森林総合研究所について > 国際連携 > 共同研究 > 大径木択伐から始まる熱帯林の土壌劣化パターンと植生回復の関係
更新日:2025年5月1日
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カンボジア王国森林局
2018~2022年度 JSPS科研費
伊藤 江利子(北海道支所)
二酸化炭素の固定および排出削減による気候変動の緩和など、熱帯林の生態系機能の活用に対する期待が高まっています。熱帯林の持続的利用を図る上で、択伐跡地における確実な植生回復は非常に重要です。森林減少が進むカンボジアの常緑林地帯では大径木の違法択伐による森林劣化が問題となっています。違法択伐に特有の条件を組み込んだ植生回復手法の確立が必要とされます。
大径木の違法択伐では、違法択伐であるために伐倒木はその場で製材されます。そのため伐倒木の幹が倒れた場所にはおがくずが大量に供給されます。一方で伐倒木の樹冠が倒れた場所には生葉やツル植物が大量に供給され、そのまま放置されます。違法択伐に特有のこの有機物供給条件の違いが、土壌劣化の加速/緩和を通じて植生回復の可否とどう関係するかを明らかにします。
カンボジア国コンポントム州の森林保護区内に位置する択伐跡地において、土壌調査、落葉分解試験、植生回復調査を行います。大径木択伐後10年が経過した林冠開空地において、択伐に際して林床に再配分された有機物の質的量的な違いが、その後の表層土壌理化学性および林床 ― 土壌有機物分解系に与える影響を検証します。
カンボジア・コンポントム州の常緑樹林地帯において、違法択伐後の林床撹乱と森林再生の関係を明らかにするための研究を行いました。現地調査および土壌分析の結果、土壌劣化を防ぐためには、林床被覆と伐採後の植生回復が重要であることが分かりました。伐採時に林床に供給された大量のおがくずは早期に消失し、林床面を保護する効果は長く続きませんでした。土壌の劣化や伐採作業時に林床の稚樹が損傷することにより、択伐後の森林が以前の状態に回復する可能性は大きくないことが示唆されました。
カンボジアの常緑林において、違法択伐に伴う林床攪乱の空間パターンを明らかにしました。本研究は、伐採時の林床にあらかじめ存在していた稚樹がどれだけ生き残るかが植生回復の重要な要因であることを示しました。このことは、急速な森林開発の進むこの地域の森林の保全と再生を進める上で重要な知見となります。
Eriko ITO, Bora TITH (2023) Litter loss in Cambodian evergreen forests is mainly caused by soil macrofauna feeding. Cambodian Journal of Natural History, 2023(1), 1-7.
Eriko ITO, Naoyuki FURUYA, Yasuhiro OHNUKI, Mitsue SHIBATA, Mamoru KANZAKI, Yukako MONDA, Yoshimi SAKAI, Jumpei TORIYAMA, Takanobu YAGI, Bora TITH, Samkol KETH, Borin TO, Nang KETH, Chandararity LY, Phallaphearaoth OP, Sophal CHANN, Yoshiyuki KIYONO (2023) Spatially heterogeneous natural regeneration of tall evergreen dipterocarps, a target of selective logging. Cambodian Journal of Natural History, 2023(1), 62-71.
Eriko ITO, Naoyuki FURUYA, Yasuhiro OHNUKI, Bora TITH, Samkol KETH (2023) Selective cutting of large-diameter trees in a lowland evergreen forest in central Cambodia. Cambodian Journal of Natural History, 2023(1), 21-33.
Eriko ITO, Bora TITH, Borin TO, Junko NAGAKURA (2024) Physicochemical soil properties following selective cutting of large-diameter trees in a lowland dry evergreen forest in Cambodia. JARQ, 58(4), 215-232.
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