森林総合研究所について > 国際連携 > 共同研究 > 同位体年輪分析による落葉・常緑熱帯林の気象・生理的環境応答の長期変動履歴の解明
更新日:2019年2月26日
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タイ王国カセサート大学、マレーシア森林研究所
2014~2017年度 JSPS科研費
吉藤 奈津子(森林防災研究領域)
樹幹木部の安定同位体比プロファイル(同位体年輪)には、木部を形成する光合成産物が生成された時の気象や樹木の生理的環境応答が反映されるため、同位体年輪からそれらの履歴を過去に遡って抽出することができると期待されています。しかし、葉内の光合成産物が木部を形成するまでには、樹体内の同化産物プールとの混合やタイムラグなどが生じると考えられるため、実際に、同位体年輪が気象環境と生理的環境応答の季節変化・年々変動をどのように反映しているのか、実態を明らかにする必要があります。
本研究課題では、気象や樹木生長の季節性が異なる二つの東南アジア熱帯林(落葉熱帯季節林・常緑熱帯雨林)を対象に、樹幹木部の炭素・酸素安定同位体比のプロファイル(同位体年)を、年内変動がわかるレベルの高解像度で明らかにします。また、タワー観測から得られる気象・フラックスデータや生理的応答の指標と同位体年輪を比較し、同位体年輪が気象変動や生理的環境応答の履歴をどの程度どのように反映しているのかを明らかにします。
タイの落葉熱帯季節林(チーク人工林)とマレーシアの常緑熱帯雨林の2試験地を対象に、以下の現地調査・解析を実施しました。
(1)樹幹木部の炭素・酸素安定同位体比の高解像度プロファイル(同位体年輪)分析と形成時期の特定
(2)気象やCO2・H2Oフラックスデータとそれらから推定される樹木の生理的環境応答の指標との関係を解析
常緑熱帯雨林サイトの樹木は目視で判別可能な年輪が形成されないため、まず年輪形成年代の推定を行いました。年輪界が目視で判別できる落葉熱帯季節林サイトの樹木については、別途採取した木部組織の定期観察と展葉時期のモニタリングに基づき、一年のどの時期に木部のどの部位が形成されるのかを推定することで、同位体年輪の形成時期を特定しました。炭素安定同位体比(δ13C)プロファイルは光合成産物が形成された時の葉の内的水利用効率を反映しますが、常緑熱帯雨林サイトでの結果では、その土壌水分との関係は、フラックスデータから別途得られた群落レベルでの内的水利用効率を表す指標と土壌水分との関係と異なっており、光合成産物が樹幹木部として同化されるまでの過程やタイムラグ、フラックスデータとの時空間スケールの違いが影響していることが示唆されました。落葉季節林サイトでは、樹幹木部のδ13Cの変動が、その部位の推定形成日からどのくらい前までの内的水利用効率を反映しているのかを調べた結果、その期間は葉のδ13Cが内的水利用効率を反映する期間より長いことが分かりました。その理由として、樹幹木部は葉内の糖プール由来のスクロースと木部の貯蔵でんぷん由来のスクロースの混合により形成されるためであることが考えられました。
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常緑熱帯雨林のサンプル(年輪無し) |
落葉熱帯季節林のサンプル(年輪あり) |
同位体年輪の形成メカニズムを明らかにしていくうえで重要なデータと情報を得ることができました。同位体年輪形成について今後さらに研究が進めば、気象に対する樹木の生理的環境応答の履歴を、過去に遡って明らかにできます。
小西雄登、早嵜浩、松尾奈緒子、吉藤奈津子、高梨聡、藤原健、田中延亮、五十嵐康記、Chatchai Tantasirin (2017)タイ北部落葉性チークの年輪成長及び年輪同位体比に年降水量が与える影響の解明. 中部森林研究、65:43-46.
松尾奈緒子、落合拓朗、梅村匠、鎌倉真依、吉藤奈津子、チャチャイ・タンタシリン、田中延亮、田中克典 (2017)タイ北部の落葉性チークの個葉ガス交換特性に土壌水分が及ぼす影響. 中部森林研究、65:51-54.
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