森林総合研究所について > 公開情報 > 交付金プロジェクトの評価 > 平成15年度交付金プロジェクト研究課題評価結果 > 木質建材から放散される揮発性有機化合物の評価と快適性増進効果の解明
更新日:2010年5月11日
ここから本文です。
主査氏名(所属): 海老原 徹(研究管理官・循環利用担当)
担当部署: 複合材料研究領域、樹木化学研究領域、加工技術研究領域
研究期間: 平成14~16年度
1.目的
シックハウス対策として、平成12年12月に旧厚生省により、TVOC(総揮発性有機化合物)の室内濃度の暫定目標値が提示された。 しかし,VOCには毒性の明らかなものと木材の天然成分のように人に対して有用なものがある。そこで,木材からの天然のVOC(テルペン類等)の放散実態や放散後の変化(動態)とそれが人に対して快適性を増進する効果を明らかにし,木材による快適な住空間を創出するための基礎的なデータを整備する。これらのデータは建築基準法やJAS・JIS規格制定時の参考資料になると期待される。
2.当年度研究成果の概要
1)国内外の主要樹種(スギ、ヒノキ、アカマツ、カラマツ、エゾマツ、トドマツ、ヒバ、ナラ、ブナ、ケヤキ、サクラ)について無垢の木材から出るアルデヒド類・VOCをJIS小形チャンバー法により測定した。スギ材から放散される化学物質の主要な成分は、心材・辺材ともにδ-cadinene(40-50%、相対割合)、α-muurolene(12-18%)であった。検出された化学物質の種類は辺材よりも心材のほうが多く、心材のみから検出された物質はisocalamenene、cadina-1(6)4-diene、himachalene、cubenolであった。
ホルムアルデヒドの放散速度は7日後にはほとんどが5μg/m2h以下となった。広葉樹よりも針葉樹でホルムアルデヒド放散が大きかった。表面切削を行うと広葉樹からのホルムアルデヒド放散は多くなったが、アセトアルデヒドは逆に減少した。
2)木質建材から放散されるアセトアルデヒドの発生源の特定するため、集成材用接着剤(ユリア、メラミン・ユリア、フェノール、レゾルシノール、水性高分子・イソシアネート系、及び酢酸ビニル樹脂エマルジョン系接着剤)について、アルデヒド類の放散速度を測定した。硬化が不十分であったフェノール樹脂接着剤及びレゾルシノール樹脂接着剤を除いて、ホルムアルデヒド及びアセトアルデヒドともに、放散速度は5-15μg/m2h以下であり、接着剤が大量のアルデヒド類の発生源ではないことがわかった。
3)主要テルペンであるα-ピネンの吸入が生体に及ぼす影響を脳活動、自律神経活動ならびに主観評価から明らかにした。10あるいは100μl/30lのα-ピネンの吸入は、主観的にやや快適で自然であると感じられていた。生理的には、収縮期血圧ならびに拡張期血圧の有意な低下、脳活動の昂進を認め、α-ピネンの香りを認識することによって生体がリラックスした状態になっていることがわかった。
4)畳中のヒノキならびにヒバ薄板がダニの行動に及ぼす長期的な影響を明らかにした。ダニの行動に関しては、ヒバ単板,ヒノキ単板から揮発する成分によって、ヒバ材では約1年間、ヒノキ材では約3ヶ月間、有意に抑制効果が持続し、揮発性の精油成分がダニの行動に対し特異的に効果を示すことが明らかとなった。
3.当年度の発表業績
4.評価委員氏名(所属)
小野拡邦(東京大学大学院生命農学研究科・教授)
5.評価結果の概要
本プロジェクトは2年目に当たり、上記目的を的確に捉えて検討されていると認める。特に、特殊環境下での精油成分の変質、精油中の単独成分の感性調査、木材乾燥に係わる放散物質の測定など現実を見据えた研究方向に努力していることを評価する。検討に時間を要し目に見える成果が出にくい分野ではあるが、焦らず着実なデータを提供してくれることを期待している。今後は、最終年度へのまとめに入ることが必要であるが、課題の重要性や難度を考慮すると、本プロジェクト終了後も何かの形で継続する必要性を感じる。
6.評価において改善を指摘された事項への対応
最終年度に向けて発表件数を増やすとともに、全体の取りまとめをおこない、行政施策に反映させていく。また、シックハウス対策に係る行政の動向変化を踏まえつつ、問題点を抽出し、今後必要になると予想されるデータの蓄積を行っていく。
お問い合わせ
Copyright © Forest Research and Management Organization. All rights reserved.