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図ー2 エリートツリーから採取した種子によるコンテナ苗の出荷規格と形状比の関係
福島県と静岡県のスギに良く適した立地で、出荷規格が植栽後の成長に及ぼす影響について比較しました。植栽時に形状比が高い苗木もみられましたが、おおむね100 以下に収まっていました。2箇所の事例における出荷規格と形状比の関係は、規格が大きいほど形状比が高い事例(静岡)と関係性が見られない事例(福島)が認められました(図2)。
図ー3 エリートツリーから採取した種子によるコンテナ苗の出荷規格別(上図参照)の形状比と3 成長期後の樹高の関係
3 成長期後において静岡ではほぼすべて生残しているため生残率に出荷規格間差はありませんでしたが、福島では5号規格の生残率が低くなる傾向にありました。形状比と3成長期後の樹高の関係について、形状比によって一部統計的に有意な差がみられましたが、形状比と樹高には一貫した傾向はみられず、いずれの形状比の苗木もほぼ同様に良好な初期成長を示していました(図3)。
図ー4 エリートツリーから採取した種子によるコンテナ苗の出荷規格と3 成長期後の樹高の関係
出荷規格と3成長期後の樹高の関係について、各出荷規格の苗木の中央値は大きい出荷規格で高くなり、一部では統計的に有意な差がみられました。しかし、各規格間の樹高の分布の重なりは大きく、3年間で樹高に大きな差がなくなったと言えます(図4)。今回のような成長に適した立地では大半の個体が3成長期後に下刈りを終了できる2.5m を超える樹高となり、エリートツリーは成長の良い苗木であることが確認されました。
図ー5 施肥濃度別の得苗率( 左) と、それらを構成する苗高、根元直径、根鉢形成率および生残率(右)
島根県でコンテナ苗に移植した芽生えについて、17 通りの元肥の施肥濃度で育苗試験を行いました。育苗終了時の芽生えの生残率、出荷可能な値以上の苗高、根元直径および根鉢形成率から施肥濃度ごとに得苗率を算出し、それぞれを曲線で近似しました(図5)。まず、施肥濃度の上昇に伴い苗高と根元直径が大きくなることで得苗率が向上し、ある濃度を境に生残率が急激に下降した結果、得苗率が低下しました。コンテナ苗育成事業への新規参入者や、最適な施肥濃度を過去に検討していない生産者は、それぞれの育苗環境に適した施肥濃度を検討されるとよいでしょう。
図ー6 夏期平均気温と溶出指数の関係
本研究には様々な地域の試験研究機関が参画しており、各地域でスギコンテナ苗の育成に適した施肥設計を試行しました。その結果、複数機関で、芽生えやセル苗を移植して1成長期育苗すれば出荷規格を満たす苗木を生産することに成功しています。ここで得られた各担当者の経験に基づき、1年生コンテナ苗を育成するためのお勧めの元肥の施肥濃度を集約し、夏季平均気温と肥料の溶出指数(肥料の溶出具合)の関係を調べると、暖かい場所ほど溶出指数が小さい施肥設計となっていました(図6)。緩効性肥料は、同じ製品であっても、暖かい場所ほどより短期間に高濃度に養分が溶出する特性を持っています。この溶出指数と夏季平均気温の関係から、気温が高い地域では、肥料焼けしないように緩効性肥料を少なめに施用している傾向が認められます。
図ー7 積算温度と発芽数の関係
実際の苗木生産事業に近い環境環境において、エリートツリーのスギから採取した同じロットの種子を、全国6機関で3500℃・日の範囲(図7の赤枠)にあり、積算温度から発芽時期を予測可能と考えられました。それぞれの苗木生産現場において、過去の作業日誌と近傍の測候所等の気温データを照合して芽生えが出そろう時期を予測することで、芽生えの移植に投入する人工数の確保を計画的に行うことが可能になるものと考えられました。
図ー8 積算温度と苗高の関係
育苗期間と植物体の成長の関係は、従前から成長曲線へのあてはめによる表現が試行されてきました。しかし、曲線を形作るパラメータの推定には専門的な技術が必要です。本研究では、1年生コンテナ苗の育成において、横軸に積算温度、縦軸に苗高をとると、傾きの異なる2つの直線で苗高の経時変化を表現で、植後の芽生えが積算温度に対して右図のふたつの勾配で伸長することが分かりました(図8)。従って、近傍測候所等の過去の気温のデータから積算温度を算出し、芽生えの高さ移植する日を設定することで成長休止期までに到達できる苗高が推定できると考えられました。なお、現在取得中のデータによると、上記の直線の勾配は、育苗環境、施肥設計、生産された採種園により異なることがわかています。そのためこうした育成スケジュールを策定するためには、公的試験研究機関などと連携して、地域ごとに関係式を明らかにする必要があります。
図ー9 GSSG 施用の有無による植栽した苗木の生残率
造林地での植栽木の活着不良による補植等の追加作業は経営に大きな影響を与えます。育苗時に酸化型グルタチオン(GSSG)を施用した苗木(育苗時○)は、植栽後の生残率が高いことがわかりました。特に育苗時と植栽時にGSSGを施用した場合に生残率が高く、グラフに示した試験地では、生残率は100%でした(図9)。育苗時にGSSG施用しなかった場合は、徐々に生存率が低下しましたが、下刈りまでに雑草木との競争に負けた個体が増加した結果です。
図ー10 GSSG 施用の有無による植栽した苗木の樹高推移
植栽時のGSSG 施用は、生残率だけでなく、樹冠面積、樹高成長にも効果が現れました。生残個体だけの樹高成長量を示すグラフ(図10)ではGSSG 施用によって樹高成長が早いことがわかります。3 年次の樹高の割合をみると、育苗時にGSSG 施用した場合はおよそ7 割以上の個体が150 cm の高さを上回っています(図11)。生残率も確保して確実な成長効果を得るには、育苗時と植栽時のGSSG施用が重要です。今後、確実なGSSG の施用効果を得るためには、地域に応じた様々な立地環境と施用条件の関係の解明が必要となってきます。
図ー11 GSSG 施用の有無による樹高150cm を基準とした3 年次の樹高分布の割合
図ー12 SQI 値に基づく種子品質グレードとプラグ苗高との関係
近赤外分光画像を取得することで種子品質を表す指数であるSQI を知ることができます。このSQI値が低い方が、育苗段階での苗木の平均的な成長速度が早いことがわかりました(図12)。一般的に配布されている種子は右グラフの種子品質グレードA からHが混在しており、成長は大きくばらつきます。また、山行苗のサイズ(苗高、根元直径)も同様にばらつきます。種子のグレード選別を行えば、苗の成長のばらつきを抑えて得苗率をあげることができると期待されます。
エリートツリー21 系統、少花粉6 系統の平均SQI値と平均プラグ苗高の関係を調べると、エリートツリーを母樹とする種子の方が平均的なSQIが低く、苗高は高い傾向でした(図13)。また、上述のプラグ苗の苗高でグレード分けしてコンテナに移植した結果、良いグレードほど一年後のコンテナ苗の高い成長が見込めることが分かりました(図14)。従って、エリートツリー系統を母樹とする種子を用いることで、より効果的な育苗が可能になると期待されます。
図ー13 実生プラグ苗高とSQI 値の関係
図ー14 プラグ苗の苗長に基づく等級(グレード)分けと1 年次秋のコンテナ苗の苗高の関係
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