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更新日:2012年7月11日

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林地土壌の保水・排水特性の斜面位置による違い

問題名:森林生態系における立地環境及び植物相の特性と機能の解明

担当:森林環境部土壌物理研究室 小林政広・加藤正樹・小野寺真一
関西支所土壊研究室 荒木誠
北海道支所土壌研究室 松浦陽次郎

背景と目的

森林の水保全機能の維持,増進に対する社会的要請が高まっている。この機能には,土壌の保水・排水特性が強く関与すると考えられるが,地形,地質,斜面位置などとの関係については未解明な点が多く残されている。本研究では,結晶片岩地域の林地における土壊の保水・排水特性の斜面位置による違いについて検討した。

成果

茨城県常陸太田市の結晶片岩地域のスギ,ヒノキ人工林斜面に試験地を設け,谷線及び側壁斜面の2 系列において, 土壌断面調査を行い土壌表層から下層にかけての水分張力を測定した(図1,図2)。また,各地点の近傍で土壌サンプルを採取し,水分特性試験及び透水試験を行い(図3,図4),水分張力測定データと併せて,蒸発散の影響が少ないと考えられる深度約100cmにおける鉛直方向の水分フラックスを計算した(図5)。

尾根部のA及びEは,乾燥状態にあることが多く,蒸発散の影響による上向きのフラックスが生じることがあった。湧水点に近い谷底部のDは,常に湿潤で豪雨時には地表面まで飽和することがあり,降雨に対するフラックスの応答が最も速く,降雨終了後の減衰は緩やかであった。

急傾斜の側壁斜面のFは,谷底部からの比高が10m以上あるが,湿潤な状態にあることが多く,Dに次いでフラックスの応答が速く,その変動傾向もDに類似していた。土層の薄い側壁斜面では,深度100cm付近の粗孔隙が少なく, 湿潤時の透水係数が小さかった。そのため雨水は,土層の比較的浅い部分を側方流となって斜面下方へ緩やかに排水されると考えられる。

谷頭部のB及びCは,100cm以深では湿潤な状態にあり,降雨に対するフラックスの応答が比較的緩やかであるが,豪雨時のフラックスの最大値が大きく,降雨終了後の減衰はFより速い。土層の厚い谷頭部では,深度100cmにおいても粗孔隙が多く,湿潤時の透水係数が大きかった。そのため雨水は深度3mの基盤面付近まで速やかに鉛直浸透し,基盤面付近に達した後,側方流となって斜面下方へ緩やかに排水されると考えられる。

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図1 試験地の地形
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図2 2系列の縦断面
Nc: 土研式簡易貫入試験器で測定した貫入抵抗
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図3 B,F地点の土壌の水分特性曲線
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図4 B,F地点の透水係数
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図5 鉛直フラックスの変化

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