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更新日:2021年7月16日

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エチオピアで植栽されるアカシア類の共生微生物の解明とアグロフォレストリーへの応用

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1.共同研究機関

メケレ大学(Mekelle University)、エチオピア連邦民主共和国

2.研究期間

2018~2020年度 JSPS科研費

3.責任者

香山 雅純(植物生態研究領域)

4.研究の背景

アフリカ東部に位置するエチオピアの北部ティグライ州の標高2,000 mを超える地域では、半乾燥地域の低木林が広範囲に分布し、Acacia etbaicaを始めとするアカシア類が優占し、低木林の中に農地も点在します。アフリカ諸国では、樹木の植栽と作物の栽培を同時に行うアグロフォレストリーが実施されています。具体的には、Faidherbia albida (シロアカシア) やAcacia saligna (アカシア・サリグナ) を植栽してイネ科作物 (ソルガムやオオムギ) を栽培した例が存在します。アカシアの根と共生するアーバスキュラー菌根菌が作物に感染することによって、相乗効果が得られて作物の収量が増加するとされています。ティグライ州では、シロアカシアを植栽し、オオムギを栽培するアグロフォレストリーが実施されました。しかし、これまでのアグロフォレストリーではイネ科作物の栽培がほとんどであり、エチオピアで特に重要な作物であるマメ類は、根に共生する根粒菌の種がアカシア類と合わないことから、アグロフォレストリーは確立されていませんでした。近年、アカシア・サリグナの根には多種にわたる根粒菌が感染できることが分かってきました。そのため、アカシア・サリグナを用いて、持続的かつ高い収量を目指したマメ科作物のアグロフォレストリー手法を確立することが期待されています。

5.研究の目的

本研究は、エチオピアの主要樹種であるアカシア類と主要作物の共通した菌類が共生することによって、アカシア類の成長促進と作物の収量増加を目指すアグロフォレストリーの技術の確立を目標とします。
また、樹木と作物の共通の微生物が共生することにより樹木の成長も促進させ、樹木による炭素蓄積を増加させることによって気候変動の緩和技術に貢献できる技術としての確立も目指しています。

6.研究内容

本研究では、エチオピアで植栽されるアカシア類と主要作物を同所で育成するアグロフォレストリーの試験をティグライ州で実施します。まず、野外に生育するアカシア類の共生菌 (アーバスキュラー菌根菌と根粒菌)の感染状況を調べ、これらの結果から、アグロフォレストリーの実施に適したアカシア類を選定します。そして、選定したアカシアの苗を試験地に植栽します。さらに、平成31年度から2年間アカシアの苗を植栽した試験地にイネ科とマメ科作物を植栽し、樹木の成長や作物の収量を検討します。一連の研究計画により、エチオピアにおけるアカシア類を用いたアグロフォレストリーの技術として確立していきます。

7.得られた研究成果

ティグライ州 Kihen 村のアグロフォレストリー試験地にて、Acacia saligna を植栽したブロックと、植栽していないブロックの両方にコムギ・オオムギ・ガラスマメの種子を播種し、栽培を行いました。コムギはほとんど成長しませんでしたが、オオムギとガラスマメの地上部バイオマスについてデータを得られました。ガラスマメの地上部バイオマスと A.saligna の植栽密度には正の相関があり、特に A.saligna の植栽密度が高いブロックではガラスマメの地上部バイオマスは大きくなりました。このことから、A.sgligna の植栽によって土壌中の養分、特に窒素濃度が増加し、ガラスマメのバイオマスが増加した可能性が考えられます。オオムギについても同様の傾向はありましたが、統計的に有意な相関はありませんでした。
アグロフォレストリーの試験に関連して、炭を利用した微生物との共生関係の強化と樹木の成長促進効果に関する研究も実施しました。アカシア類 (Acacia etbaica, Faidherbia albida)、郷土樹種の Olea europaea subsp. cuspidata (オリーブ)と Dodonaea angustifolia (ハウチワノキ) の苗木について、苗1本につき 1kg の炭 (A.etbaica 製) を土壌に添加して育成しました。アカシア類については、A.etbaica の葉の乾重量と F.albida の葉と根の乾重量は炭の添加で増加しました。F.albida においては葉の窒素濃度が炭の添加で増加しており、根粒菌の働きによる窒素固定能力が炭の添加で増加したと推察されました。アカシア類の他の養分濃度は炭の添加による増加を示しませんでしたが、総養分量 (養分濃度×乾重量) は炭の添加で両樹種とも増加しました。オリーブとハウチワノキは炭による明確な成長促進効果はありませんでした。しかし、炭の添加によってアーバスキュラー菌根菌の感染率、根の窒素やカルシウム濃度が増加しました。

8.研究成果の利活用

炭を利用した苗木の植栽については、ティグライ州で実施したステークホルダー会議(令和元年6月1-2日, メケレ大学・ティグライ州農業農村開発局・Kilte Awulaelo 郡農業事務所)にてアカシア類の成長促進に有効であることを紹介しました。

9.研究論文

香山雅純、竹中浩一 (国際農研)、Buruh Abebe (メケレ大学)、Emiru Birhane (メケレ大学) エチオピア北部に植栽した樹木の炭の添加効果. 第8回関東森林学会講演集. p19.2018年10月

香山雅純、竹中浩一 (国際農研)、Buruh Abebe (メケレ大学)、Emiru Birhane (メケレ大学) エチオピア北部に植栽したアカシア類の植栽における炭の添加効果. 第66回日本生態学会要旨集. 2019年3月

Kayama, M., Takenaka, K., Abebe, B., Birhane, E. (2019) Effects of biochar on the growth of Olea europaea subsp. cuspidata and Dodonaea angustifolia planted in Tigray, northern Ethiopia. J. Jpn. Soc. Reveget. Tech. 45: 115-120.

Kayama, M., Takenaka, K., Koda, K., Sakai, T., Oniki, S., Hirata, M., Ogawa, R., Abebe, B. Girmay, G., Berhe, M., Gebreanenia, B., Birhane, E. (2019) The conservation of the forest of Acacia etbaica located in Tigray region, northern Ethiopia for the sustainable utilization. XXV IUFRO World Congress Forest Research and Cooperation for Sustainable Development, Abstract: 633

香山雅純、酒井徹 (国際農研)、Buruh Abebe (メケレ大学)、Emiru Birhane (メケレ大学) エチオピア北部、ティグライ州に生育する Acacia etbaica の成長に関わる立地要因. 第67回日本生態学会要旨集. 2020年3月.

Kayama, M., Abebe, B., Birhane, E. (2021) Effects of biochar on the growth of Vachellia etbaica and Faidherbia albida planted in Tigray, northern Ethiopia. Japan Agricultural Research Quarterly 55 (in press).

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