森林総合研究所について > 国際連携 > 共同研究 > アマゾン熱帯林における低インパクト型択伐施業の可能性:樹種の成長特性に基づく検証
更新日:2019年2月26日
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国際農林水産業研究センター(JIRCAS)(分担)、京都大学(分担)、高知大学(連携協力)、ブラジル国立アマゾン研究所(INPA)
2016~2018年度 JSPS科研費
梶本 卓也(東北支所)
森林破壊が進む南米アマゾンの熱帯林では、森林を持続的に管理、利用する方策として、低インパクト型の択伐施業(RIL: Reduced Impact Logging)が期待されています。このRILでは、伐採率や再び伐採するまでの回帰年数など、施業の基準が細かく設定されます。そうした施業基準が、森林の炭素貯蔵や環境保全の観点とともに、木材生産の持続性を確保する点からも有効かどうか検証するためには、森林全体の樹木バイオマスに加えて、択伐対象となる樹種ごとに個体レベルの成長速度などを指標にして評価する必要があります。しかし、これまでアマゾン中央部の森林については、こうした観点からRILの有効性を実証的に研究した例はありませんでした。
この研究課題では、中央アマゾンの民間会社が経営する択伐施業地を試験地にして、そこで適用されている施業基準が、森林の炭素蓄積量維持と木材生産の持続性の両面においてどの程度達成可能なのか、毎木調査や個体の肥大成長速度の測定データをもとに検証しました。
現地調査は、アマゾナス州マナウス市近郊の天然林(共同研究期間INPAの試験地)と、東方に位置するイタコアチアラ市近くの択伐施業地で行いました。調査や試料の採取、解析は、国立アマゾン研究所の研究グループと共同で実施しました。
択伐施業地では、複数の固定プロットで毎木調査を繰り返し、択伐後の地上部バイオマスの回復過程を復元しました。天然林試験地では、伐採対象5樹種に絞ってデンデロバンドを用いて肥大成長量を測定しました。さらに、両試験地では幾つかの樹種を対象に幹材試料を採取して、熱帯林ではまだ確立されていない年輪構造や安定同位体比(酸素、炭素)を解析して個体の肥大成長速度を推定する手法の開発にも取り組みました。
択伐後の経過年数と林分地上部バイオマス(AGB)の関係からは、バイオマスは伐採後10~15年までは順調に増加し、10数年でもとのレベルに回復すると予測できました。肥大成長の季節変化は、雨季よりも乾季(5~8月)に成長が低下する個体が多いものの、同じ樹種でも個体差が大きく、その原因はよくわかりませんでした。また、年間の肥大成長速度も個体差が大きいものの、一部の樹種では直径成長速度は2~3 mm/y程度あることがわかりました。この平均成長速度と森林の直径頻度分布をもとに、択伐後に残存した個体のうち、次の伐採時期(25年後)にはどの程度伐採が許容される直径(50 cm)以上に到達できるか試算したところ、初回の伐採本数程度は十分到達可能なことがわかりました。
以上の結果から、この択伐施業地で適用される施業基準については、伐採後の回帰年数(25年)内でバイオマス(樹木炭素量)は十分回復可能なこと、また伐採対象樹種の一部については、この回帰年数で木材生産も持続的に実施できる可能性が示されました。
本研究で得られた択伐施業後の森林バイオマスの回復過程に関する結果やその基になるデータは、今後、アマゾンの熱帯林で炭素放出を抑制し、持続的な森林施業や管理を進める際には、科学的な根拠として活用することが期待されます。
石塚森吉、澤田義人、諏訪錬平、梶本卓也、遠藤貴宏、沢田治雄(2016)ブラジル・アマゾンの森林の炭素蓄積量推定の現状とブラジルの参照レベル. 海外の森林と林業、96:10-15.
大谷達也、アドリアーノ・リマ、諏訪錬平、大橋伸太、梶本卓也、ニーロ・ヒグチ、石塚森吉(2016)ブラジル・中央アマゾンの択伐林におけるバイオマスの回復. 海外の森林と林業、96:16-21.
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Higuchi N, Suwa R, Higuchi FG, Lima AJN, Santos J, Noguchi H, Kajimoto T, Ishizuka M (2016) Overview of forest carbon stock study in Amazon State, Brazil. In: Nagy L et al. (eds). Interactions between biosphere, atmosphere, and human land use in the Amazon Basin. Ecological Studies 227, 171-187, Springer.
Otani T, Lima AJN, Suwa R, Amaral MRM, Ohashi S, Pinto ACM, Santos JD, Kajimoto T, Higuchi N, Ishizuka M (2018) Recovery of above-ground tree biomass after moderate selective logging in a central Amazonian forest. iForest-Biogeosciences and Forestry 11(3),352-359.
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