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2016年5月13日掲載
論文名 |
Nitrogen leaching from surface soil in a temperate mixed forest subject to intensive deer grazing (ニホンジカによる強度の採食を受けた針広混交林における表層土壌からの窒素リーチング) |
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著者(所属) |
古澤 仁美(立地環境研究領域)、日野 輝明(名城大学)、高橋 裕史(関西支所)、金子 真司(震災復興・放射性物質研究拠点) |
掲載誌 |
Landscape and Ecological Engineering、2016年4月オンライン、Springer Japan・The International Consortium of Landscape and Ecological Engineering (ICLEE)、 |
内容紹介 |
日本の各地でニホンジカが増えています。ニホンジカが森林の下草を食べて少なくしたり裸地化させたりすると、養分の貯蔵庫である土壌や落葉落枝(リター)自体が移動しやすくなって養分が森林から渓流へ出ていく危険性が増すことが以前から指摘されていました。しかし、それに加えて、土壌中を移動する水によって運ばれる養分の動きにも影響を与えることが分かりました。 今回、奈良県大台ケ原山の森林で、森林生態系の主要養分である窒素の土壌中の動きに注目して、ニホンジカによる林床のミヤコザサの食害の影響を調べました。ニホンジカに食べられると、ミヤコザサが吸収する窒素量は減りますが、水に溶けやすく植物が吸収しやすい無機態窒素が土壌表層で多く生産されるようになりました。これは、食害でミヤコザサの葉より茎の部分(稈)が大きく減るために、リター中の落葉の割合が落稈より増え、より多くの窒素が含まれた落葉がより多く土壌に加わるためです。これらの結果、土壌表層で植物に使われずに余る無機態窒素量が多くなり、水に溶けて表層から下層へ運ばれる無機態窒素の量が増えたことが確認されました。シカの食害によって窒素が水に運ばれて土壌表層から失われやすくなるといえます。現時点では土壌表層に貯まっている窒素全体量は低下していませんが、窒素が水に溶けて運ばれやすい状況が長期間続くと植物が利用可能な養分が減る可能性もあり、森林生態系への影響が懸念されます。 |
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