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更新日:2019年2月26日

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東南アジアの熱帯山地林と低地熱帯雨林樹木の高温・乾燥耐性の解明

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1.共同研究機関

マレーシアプトラ大学、サラワク州森林局、シンガポール南洋理工大学、高知大学

2.研究期間

2016~2018年度 JSPS科研費

3.責任者

田中 憲蔵(植物生態研究領域)

4.研究の背景

東南アジア熱帯域では、気候変動の影響によって高温・乾燥化が進行し、森林動態や生物多様性が大きく変化する可能性があります。しかし、樹木の高温・乾燥応答に関する研究例は、東南アジアの低地熱帯雨林や熱帯山地林では限られ統一的な解釈がなされていません。さらに、熱帯樹木の高温耐性についての知見は少なく、東南アジアでは数種のフタバガキ科樹木の光合成の温度可塑性が小さいという報告がある程度で良く分かっていません。これら基礎的な樹木の高温・乾燥耐性に関する情報の不足は、今後の熱帯林の持続的な維持・管理や生態系修復・再生にとって重大な問題となるため本課題を遂行する必要があります。

5.研究の目的

本課題は、特に気候変動に対する脆弱性が予想される低地熱帯雨林と熱帯山地林を対象とし、操作実験による高温・乾燥に対する生理生態学的応答から、主要樹種の高温・乾燥耐性を定量化することで、気候変動への東南アジア熱帯林の応答予測に貢献することを目的とします。

6.研究内容

低地熱帯雨林はマレーシアとシンガポールで、熱帯山地林はマレーシアを中心に調査しました。低地熱帯雨林では代表的な樹種の苗木について乾燥・高温ストレス耐性を操作実験で解明しました。成木の乾燥耐性については、葉の形態的特徴と光合成や水利用効率など生理的特性との関係から評価し、加えてフタバガキ科の林冠木の乾燥処理実験から土壌の乾燥ストレスへの応答を明らかにしました。また、熱帯雨林と熱帯季節林の樹木の木部の含水率の違いを比較し乾燥ストレスとの関連について考察しました。山地林樹種については、代表的な高木種を選び、低地へのポット苗などの移植・移動処理を中心に同様の耐性の定量化を行いました。

7.得られた研究成果

降雨の遮断実験の様子ボルネオ島の熱帯雨林に生育するフタバガキ科のリュウノウジュの成木の周囲に直径30mの傘を作り、降雨を遮断したところ、葉は土壌の乾燥に素早く反応し浸透調節を行うことでより強い力で乾いた土壌から水を吸い続けました。そのため、午前中は普段と変わらない活発な光合成・蒸散活動を維持できました。午後にはその活動が半分程度に低下しましたが、気孔を完全に閉鎖して光合成を止めることはありませんでした。このように乾燥した環境下でも、水を消費し続ける戦略は、更なる乾燥が進めば限界を迎え枯死する危険性が高く、実際1997年に起こった異常干ばつでは枯死する個体が相次ぎました。一方、苗木の乾燥や高温に対する応答を葉の生理的な機能や形態から評価すると、樹種間でのストレス耐性に大きな差が見られ、ストレス環境下にさらされた際の枯死率の違いに関係していることが分かりました。熱帯林の様々な樹種の葉の形態や木部の含水率を調べたところ、乾燥ストレスが強くなると含水率の増加や沈み込み型の気孔の増加、葉毛密度の増加などが見られ、葉の水利用効率の増加など乾燥耐性の向上に貢献していることが分かりました。このことから、葉の形態などは乾燥ストレス耐性を評価する簡易的な指標になると考えられました。また普段は冷涼な環境に生育している熱帯山地林樹種を低地に移動させると、光合成能力はほとんど変わらないものの、呼吸速度が増加することが要因で成長量が低下することが分かりました。このことは、温暖化が進むことで熱帯山地林樹種の成長量が低下し、低地林樹種との競合が起きた際には不利になることが考えられました。

8.研究成果の利活用

研究から得られた樹種ごとの乾燥や高温に対するストレス耐性能力は、高温や乾燥ストレスが高くなった場合の適切な樹種選択や植栽技術の開発、また気候変動が進行した際の森林の応答をモデル化する際のパラメータとして利活用できます。

9.研究論文

Ichie T, Inoue Y, Takahashi N, Kamiya K & Kenzo T (2016) Ecological distribution of leaf stomata and trichomes among tree species in a Malaysian lowland tropical rain forest. Journal of Plant Research, 129, 625-635.

Kenzo T, Ichie T, Norichika Y, Kamiya K, Nanami S, Igarashi S, Sano M, Yoneda R & Lum S K (2016) Growth and survival of hybrid dipterocarp seedlings in a tropical rain forest fragment in Singapore. Plant Ecology & Diversity, 9, 447-457.

Kenzo T, Iida SI, Shimizu T, Tamai K, Kabeya N, Shimizu A & Chann S (2016) Seasonal and height-related changes in leaf morphological and photosynthetic traits of two dipterocarp species in a dry deciduous forest in Cambodia. Plant Ecology & Diversity, 9, 505-520.

Tanaka-Oda A, Kenzo T, Inoue Y, Yano M, Koba K & Ichie T (2016) Variation in leaf and soil δ15N in diverse tree species in a lowland dipterocarp rainforest, Malaysia. Trees, 30, 509-522.

Inoue Y, Ichie T, Kenzo T, Yoneyama A, Kumagai TO & Nakashizuka T (2017) Effects of rainfall exclusion on leaf gas exchange traits and osmotic adjustment in mature canopy trees of Dryobalanops aromatica (Dipterocarpaceae) in a Malaysian tropical rain forest. Tree Physiology, 37, 1301-1311.

Kenzo T, Sano M, Yoneda R & Chann S (2017) Comparison of wood density and water content between dry evergreen and dry deciduous forest trees in central Cambodia. JARQ, 51, 363-374.

Kenzo T, Kamiya K, Ngo KM, Faizu N, Lum SKY, Igarashi S, Norichika Y & Ichie T (2019) Overlapping flowering periods among Shorea species and high growth performance of hybrid seedlings promote hybridization and introgression in a tropical rainforest of Singapore. Forest Ecology and Management, 435, 38-44.

Kenzo T, Yoneda R, Tanaka-Oda A & Azani MA (2019). Growth performance and leaf ecophysiological traits in three Aquilaria species in Malaysia. New Forests, in press. https://doi.org/10.1007/s11056-018-09693-7

 

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