森林総合研究所について > 国際連携 > 共同研究 > 衛星観測データの解析技術等を活用したロシア極東における総合的かつ持続可能な森林情報システムの開発
更新日:2020年11月30日
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ロシア側:沿海州農業アカデミー(沿海州地方・ウスリースク市)、ロシア科学アカデミー極東支部・地質学自然管理研究所(アムール州・ブラガベシェンスク市)
日本側:北海道大学北方生物圏フィールド科学センター、東京大学生産技術研究所、千葉大学、日本大学、信州大学、京都大学
2017~2019年度 農林水産技術会議国際共同研究パイロット事業
松浦 陽次郎(国際連携・気候変動研究拠点)
冷温帯から亜寒帯に属する気候帯にかけて広がるロシア極東地域では、森林開発が進む一方で絶滅危惧種とされる動植物の分布域が重なっています。また、奥地への伐採活動に伴う人為起源の森林火災も頻発し、乾燥した春先から夏にかけて、広大な範囲を焼き尽くす森林火災が多発する年もあります。森林火災から発生する煙と煤による健康被害は遠く離れた都市域でも深刻化し、さらに視界不良による航空機離発着への影響も大きく、ロシア極東地域の住民への影響も懸念されています。森林火災影響や資源劣化の予測、森林の構造変化の評価など、基本的な知見の蓄積は、極東ロシアにおいては総合的な研究がほとんど進んでおらず、衛星データの解析手法と現場の生態学的な知見を取り入れた研究は進んでいません。
ロシア極東に広がる森林生態系の持続的な資源管理に資する、森林資源量(地上部・地下部)の把握手法、広域評価手法、時系列で資源量変化と変化要因を解明する手法を開発します。森林資源量を把握し、根系機能評価、年輪解析、森林の構造復元などの結果をもとに、森林生態系の資源量の変動と変動要因の関係を解明します。広域の評価として、森林火災履歴、植生変遷、資源量の変動を図化し、森林火災検知などに即応できるシステム、地上の検証データと統合して森林資源量の管理手法に資するシステムを提供します。
アムール州北部(およそ北緯54度―東経127度)のZeya自然保護林に調査地を設け、森林の現存量、細根生産速度、土壌有機炭素蓄積量などの推定を行います。また、年輪情報による森林成長の気候応答パターンの検出、林分構造復元による林分の炭素蓄積パターンの解明、湿地堆積物の分析に基づく火災発生頻度推定と植生遷移の解明をします。
沿海州南部(およそ北緯43度―東経132度)の沿海州農業アカデミー所管のKaimanovka演習林に調査地を設けて、森林現存量推定と土壌有機炭素蓄積量の推定調査を進めます。
衛星データの解析に基づく広域評価を行うため、過去のデータを用いた時系列の森林資源量把握と、乾燥指数の季節変化に基づく森林火災発生マップを作成します。
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カラマツ/カンバの混交林 |
現存量推定調査の様子 |
土壌断面の様子 |
アムール州北部、Zeya(およそ北緯53度―東経127度)の自然保護林と、沿海州南部、ウスリースク市郊外のKaimanovka演習林(およそ北緯44度―東経132度)の天然性針広混交林で、日露合同現地調査を2018年と2019年に実施しました。
Zeya自然保護林の細根現存量は、火災履歴のある林分では火災の無い林分よりも約4割細根量が減少していました。一方で、火災履歴林分の細根は形状が細く変化し、養水分吸収機能の低下を補っていました。過去2500年程度までの火災履歴を、堆積有機物中に含まれる木材炭化片と植物微化石から推定した結果、Zeya周辺では約2500年前からカラマツ林の優占が、1700年前頃を中心に火災頻度が高まり、その後カンバが優占する森林が広がっていたことが明らかになりました。
Kaimanovka演習林で、マツ優占林分、ナラ優占林分、カンバ優占林分に分けて現存量推定を行った結果、地上部現存量の推定値はヘクタール当たり290~450トンの範囲になりました。演習林全域には石礫の多い土壌が分布し、土壌有機炭素量はヘクタール当たり20~30トンという推定値を得ました。
極東ロシアをほぼ含む範囲で、降水量と気温データに基づいた乾燥指数を計算しました。降水量が少ない時期と高温の時期には乾燥指数も高くなり、森林火災発生を反映していましたが、春先の森林火災多発現象をうまく反映していませんでした。春先の地表面乾燥度と火災発生の関係を、的確に予測するためには改良が必要です。乾燥指数のマップ化を進め、日変化を取り入れて更新し、PCからアクセスできるシステムを構築しました。
森林劣化の情報を提供するために乾燥指数マップを毎日更新してアップロードするシステムを構築し、ウェブで公開しました。画面から対象地域である極東ロシアの最新(アクセスしたその日)の乾燥指数の状況が表示され、乾燥状況と同時に平均値からのズレを示すアノマリー・マップも一緒に表示されるため、その地点の火災リスクを確認できるシステムになっています。例えば、本プロジェクトの集中観測地点である沿海州南部のUssuriisk、アムール州北部のZeyaを選択すると、二つの地点における時系列変化を平年値と一緒に表示できます。さらにKBDIの入力データも同時に閲覧できるシステムとなっています。また構築されたウェブシステムは、乾燥状況だけではなく平年値との比較が空間的に、また時系列で確認できるようになっており、農学、気象学、などの関連分野のニーズに応えることができます。
渡邉学、加藤顕、若林裕之、島田政信 (2018) 森林部L-band SAR後方散乱係数と樹木誘電率の相関. 第65回(平成30年度秋季)リモートセンシング学会講演論文集、239-240.
Semyon B, Evgeniyaa A, Makoto Kobayashi (2018) Fire-derived charcoal might promote fine root decomposition in boreal forests. Soil Biology and Biochemistry 116 :1–3.
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