森林総合研究所について > 国際連携 > 共同研究 > 東シベリア永久凍土帯に生育する樹木の異常気象に対する脆弱性
更新日:2024年6月6日
ここから本文です。
ロシア科学アカデミーシベリア支部寒冷圏生物学研究所(Institute for Biological Problem of Cryolithozone, Siberian Branch, Russian Academy of Sciences)、ロシア連邦
2020~2023年度 JSPS科研費
鄭 峻介(森林管理研究領域)
地球温暖化に伴い、短期的に生じる急激な温度・降水変動(異常気象)の規模・頻度の増大・増加が全球的に観測され、今後その傾向がさらに強まっていくことが予測されています。一方で、異常気象が森林生態系に与えうる影響については未だ明らかではありません。本課題では、温暖化に対しての脆弱性が高いと考えられる東シベリア永久凍土帯に成立する生態系を対象として、異常気象が生態系に与える影響を明らかにすること目指します。
樹木年輪生態学的手法を用いて、東シベリア生態系の優占樹種であるカラマツの異常気象に対する応答・脆弱性を明らかにします。
従来の群落平均的な議論とは異なる、個体ベースの新しい樹木年輪生態学の確立を試みます。各樹木個体の年輪幅時系列から樹木1本1本の過去の成長量変動を求めます。その上で、過去に観測される様々な種類(極端な高温/低温、大雨/干ばつ)・規模・継続期間の異常気象に対する樹木応答・脆弱性を明らかにします。その際に、各樹木個体生育場所の微地形起伏・樹木サイズ特性を考慮する点が本研究の特色です。
新型コロナウイルス感染症とロシア・ウクライナ国際情勢の影響により、当初予定していた東シベリアでの現地調査を実施できませんでした。そのため、樹木年輪国際データベース(International Tree-Ring Data Bank)に登録されている東シベリア(60<N, 120<E<150)の33サイトを対象としたデータ解析を進めました(図1)。その結果、過去の極端気象(特に極端な低温)による成長量減少に対する回復力が低いサイトが東シベリアの東部に多く分布していることが明らかになりました(図2)。また、中央シベリア・極東シベリアとの比較において、東シベリア東部のサイトの回復力の低さがより顕著であることが分かりました。
図1:樹木年輪幅変動から過去の樹木成長量減少イベント(サイト内の70%以上の個体の成長量が過去5年間の平均成長量から30%以上減少した年)、及びその際の抵抗・回復・回復力を推定。Gr前とGr後は、それぞれイベント前後5年間の平均的成長量。
図2:4種類の極端気象(極端な低温/高温、少雨/豪雨;異なる色のプロットで示す)による樹木成長量減少イベント時のサイト経度と回復力の対応関係。樹木成長量減少イベントの要因となる気象因子は、西部では豪雨、東部では低温が優占的であり、回復力については東部に比較的低い値を示すサイトが集中的に分布している。
本成果は、東シベリアにおける極端気象に対する樹木応答・脆弱性についての理解を深め、将来の気候変動下における森林動態予測高度化への貢献が期待されます。
Tei, S., Vulnerability and resilience of larch tree growth to climate changes in eastern Siberia. Abstract for International Symposium on ”Pan-Arctic Water -Carbon Cycles and Terrestrial Changes in the Arctic: For resilient Arctic Communities, 2022.03.
Tei, S., Spatio-temporal variation in vulnerability and resilience of tree radial growth to climate changes in Eastern Siberia. 日本地球惑星科学連合2022大会要旨, 2022.05.
Tei, S., Tree growth vulnerability to severe drought and cold events in Eastern Siberia. 日本生態学会第71回全国大会要旨、 2024.03.
お問い合わせ
Copyright © Forest Research and Management Organization. All rights reserved.