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ウイルスが幼若ホルモンを合成する酵素を作って昆虫の発育を操作

2018年3月29日掲載

論文名

A virus carries a gene encoding juvenile hormone acid methyltransferase, a key regulatory enzyme in insect metamorphosis(ウイルスが昆虫の変態を制御する幼若ホルモン酸メチル基転移酵素遺伝子を持っている)

著者(所属)

高務 淳(森林昆虫研究領域)、仲井 まどか(東京農工大学)、篠田 徹郎(農研機構)

掲載誌

Scientific Reports、7(1):13522、October 2017、DOI:10.1038/s41598-017-14059-8(外部サイトへリンク)

内容紹介

森林害虫が発生した場合、その防除に使用する薬剤については人や環境への安全性を考慮する必要があります。昆虫が発育の途中で幼虫から蛹、成虫へと形を変えることを変態と言いますが、その仕組みは脊椎動物の発育とは大きく異なります。そのため、昆虫に特異的な発育の仕組みを妨げることができれば、昆虫だけに有効な薬剤の開発につながるでしょう。昆虫の発育には幼虫の状態を維持する幼若ホルモン等が関わっており、そのうちの幼若ホルモン合成経路(注1)は昆虫にしか存在しません。

今回、昆虫に病気を引き起こすウイルスである昆虫ポックスウイルス(注2)が、幼若ホルモンを合成する酵素を作ることを世界で初めて明らかにしました。このウイルスの感染を受けた幼虫の体内では、ウイルスの遺伝子の働きにより幼若ホルモン合成酵素が作られ、それが昆虫の持つ幼若ホルモン合成経路の分子を材料にして幼若ホルモンを合成します。そのため、幼虫体内の幼若ホルモン濃度は著しく高まり、本来なら蛹へと変態するはずの幼虫は、蛹になれずに幼虫のまま死んでしまいます。つまりこのウイルスは、昆虫の幼若ホルモン合成経路を操作することで、昆虫の正常な発育を妨げるのです。

今回の成果は、幼若ホルモンの合成に不可欠な幼若ホルモン合成酵素の基本構造の解明に役立ち、昆虫以外の生物には無害な幼若ホルモン合成阻害剤という新たな薬剤の開発につながるものと期待されます。

注1)幼若ホルモン合成経路:メバロン酸を出発物質として幼若ホルモンを合成する経路。最終段階で、幼若ホルモン酸が修飾され、幼若ホルモンが合成されます。

注2)昆虫ポックスウイルス:ポックスウイルス科のウイルスで、昆虫に感染します。チョウやバッタ、甲虫など多くの昆虫から分離されています。

 

写真1:昆虫ポックスウイルス 

写真1:昆虫ポックスウイルス

 

図1:本研究のイメージ
図1:本研究のイメージ

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