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光合成の代謝系における針葉樹の特異性が明らかに

2018年7月9日掲載

論文名

Low assimilation efficiency of photorespiratory ammonia in conifer leaves(針葉樹の葉は光呼吸で発生したアンモニアの同化効率が低い)

著者(所属)

宮澤 真一・西口 満(樹木分子遺伝研究領域)、二村 典宏(元樹木分子遺伝研究領域)、遊川 知久(国立科学博物館・筑波実験植物園)、宮尾 光恵(東北大学)、丸山 毅(企画部)、河原 孝行(北海道支所)

掲載誌

Journal of Plant Research、Springer、2018年6月、DOI: 10.1007/s10265-018-1049-2(外部サイトへリンク)

内容紹介

植物は、二酸化炭素を吸収し、光合成により同化注1)します。光合成は複雑な反応からなっており、その中には、同化した二酸化炭素やアンモニアを発生する゛光呼吸”という代謝系が含まれます。

定説では、光呼吸において発生したアンモニアは、葉緑体注2)にあるグルタミン合成酵素(GS2)によって直ちに同化されてグルタミンというアミノ酸になり、窒素源として再利用されるとなっています。しかし、針葉樹の1種であるヨーロッパアカマツにはGS2が存在しないとの報告がありました。GS2の欠如が針葉樹に普遍的な特徴なのか、またGS2の欠如によって植物の生理的特性がどのように変わるのかについては、不明のままでした。

そこで、様々な針葉樹の葉についてGS2の有無を解析したところ、全ての種において、細胞質に存在するタイプ(GS1)のみが検出され、GS2は検出されませんでした。さらに、スギやアカマツなどの針葉樹の葉は、作物や広葉樹の葉に比べ、光呼吸で発生したアンモニアの同化効率が非常に低いことがわかりました。針葉樹の葉における低いアンモニア同化効率は、GS2の欠如と関連していると考えられます。

光合成には20種類以上の酵素が関わっており、GS2もその中の一つですが、なぜか針葉樹にはありません。光合成のメカニズムは、広葉樹と針葉樹とでは大きな違いはないと考えられてきましたが、今後、そのメカニズムの見直しが必要といえます。

 

注1)同化:二酸化炭素やアンモニアなどの無機物を、糖やアミノ酸などの有機物に変換する反応。

注2)葉緑体:細胞内小器官のひとつ。同化を行うための様々な酵素を含んでいる。

 

 図(上):広葉樹の光合成と針葉樹の光合成との違いを示した模式図

図(上):広葉樹の光合成と針葉樹の光合成との違いを示した模式図。CO2:二酸化炭素、NH3:アンモニア。(下):抗体によるGS1とGS2の検出。スギはGS1のみでGS2が見られない。

 

 

季刊森林総研41号「アンモニアの研究から見えてきた針葉樹の光合成の謎」の図を改変した。

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