研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2018年紹介分 > ぬき伐りで増える熱帯林の枯死有機物

ここから本文です。

ぬき伐りで増える熱帯林の枯死有機物

2018年10月24日掲載

論文名

Effects of large aboveground biomass loss events on the deadwood and litter mass dynamics of seasonal tropical forests in Cambodia. (カンボジアの熱帯季節林における地上部バイオマスの大量損失が枯死木とリターの動態に及ぼす影響)

著者(所属)

清野 嘉之(植物生態研究領域)、伊藤 江利子(北海道支所)、門田 有佳子(京都大学)、鳥山 淳平(九州支所)、SUM Thy(カンボジア環境省)

掲載誌

TROPICS、27(2):33-48、September 2018、DOI: 10.3759/tropics.MS18-05(外部サイトへリンク)

内容紹介

枯死木(立ち枯れ木、倒木)、落葉・落枝など生物の遺体は枯死有機物と総称され、森林を構成する一部分として、森林における物質循環1を担います。熱帯の天然林で有用木のぬき伐りが枯死有機物量に及ぼす影響を調べた例は少なく、とくにインドシナではその実態が明らかではありませんでした。

そこで、カンボジアの熱帯季節林222か所で枯死有機物量の変化を最長10年間調べました。その結果、有用木のぬき伐りにより、死んだ根株や枝が残り、巻き添えで枯れる木もあることから枯死木の量が増加し、落葉・落枝と合わせた枯死有機物の量は増えること、落葉・落枝の量はあまり影響を受けないことが分かりました。また、アメリカやアフリカの熱帯林と比較して、カンボジアの森林の枯死木量は少な目でした。これは枯死木が燃材として住民に採取されたためと考えられました。

枯死有機物量に及ぼすぬき伐りの影響を科学的に評価したこの成果は、インドシナの熱帯季節林のREDDプラス3や持続的管理の推進に役立ちます。

 

1 物質循環:自然界でさまざまな物質が循環的な動態をとることを指していう概念です。炭素循環や窒素循環など元素単位で示されたり、水循環など化合物単位で捉えられたりします。

2 熱帯季節林:一年の間に明らかな乾季をもち、乾季に葉が極端に減る樹種を含む熱帯林です。

3 REDDプラス:伐採や林地転用のような土地利用変化により、森林から大気に二酸化炭素をはじめとする温室効果ガスが放出されます。このガスの放出量を減らす途上国の森林保全の取り組みに経済的利益が生まれるようにする国際的方式の一つです。国連が中心になってルール作りを進めています。


写真:ぬき伐りされた有用木 写真:燃材として住民に利用される枯死木

写真:ぬき伐りされた有用木(左)と燃材として住民に利用される枯死木(右)

 

図:ぬき伐り前後の枯死木の量の変化

図:ぬき伐り前後の枯死木の量の変化

お問い合わせ

所属課室:企画部広報普及科

〒305-8687 茨城県つくば市松の里1

電話番号:029-829-8377

FAX番号:029-873-0844