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更新日:2025年6月2日

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大気中のCO2濃度の上昇は森林からの蒸散量を増やすのか減らすのか?

1.共同研究機関

カンボジア王国森林局(Forestry Administration, Cambodia)

2.研究期間

2023~2027年度 JSPS科研費

3.責任者

久保田 多余子(森林防災研究領域)

4.研究の背景

植物の水利用効率は光合成による植物の成長量を乾燥重量で表したもの(=光合成生産物量)をその成長のために使用した水量(=蒸散量)で割った値で表されます。植物は大気中のCO2濃度が上昇すると気孔を閉じることが知られています。気孔を閉じると、CO2を気孔から取り込むと同時に失われていた水蒸気量(=蒸散量)が減ります。しかし、葉1枚当たりの蒸散量が減少しても、CO2濃度の上昇や温暖化による葉量の増加、蒸散期間の長期化、あるいは土壌水分や養分が不足することが原因となり、森林生態系の蒸散量がどのように変化するのか理解できていません。

5.研究の目的

樹木の年輪の炭素安定同位体比をもとに葉1枚当たりの水利用効率を計算できることから、年輪幅と炭素安定同位体比を使って、過去の森林生態系の蒸散量を1年単位で長期に亘って復元することを目的としています。このことにより、森林生態系が大気中のCO2濃度の上昇や温暖化に対してどのように適応してきたかを明らかにします。また、この解析を日本の東北地方から九州地方、およびカンボジア王国において行い、地域性についても明らかにします。

6.研究内容

日本国内とカンボジア王国における森林総合研究所所有の理水試験地および気象試験地において、国内では主にスギとブナ、カンボジア王国ではチークの年輪のコアを成長錐によって採取します。年輪幅を測定するとともに、セルロースを抽出して、1年輪ごとに炭素同位体比を分析します。年輪幅から年間の光合成生産物量を推定し、炭素安定同位体比から水利用効率を計算します。そして、水利用効率=光合成生産物量/蒸散量の関係式を用いて蒸散量を推定します。推定した蒸散量は降水量と流量の観測や気象タワーフラックス観測によって推定される蒸発散量と比較し、妥当な推定値であるかを検証します。

7.研究論文

(関連する文献)

Tayoko Kubota, Akira Kagawa, Toshio Abe, Ikuhiro Hosoda (2021) Effects of clear-cutting, meteorological, and physiological factors on evapotranspiration in the Kamabuchi experimental watershed in northern Japan. Hydrological Processes 35:e14111.

Tayoko Kubota, Akira Kagawa, Koji Shich, Kenji Ono (2022) The promotional effect of increased growth on transpiration exceeds the inhibitory effect of increased water use efficiency over the life history of Fagus crenata trees. Journal of Forest Research 27(5):352-362.

 

カンボジア王国クラチエ州におけるチーク林、直径約20cm、樹高約15mのチークの木が平地にたくさん並んでいます。
図1:カンボジア王国クラチエ州におけるチーク林

 

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