研究室
    (ダイバーシティ推進室併任)志賀薫氏

230327日本森林学会第134回大会学会企画シンポジウム(PDF:890KB)

プログラム

開会挨拶 丹下健氏(日本森林学会会長/東京大学)

講演1. 北島薫氏(京都大学)「ダイバーシティを活用して適応力を発揮できる森林と社会」

講演2. Larry Lopez氏(山形大学)「Double Degree Programs as an effective tool for Internationalization of universities in Japan(ダブル・ディグリー・プログラム、日本の大学の国際化のために有効な手段として)」

講演3. 伊藤幸介氏(新潟県森林研究所)「森林総合研究所の受託研修に参加して」

講演4. 浅野友子氏(東京大学)「サバティカルの多様な目的や効果」

閉会挨拶 久保田多余子氏(ダイバーシティ推進担当理事/森林総合研究所)

令和5年3月27日(月曜日)に,日本森林学会第134回大会 学会企画シンポジウム「留学・研修を通じて見えてくる多様な価値観や考え方」がオンライン形式で開催されました。海外留学や国内外での研修など,様々な形でそれまでとは違う環境に身を置くことで得られた経験や感じたことについて,4人の方が講演され,フロアと共有してくださいました。

北島薫氏(京都大学)
「ダイバーシティを活用して適応力を発揮できる森林と社会」

北島氏は,1984年から29年間をアメリカで過ごされ,2013年に京都大学に戻ってこられました。ご専門は植物機能生態学で,多様な樹種が構成する自然林は様々な環境変動や攪乱にレジリアントであるとおっしゃっていました。では,森を探求し,守り育てていく人々にも多様性が必要なのでしょうか?というのが講演のクエスチョンでした。アメリカでのご経験から,アメリカではキャリアパスが一直線ではないとおっしゃっていました。結婚したり子育てをしたりしている大学院生が多いこと,子育てを終えてから博士課程に戻ってくる人もいること,などが具体例として挙げられました。それを可能としているのが,交渉可能な社会であることだそうです。専攻長や研究科長の裁量が大きく,個別の交渉(給与,セットアップ経費,Tenure clock#1)が可能だそうです。また,変わることが良いことである,という概念があり,転学・転職・復学などの多様なキャリア経験がプラスに評価されるとのことでした。一方,「日本は“枠組みを作っておいて,そこに人をはめ込む”という組織と社会構造であり,それが安定的な社会の形成に寄与している部分もあるが,多様性をはぐくむという点で問題があることも周知のとおり」とのことでした。最後に,「植物でも成長に時間がかかるけれど,光が当たればぐんぐん成長するものもあるように,人間も寄り道したり休んだりした人材の経験を引き出していく社会をどうやって構築できるか。リカレント教育やおじさん・おばさんも頑張ることも重要なのでは。」とおっしゃっていました。

 #1: テニュアトラック期間をカウントダウンする“架空のメーターの比喩”として使われる言葉

Larry Lopez氏(山形大学農学部&ハノーバー大学自然科学学部)
「Double Degree Programs as an effective tool for Internationalization of universities in Japan(ダブル・ディグリー・プログラム、日本の大学の国際化のために有効な手段として)」

Lopez氏は山形大学が実施しているダブル・ディグリー・プログラム(以下,DD)について講演をされました。山形大ではドイツのハノーバー大学との間に,2018年9月にDDのMoUを締結し,2019年10月にDDを開始したそうです。これは,学生が,山形大学農学研究科とハノーバー大学自然科学学部双方の授業を受講して単位を取り,論文の共同審査・承認を経て2つの学位を取得できるというものです。当初は学生が参加するかどうかが懸念されたそうですが,すでに4名が修了し,7名が在学・準備中であり,非常に上手くいっているそうです。DDのメリットは数多くあるそうですが,特に日本の大学に在籍しながら海外で学ぶことを熱望する学生の進路選択において魅力的な材料になるそうです。DDを作るための準備として,(1)国内・海外大学とのネットワーク構築,(2)英語能力向上のための講義と英語で講義する科目の準備,(3)学生交流(サマースクールとウィンタースクール),(4)オンライン共同セミナー,(5)ネットワークの大学とのシンポジウムの実施をしたそうです。(2)を通して学生の英語能力の向上が見られたそうです。2013から毎年ハノーバー大学で交流し,サマースクールでは,研究所においても交流がなされているそうです。コロナ感染拡大時はオンラインで実施したそうです。このような活発な交流により,学生がそれぞれの環境についてよく理解していることから,受け入れや派遣後に特に大きな問題はみられないそうです。現在ドイツのDDはうまくいっており,今後は農学部だけでなく,理学部,工学部の科目も加えたり,イタリア,スペインとのDDを作ったりすることを予定しているとのことです。最終的には日本-ヨーロッパで1つのDDを作ることを目指されているそうです。

伊藤幸介氏(新潟県森林研究所)
「森林総合研究所の受託研修に参加して」

国内での研修経験について,新潟県森林研究所の伊藤氏がお話しくださいました。伊藤氏は2005年に新潟県の職員となられ,2010年と2016年に各3か月間,森林総合研究所の受託研修生受け入れ制度を通して研修を受けられたそうです。2010年は,きのこの遺伝情報解析・成分分析の基礎(次世代型機器を用いたきのこ遺伝情報解析,成分分析),野生きのこの分類と同定(北海道~西表島)について研修を受けられたそうです。また,地元の研究者が参加するバレーボールのグループに加わり,交流を深められたそうです。さたに,この研修を通して,他県の研修生とのつながりができ,そのつながりを通して,他県の研究所の見学をすることなどもあったそうです。2016年は,人工林の成長予測と林分構造解析のための調査法及び解析技術について研修を受けられ,長伐期施業に関する総合的な見識を習得するとともに調査実習や協力研究機関での討議の機会を得たり,研究所内での討論に参加したりされたそうです。そして,研究領域だけでなく,大学や他の研究機関との協働の経験やワークライフバランスへの考えの幅が広がったそうです。伊藤氏は,研究者とのつながりができたこと,業務への取り組み方やワークライフバランスへの姿勢等も含めた,職場の外からの視点,広い視野を持つことができたことが,大きな糧となったと話されていました。研修参加に際しては,不在期間中の通常業務や調査出張費用に対する職場からの協力があったそうです。職場の理解と協力があってできたことなので,この経験で得たことを職場に還元していければ,とおっしゃっていました。

浅野友子氏(東京大学)
「サバティカルの多様な目的や効果」

浅野氏はこれまでに3回,サバティカルをとられ,多くの人の意見と同様に,サバティカル後は自分の専門的な能力に対する自信の高まりを感じているそうです。浅野氏のサバティカル取得のきっかけは,論文がリジェクトされ続け,また,仕事が忙しく,疲弊していて論文を修正する気力もわかなかったこと,研究対象としていた秩父の水文過程(降雨流出過程)が理解できなかったことだそうです。そこで,上司にサバティカル研修について相談したところ,所属先の先生たちもサポートしてくれ,2018年に11か月間コロラド州立大学に行かれることとなったそうです。コロラド州立大学を選んだ理由は,知りたかった河川地形学を専門とする先生がいたこと,女性が多かったこと,半乾燥地で日本とは違う自然環境にあったこと,だったそうです。サバティカル時は,小学校3年生,5年生のお子さんと3人暮らしをされていたそうですが,余裕をもってお子さんと接することができた貴重な機会となったそうです。また,アメリカで,良いお母さんだと褒められたことが自信になったそうです。浅野氏は,ご自身にとってのサバティカルの効果として,論文を出版できたこと,疲労から快復しやる気が向上したことから,自信を失わずに仕事を続けられたこと,とおっしゃっていました。また,現地で知り合った研究者との交流ができたこと,お子さんにとってもよい経験となったことも効果として挙げておられました。ご自身の経験から,行き詰った時にサバティカルが選択肢の一つとして選べるとよいのでは,とのことでした。アメリカでは,どうしたら大学教員がストレスなく,機嫌よく働けるのかがよく考えられていると感じられたそうですが,日本ではサバティカルの制度はあるものの,不在期間の学生への対応等の業務をどうするかが組み込まれていないなどの理由で,利用したいと言い出しにくい雰囲気があるとのことでした。

総合討論

総合討論では,日本とアメリカの違い(日本では一人の人間がすべてをこなさないといけないが,アメリカでは分担性が進んでいること,そのため自由度が高くなっていること,など),また,海外との交流をするにあたっての英語力や日本の大学における英語環境整備(英語での講義など)の必要性,そして,普段と違う環境をのぞいてみることが「こうでないといけない」を壊したり,人的ネットワークを広げたり,新たな知見を得たりするために大切であり,自分への投資となること,といった意見が述べられました。最後に,丹下森林学会会長より,大きな成果を期待せずに,充電,投資として違う場所に身を置くことをしていってほしい,様々な環境に身を置いた経験を有する人が増えることで,日本の研究会のダイバーシティが高まっていくことを祈る,とのお話がありました。また,久保田ダイバーシティ推進担当理事からは,ダイバーシティ,インクルージョン,女性を含めたマイノリティの課題をマジョリティの人が自分のこととして捉えないと進まないと考えたこと,そして、海外でマイノリティになったという話を聞いたことから,このシンポジウムを企画したが,非常に充実した内容となったとの話がありました。

今回のシンポジウムの講演をうかがって,何歳になっても普段と違う環境に身を置き,新たな刺激を受けることが,感受性をみずみずしく保つことにつながり,そのことがさらに,他者を受け入れる=ダイバーシティを推進することにつながるのだと感じました。

林業経営・政策研究領域 林業動向解析研究室
(ダイバーシティ推進室併任)志賀薫:記

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所属課室:企画部研究企画科ダイバーシティ推進室

〒305-8687 茨城県つくば市松の里1

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