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森林の分断化によって変わる樹木の交配様式

2016年5月9日掲載

論文名

Effects of forest fragmentation on the mating system of a cool-temperate heterodichogamous tree Acer mono. (森林の分断化が雌雄異熟異型を示す冷温帯構成種イタヤカエデの交配様式に及ぼす影響)

著者(所属)

菊地 賢(森林遺伝研究領域)、柴田 銃江(森林植生研究領域)、田中 浩(研究担当理事)

掲載誌

Global Ecology and Conservation 3, 789–801, April 2016, DOI:10.1016/j.gecco.2015.04.005(外部サイトへリンク)

内容紹介

生育地の著しい分断化は、樹木集団の存続に悪影響を与えます。例えば分断化により、花粉の媒介が阻害されると、種子生産の低下、自殖の増加、次世代の遺伝的多様性の減少といった影響が心配されます。

私たちは、茨城県と福島県にまたがるブナ天然林で、虫媒花のイタヤカエデを対象に、連続的な天然林が広がる保護林と、天然林が尾根や谷筋に帯状に残された保残帯とで比較することで、森林の分断化が、昆虫による花粉媒介とその結果としての種子生産や遺伝的多様性にどのような影響を与えるか、DNA解析によって調べました。

その結果、森林の分断化にともなう個体の孤立化が、種子生産量を低下させることが分かりました。また、保護林のイタヤカエデは自家受粉による種子の割合(自殖率)が10%程度と低いですが、孤立化によって自殖率は約2倍に増加しました。一方、種子の遺伝的多様性には低下が見られませんでした。これは300m以上離れた花粉親からの遠距離の送粉が遺伝的多様性の維持に寄与していると考えられ、分断化の規模がさらに大きくなると遺伝的多様性は減少していくと予想されます。

林業地域においても、人工林が天然林を過度に分断化して生物多様性を脅かさないよう、適正な森林配置を考えることが求められます。本研究は、このような生物多様性の保全に配慮した森林管理を行うための基本的な知見となります。

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