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更新日:2020年9月8日

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衛星画像から熱帯雨林の生物多様性を推定するモデルの構築

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1.共同研究機関

インドネシア科学院生物学研究所、東クタイ農科大学

2.研究期間

2014~2017年度 JSPS科研費

3.責任者

上田 明良(九州支所)

4.研究の背景

森林の消失・荒廃のため島状に点在している熱帯雨林に生息する生物の多様性保全は火急の問題です。しかし、保全対象域は広大なうえ、アクセスが困難な場所が多いので、全域を調査して、得られたデータから生態系修復をめざした森林管理を効率的に行うことは不可能です。
一方、近年の衛星画像等を用いたリモートセンシング技術の発展は目をみはるものがあります。この技術を応用して、画像から生物多様性を推定することができれば、広域を対象とした森林管理を効率的に行うことが可能となります。熱帯雨林の生物多様性保全を行う上で、衛星画像データから生物多様性を評価する技術の確立が重要視されているのです。

5.研究の目的

衛星画像から熱帯雨林の生物多様性を推定する技術の確立の第一歩として、インドネシア東カリマンタン州バリクパパン市北部にあるスンガイワイン保護林内の様々な程度に荒廃した森林において、1)衛星画像をもとに選定した地点で植生データと昆虫の多様性データの収集を行い、2)得られたデータをもとに、衛星画像から得た植生景観変数で多様性を推定するモデルを作成し、どのようなことが、衛星画像から推定可能かを検証する、ことを目的としました。

6.研究内容

樹木の多様性データとして、さまざまな場所に半径11.3m円(0.04ha)の調査プロットを設け、地上高約1.2mでの太さが10cm以上の樹木全ての直径を測定し、樹種を記録しました。また、プロットの内で最も高い樹木の高さをバーテックスという機器で測定しました。

コガネムシの仲間のうち糞虫と呼ばれるグループは、熱帯雨林の状態を代弁する優れた指標種として知られています。そこで、魚肉または人糞を誘引餌(ベイト)とした落とし穴(ピットフォール)トラップを様々な場所に設置して、5日間糞虫を捕獲しました。

昆虫などの節足動物に寄生する寄生蜂は、森林内に生息する節足動物の多様性を代弁する優れた指標種として知られています。そこで、様々な場所において、虫採り網(捕虫網)を振って、周辺の下層植生をたたくようにして歩きまわり、網に捕獲された昆虫を回収する方法(すくい取り法・スウィーピング法)で寄生蜂を捕獲しました。各調査地で30回振りを1単位とし、これを12回繰り返しました。

衛星画像については衛星Landsat8とSpot5が撮影した最も雲の少ない画像を探索しました。各衛星のセンサーがもついくつかのバンド(波長域)の反射率および、各反射率から算出される指数として、NDVI(正規化植生指数)、GNDVI(可視緑を用いた正規化植生指数)、タッセルドキャップ変換(Tasseled Cap Transformation:TC)の第1軸値(明るさに対応)、第2軸値(緑葉の多さに対応)、第3軸値(湿潤度に対応)を求めました。各バンドの反射率および各指数と、樹木、糞虫、寄生蜂の多様性データの相関関係を解析し、これに一般化線形モデルを適用して、反射率・指数を説明変数とする多様性推定式を求めました。

7.得られた研究成果

森林の劣化の程度の指標として、樹木の高さ・太さや、劣化した森林に多い先駆樹種の割合について検討したところ、最大樹高とTC1軸値(明るさ)、最大胸高直径(太さ)と緑(波長525-600nm)の反射率、および劣化林に多い先駆樹種の割合と短波長赤外(2100-2300nm)の反射率に明確な相関がみられました。これらのことから、衛星画像から森林の成熟度を推定することが可能と考えられました。

糞虫については、ボルネオ島固有、あるいはスンダランド(マレー半島、スマトラ島、ジャワ島、ボルネオ島)固有種が多い森林性種の種数が、TC1軸値(明るさ)と明確に相関し、推定式のあてはまりの程度も高いものでした。寄生蜂についても、コマユバチ科の種数が正規化植生指数と明確に相関し、推定式のあてはまりの程度も高いものでした。これらのことから、衛星画像から糞虫の多様性(種数)、特に森林性種の多様性や、コマユバチ科の多様性(種数)の推定が可能と考えられました。

8.研究成果の利活用

今回の成果から、REDD+における生物多様性保全のモニタリング手法として、衛星画像から熱帯雨林の成熟程度や糞虫と寄生蜂の生物多様性を推定するモデルの開発への糸口をつかむことができました。今後、たとえば東カリマンタン州全域といったより広範囲な地域で、様々な生物を対象に調査を行い、モデルの精度をあげる必要があります。将来的には、本研究の成果を礎にして、全世界の熱帯雨林の生物多様性を現地調査なしに衛星画像から推定することが可能になれば、消失・荒廃のため島状に点在している熱帯雨林の生態系修復をめざした森林管理を効率的に行うことが可能となります。

9.研究論文

Ueda A, Dwibadra D, Noerdjito WA, Kon M, Fukuyama K (2015) Comparison of baits and types of pitfall traps for capturing dung and carrion scarabaeoid beetles in East Kalimantan. Bull For Forest Prod Res Inst 14: 15-28.

Ueda A, Dwibadra D, Noerdjito WA, Sugiarto, Kon M, Ochi T, Takahashi M, Fukuyama K (2015) Effect of habitat transformation from grassland to Acacia mangium plantation on dung beetle assemblage in East Kalimantan, Indonesia. J Insect Conserv 19: 765-780.

Ueda A, Dwibadra D, Noerdjito WA, Sugiarto, Kon M, Ochi T, Takahashi M, Igarashi T, Fukuyama K (2015) Buffer zones for placing baited traps in grasslands bordering forests and availability of riparian reserves of trees in grasslands: A preliminary study for dung beetle assemblages in East Kalimantan, Indonesia. Bull For Forest Prod Res Inst 14: 125-134.

Ueda A, Dwibadra D, Noerdjito WA, Sugiarto, Kon M, Ochi T, Takahashi M, Igarashi T, Fukuyama K (2015) Effects of distance from devastated forests and topography on dung beetle assemblages in burned forests of East Kalimantan, Indonesia. Bull For Forest Prod Res Inst 14: 135-144.

上田明良, Noerdjito WA, Dwibadra D, Sugiarto (2016) 熱帯草原の森林化が糞虫群集に与える影響. 昆虫と自然51(5): 16-20.

Ueda A, Dwibadra D, Noerdjito WA, Sugiarto, Kon M, Ochi T, Takahashi M, Fukuyama K (2017) List of dung beetles (Coleoptera : Coprophagous group of Scarabaeoidea) collected in lowland near Balikpapan, East Kalimantan, Indonesia. Bull For Forest Prod Res Inst 16: 109-119.

Ochi T, Kon M, Ueda A (2018) Notes on the Coprophagous Scarab-beetles (Coleoptera, Scarabaeidae) from Southeast Asia XXX. A new Onthophagus species from Borneo. Elytra, Tokyo, New Series 8: 369-372

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