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更新日:2024年6月10日

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衛星画像から広大な熱帯林の生物多様性を推定するモデルの開発と多様性情報の地図化

石灰岩の山に立つ林の写真

1.共同研究機関

東クタイ農科大学(College of Agricultural Science Kutai Timur)、インドネシア共和国

2.研究期間

2019~2023年度 JSPS科研費 国際共同研究加速基金(国際共同研究強化(B))

3.責任者

上田 明良(北海道支所)

4.研究の背景

生物多様性条約では、熱帯林の生物多様性の保全が重要視されていますが、広域調査が困難なため、多様性を広域で明らかにした研究例はありません。一方、地球観測衛星はいくつかの波長域(観測バンド)センサーをもち、各バンドの反射率から様々な変数の計算が可能です。地上での調査で得た多様性データと衛星画像から得た調査地点の変数との関係を解析し、当てはまりのよいモデル式が得られれば、地上調査をしていない場所でも、その場所の変数の値を式に入れれば、多様性を推定することができるようになります。そして、これを地域全体で行い、推定した多様性を地図化します。この方法により効率的な保全計画の策定が可能になると考えられます。しかし、生物多様性について地上調査で得たデータと衛星画像との関係を解析した研究は、ここ数年になって温帯域でわずかに出始めたばかりで、その対象範囲は100km2以下と局所的なものです。そこで、我々は先行研究において、インドネシア共和国東カリマンタン州バリクパパン市北のスンガイワイン保護林とその周辺で、樹木、糞虫、寄生蜂の多様性調査を行い、得られた多様性データと衛星画像データの関係を解析することで、森林の成熟度、糞虫の種数と寄生蜂のひとつコマユバチ科の種数が衛星画像から推定できることを明らかにしました。しかし、この研究結果も局所的なものでしかありません。もっと広い地域、たとえば東カリマンタン州全体の低地林への適用が可能かどうかを明らかにする必要があります

5.研究の目的

本研究の目的は、1)インドネシア共和国東カリマンタン州で、現地大学との協力のもと、簡易で安価な統一プロトコルを用いて動植物データの収集を行い、無償提供されている衛星画像からの変数との関係を解析し、生物多様性を推定するモデルを開発する、2)さらにGISを用いて生物多様性情報を地図化することです。

6.研究内容

樹木調査:規定サイズのプロット内の一定サイズ以上の全樹木のサイズ測定と種同定を行い、森林の成熟度や樹木の多様性を明らかにします。

甲虫類多様性調査:魚肉をベイト(餌)としたピットフォール(落とし穴)トラップによる糞虫(コガネムシ上科食糞群)および地表徘徊性甲虫の捕獲調査を行い、これら甲虫類の多様性を明らかにするとともに、糞虫についてはバイオマスからの生態系サービスの推定を行います。

ハチ類調査:黄色の皿にハチミツを注いだイエローパントラップによる寄生蜂類とハナバチ類の捕獲調査を行い、これらハチ類の多様性を明らかにします。

オランウータンの生息状況調査:主に現地大学教員と学生に樹上の巣の探索および地域住民への聞き取り調査を行ってもらい、生息域データを収集します。

衛星画像の探索と解析、およびモデルの構築と生物多様性推定値の地図化:東カリマンタン州内の雲の少ない衛星画像を探索・収集し、広域レベルの雲なしモザイク画像を作成します。更に正規化植生指数や主成分分析(PCA)の各軸値など植生に関係の深い指標値を計算します。地上調査から得られる動植物の生物多様性指標と衛星画像指標値との関係性を統計的に評価し、関係性の高い衛星画像指標値を用いて生物多様性評価モデルを作成します。作成したモデルに広域レベルの画像指標値を入れて計算し、推定値から生物多様性の状態を広域で表す地図を作成します。

7.得られた研究成果

新型コロナの影響によって、3年間行う予定の多様性データの取得は、2年間しか行えませんでした。得られた生物多様性データを解析したところ、樹木の種数と糞虫の種数・捕獲数は健全林(原生的天然林)>二次林>ゴム園>油ヤシ(オイルパーム)園≒草地の順でした。糞虫の群集構造は大きく健全林、ゴム/油ヤシ園、草地の3つに別れ、二次林は健全林に近い群集とゴム/油ヤシ園に近い群集に別れました。他の徘徊性甲虫類はゴム園と草地で多く、ハチ類の種数は健全林、二次林と草地で多いことがわかりました。オランウータンは健全林でしか記録されませんでした。これらの多様性データを目的変数とした数式モデルに用いる説明変数の算出に、2023年1月1日から12月31日に撮影されたSentinel2衛星画像(Level2A)を用いました。調査地域を対象に、雲量60%以下の画像の中央値を使ったモザイク画像をGoogleEarthEngine上で生成したものを取得して、12の観測バンド値(B1〜B12の反射率)とバンド値から計算される各種指数を算出しました。また、Sentinel2の各バンドの解像度(ピクセル)は10〜60mで、それに合わせて調査プロットから東西南北に1ピクセルずつ大きくしたサイズの各指数の平均値を170×170mサイズまで算出しました。次に、生物多様性地上データと衛星画像データの組み合わせのなかから、生物多様性を推定する最適数式モデルを組み立て、予測値と実測値の相関が強かった樹木の最大樹高、糞虫類の種数等の広域地図化を行いました(図1)。

数式モデルを用いて作成した生物多様性推定地図の一部(東カリマンタン州サンガタ市周辺)
図1:数式モデルを用いて作成した生物多様性推定地図の一部(東カリマンタン州サンガタ市周辺)。左:最大樹高、右:糞虫類の種数。緑色が濃いほど樹高が高く、糞虫の種数が多い。オレンジ色部のほとんどは石炭露天掘り地で、他に川、道路、市街地、草地も含む。

8.研究成果の利活用

本研究の成果は、保護林の設定等、東カリマンタン州の生物多様性保全に向けた施策に貢献します。

9.研究論文

Sakai A, Arbain, Sugiarto, Rahmawati K, Mirmanto E, Takahashi M, Ueda A (2022) Composition and diversity of tree species after fire disturbance in a lowland tropical forest in East Kalimantan, Indonesia. Biodiversitas 23: 1576-1587.

Ueda A, Dwibadra D, Kahono S, Sugiarto, Ochi T, Kon M (2022) Atlas of dung beetles collected in the Sungai Wain Protection Forest and its surroundings in the lowlands of Borneo. Bulletin of FFPRI 21: 165-192.

上田明良、滝 久智、槇原 寛(2023)新種の宝庫、東カリマンタン低地林. 森林技術、970: 26-30.

大木の前で2人の人が立っている写真
東クタイ農科大学演習林内の大木

地面に掘った穴に直径5cmくらいのプラスチックカップが浮くようにセットされた写真
魚肉を誘引餌に用いたピットフォールトラップ

 

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