森林総合研究所について > 国際連携 > 共同研究 > 火災後の永久凍土面の沈下と再上昇で北方林の炭素蓄積機能はどのように変化するか
更新日:2025年7月17日
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アメリカ側:アラスカ大学フェアバンクス校 国際北極圏研究センター(アラスカ州・フェアバンクス市)
カナダ側:ウッドバッファロー国立公園(カナダ北西準州・フォートスミス)、カナダ北西準州 オーロラ調査研究所(カナダ北西準州・イヌヴィク)
日本側:新潟大学 佐渡自然共生科学センター、信州大学 学術研究院 農学系
2022~2024年度 JSPS科研費
松浦 陽次郎(企画部 国際戦略科)
北方林が広がる地域のおよそ7割には、永久凍土が分布しています。これまでは、非凍土域の北方林研究がほとんどでした。北方林で頻発する大規模な森林火災は、広大な範囲を焼き尽くし、森林の現存量に大きな変化をもたらすだけでなく、火災後の凍土面変動(沈下と再上昇)が、更新する森林の構造に大きく影響します。これらの基本的な知見は、気候変動下における北方林生態系の炭素蓄積量の将来予測に不可欠です。
アラスカ内陸部、カナダ北西準州の凍土分布域で、火災後の経過年数が異なる森林を選定し、現存量蓄積、構造変化、凍土面深度を定量化し、森林構造発達の転換時期(自然間引きの法則が崩れる時期)と炭素蓄積量機能の変化を解明します。
アラスカ州フェアバンクス市郊外、カリブポーカークリーク集水域試験地とポーカーフラット実験場、カナダ北西準州のウッドバッファロー国立公園に試験地を設定します。凍土の条件の違いと火災後の経過年数の異なる林分で、現存量、地上部/地下部比率、凍土面深度などを測定します。また、水ストレス影響が濃厚な樹齢期間を安定同位体比から推定し、森林構造発達と炭素蓄積機能の軌跡を推定します。
アラスカ内陸部のクロトウヒが優占していた北向き斜面の火災跡地で、火災から約20年後の凍土面深度と現存量を測定しました。その結果、火災後1年目に約160cmだった凍土面深度は、約20年を経過しても150±35cmにとどまり、凍土面の顕著な上昇(回復)は起きていないことが明らかになりました。一方、地上部の現存量は1ヘクタールあたり33トン(炭素換算で約16トン)に達し、火災から100年ほど経過した老齢林分の約6割にまで回復していました。2022年と2024年のセンサス結果から、地上部現存量の増加速度は1ヘクタールあたり年間4トン(炭素換算で約2トン)と推定され、ここ数年で急速に増加していることが分かりました。
火災から約100年を経た老齢林において、クロトウヒの幹から年輪コアを採取し、過去80〜170年間の肥大成長速度と水ストレスの有無を推定しました。年輪中の炭素および酸素の安定同位体比に顕著な変動は見られず、強い水ストレスの痕跡は確認されませんでした。一方で、肥大成長速度には長期的な変動が見られました(下図)。凍土面が浅い斜面最下部では火災後約40年を境に成長が悪化し始め、斜面下部でも同様の時期から成長が悪かったのに対し、凍土面が深い斜面上部では火災後100年を経た現在でも比較的良好な成長が維持されていることがわかりました。
図 永久凍土上に成育するクロトウヒの肥大成長量(幹の断面積増加量)の長期変動
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