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更新日:2021年7月16日
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カンボジア王国森林局(Forestry Administration, Cambodia)
2016~2020年度 JSPS科研費
壁谷 直記(九州支所)
世界では年間5.2万km2の森林が消失しており、東南アジア諸国においても森林減少は深刻な問題です。森林伐採による土壌侵食量の増加は、河川の河床上昇を引き起こし、洪水氾濫のリスクを増大させる可能性があります。また、発展途上国では、森林伐採をはじめとする森林開発が進行していますが、このような土地利用の変化が、流域スケールの水と土砂の移動にどのような影響を与えるのかに関しては、未だに十分な調査研究が行われていませんでした。
本研究課題では、東南アジアで比較的豊かに森林が残っているカンボジアの熱帯モンスーン常緑林流域を対象に、土地利用の違いが水と土砂の移動特性に及ぼす影響を解明することを目的として、現地観測を実施します。
本研究課題では、カンボジアの熱帯モンスーン常緑林流域を対象に、
1)異なる土壌表層環境における侵食量の差異
2)流域スケールの土砂流出量
3)森林斜面における土壌侵食の実態
の3つを把握することを目的に現地調査および斜面実験を実施します。
カンボジア国コンポントム州の常緑林流域試験地内で水・土砂流出特性と土地利用変化の関係解明に関する研究を行いました。現地観測およびモデル解析の結果から、土壌侵食を防ぐためには、林床面被覆の保護と伐採後の植生回復が重要であることがわかりました。開発が進んだオーテクロー流域での観測結果をもとに、年間流域流出土砂量を推定したところ、1.98 × 0.001 mm/year と日本の森林と同じくらい非常に小さい値でした。これは、カンボジアのような平坦な地形では、森林伐採などにより土壌侵食が発生したとしても、侵食土砂が流路に到達しないため、直ちに流域からの流出土砂量の増加へ結びつかない可能性を示唆しています。
本研究では、これまで土壌侵食に関する実態がまったく分かっていなかったカンボジアの常緑林において、現地観測とモデル解析を実施し、森林が土砂流出を防ぐ機能を明らかにしました。このことは、急速な森林開発の進む当地域における水土保全を進める上で重要な知見と考えられます。
壁谷直記、清水晃、清水貴範、飯田真一、玉井幸治、宮本麻子 (2018) 熱帯モンスーン常緑林流域における水・土砂流出機構の解明(I) ―試験地の設置状況―. 九州森林研究 71:79-82.
壁谷直記、清水晃、清水貴範、飯田真一、玉井幸治、宮本麻子 (2019) 熱帯モンスーン常緑林流域における水・土砂流出機構の解明(II) ―開発の進んだ流域における流出土砂量の推定事例―. 九州森林研究 72:51-55.
壁谷直記、清水晃、清水貴範、飯田真一、玉井幸治、宮本麻子 (2020) 熱帯モンスーン常緑林流域における水・土砂流出機構の解明(III) ―傾斜10度の森林斜面における3年間の侵食ピンプロット試験の結果―.九州森林研究 73: 75-78.
Naoki Kabeya, Akira Shimizu, Takanori Shimizu, Shin’ichi Iida, Koji Tamai, Asako Miyamoto, Sophal Chann, Makoto Araki, Yasuhiro Ohnuki (2021) Long-term hydrological observations in a lowland dry evergreen forest catchment area of the Lower Mekong River, Cambodia. Japan Agricultural Research Quarterly: JARQ 55: 177-190.
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