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更新日:2023年6月22日

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ボルネオ熱帯林における伐採インパクトの違いが細根現存量の回復に及ぼす影響

原生林、2005に伐採が行われた旧択伐林、2015年に伐採が行われた新択伐林の林内の様子を写真で示しています。原生林ではフタバガキ科の巨木が存在する一方、2つの択伐林ではマカランガという撹乱を受けた場所を好む樹木が優占しています。また、伐採時に使用された作業道跡には低木が侵入し、徐々に跡がわからなくなってきています。
ボルネオ島の調査対象地における熱帯林の林内の様子

 

1.共同研究機関

サバ州林業局森林研究センター

2.研究期間

2018~2022年度 JSPS科研費

3.責任者

宮本 和樹(森林植生研究領域)

4.研究の背景

マレーシアなどの木材生産林の一部では、過去の無秩序な伐採により森林を荒廃させた反省から、持続可能な森林管理の実践的手法として低インパクト伐採が行われています。低インパクト伐採の効果については、これまで森林地上部を中心に研究されてきました。しかし、伐採の程度の違いが、森林地下部の現存量回復にどのような影響を及ぼすかという問題は、未解明なまま残されています。樹木の細根(ここでは、直径2mm以下のものをさします)は養分・水分の吸収を担うほか、活発に成長し生死を繰り返すことで森林地下部の成長や炭素循環に大きく影響しうる器官です。このことから、伐採の程度の違いが熱帯林の地下部現存量に及ぼす影響を解明するためには、細根現存量の回復プロセスに着目することが重要です。

5.研究の目的

本研究課題では、ボルネオの熱帯原生林と伐採履歴の異なる森林(旧択伐林と新択伐林)を比較することで、伐採履歴の違いが熱帯林の地上部や地下の細根現存量の回復に及ぼす影響とその要因を明らかにします。

6.研究内容

ボルネオ島の低地熱帯林において伐採履歴の違いが森林地上部と細根現存量の回復に及ぼす影響を明らかにするため、マレーシア・サバ州のマリアウベイスン森林保護区の原生林と、その周辺地域で過去に伐採が行われた森林を対象に、熱帯原生林と伐採の履歴が異なる森林を比較するデザインで、以下のような項目を調べました。

(1)地上部の伐採の程度と回復状況:樹木サイズ分布、樹木動態(成長と死亡)、地上部現存量
(2)地下部の細根の回復状況:細根(直径2mm未満の根)の現存量と生産速度
 保護区周辺部の伐採が行われた森林では、2005年と2015年に伐採が行われた場所を調査地として選定しました。

7.得られた研究成果

地上部現存量は、原生林>旧択伐林>新択伐林の順に高くなりました(図)。新択伐林では全体的に幹直径成長速度が他の森林と比べて高くなっていましたが、特に、最近侵入・定着した先駆種(倒木や伐採などにより開けた場所に侵入・定着する樹種)のマカランガ属の幹直径成長速度が顕著に高くなっていました。一方、旧択伐林の直径成長速度は原生林と同定度に低くなりました。樹木の死亡率は原生林と比べて2つの択伐林で高いことが示されました。マカランガの小径木(幹直径15cm未満)に着目すると、旧択伐林の方が新択伐林と比べて小径木個体が少なく死亡率が高い傾向にあり、更新がうまく進んでいないことが考えられました。

細根の現存量は、地点間のばらつきが大きいため森林間で統計的な差がみられない場合がほとんどでしたが、新択伐では伐採時に使われた作業道の細根現存量が原生林の林内と比べて低い傾向が示されました。また、細根の生産速度については森林間で差がみられませんでした。

以上の結果から、旧択伐林は新択伐林よりも原生林に近い特徴をもち、森林の回復が進んでいることが示されました。旧択伐林では先駆種のマカランガの侵入と定着が落ち着き、今後、他樹種に置き換わっていくことが予想されます。

原生林、旧択伐林、新択伐林で地上部現存量を比較した棒グラフです。原生林では875Mg/ha、旧択伐林では510Mg/ha、新択伐林では265Mg/haとなりました。2つの択伐林ではマカランガも地上部現存量に一部貢献しています。
図. 地上部現存量の比較

8.研究成果の利活用

本研究の成果は、熱帯林の伐採からの回復過程の解明に貢献することが期待されます。本研究課題で得られた成果を、共同研究機関であるサバ州林業局と共有し、同局が目指す持続可能な森林管理に貢献します。

9.研究論文

宮本和樹、相場慎一郎(北海道大学)、青柳亮太(学振PD)、Reuben Nilus(サバ州林業局森林研究センター). ボルネオ熱帯林における伐採が樹種組成と細根現存量に及ぼす影響. 日本生態学会全国大会講演要旨、67: P2-PC-204. 2020年3月.

宮本和樹、相場慎一郎(北海道大学)、青柳亮太(学振PD)、Reuben Nilus(サバ州林業局森林研究センター). ボルネオ島の原生林と伐採林における森林構造と種組成の比較. 日本生態学会大会講演要旨、68: P2-124. 2021年3月.

MIYAMOTO Kazuki(宮本和樹)、AIBA Shin-ichiro(相場慎一郎・北海道大学)、AOYAGI Ryota(青柳亮太・学振PD)、Reuben Nilus(サバ州林業局森林研究センター). Distribution characteristics of pioneer tree species in selectively logged forests in Borneo. (ボルネオ島の択伐林における先駆樹種の分布特性) . 日本熱帯生態学会年次大会口頭発表要旨集、31:A17. 2021年6月.

MIYAMOTO Kazuki(宮本和樹)、AIBA Shin-ichiro(相場慎一郎・北海道大学)、AOYAGI Ryota(青柳亮太・学振PD)、Reuben Nilus(サバ州林業局森林研究センター). Comparison of tree dynamics in tropical lowland forests with different logging histories. (異なる伐採履歴をもつ低地熱帯林における樹木動態の比較). 日本生態学会大会講演要旨、70: P2-081. 2023年3月.

 

 

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