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木材に足で触ると脳も体もリラックスする

2018年12月3日掲載

論文名

Physiological Effects of Touching the Wood of Hinoki Cypress (Chamaecyparis obtusa) with the Soles of the Feet. (ヒノキ材への足裏接触が及ぼす生理的影響)

著者(所属)

池井 晴美(構造利用研究領域)、宋 チョロン・宮崎 良文(千葉大学環境健康フィールド科学センター)

掲載誌

International Journal of Environmental Research and Public Health、15(10):2135、September 2018、DOI:10.3390/ijerph15102135(外部サイトへリンク)

内容紹介

代表的な内装材である木材は、手触り・足触りに優れていることが経験的に知られています。これまでの研究では、ヒノキ材やナラ材に手で触れると生理的にリラックスすることを明らかにしてきました。しかし、足への接触が及ぼす影響については、これまで検証されていません。そこで本研究では、生理指標として脳活動と自律神経活動を用い、木材への足裏接触がもたらすリラックス効果を明らかにしました。

成人女子大学生19名にヒノキ材へ90秒間足裏接触してもらい、その時の脳活動と自律神経活動を計測しました。脳活動については、「近赤外分光法」と呼ばれる近赤外光を使った測定法注1)により、左右脳前頭前野の血流量を計測しました。脳前頭前野の血流量は、リラックス時に低下することが知られています。自律神経活動については、心拍のゆらぎ注2)を解析し、リラックス時に高まる副交感神経活動とストレス時に高まる交感神経活動に分けて評価しました。

その結果、ヒノキ材への足裏接触は、左右脳前頭前野の血流量を低下させるとともに、副交感神経の活動を高め、交感神経の活動を抑制させることが示されました。つまり、ヒノキ材への足裏接触によって、脳も体もリラックスすることが明らかになりました。

今回の研究によって、これまで知られてきた木材への足裏接触がもたらすリラックス効果が科学的に明らかにされ、「木の良さ」に関する科学的エビデンス(証拠)を示すことができました。引き続き、国内産の木材が五感を介してもたらす生理的リラックス効果に関するデータを蓄積し、国産材の利用促進に貢献したいと考えています。

 

注1) 脳は活動するとき酸素を必要とするため、酸素化ヘモグロビンを多く含む動脈血がその部位に供給されます。「近赤外分光法」は、赤っぽい光である近赤外光を脳内に照射し、戻ってきた光を計測します。血液が沢山あると多くの光が血液によって吸収されるため、戻ってくる光は少なくなります。一方、血液が少ししかないと吸収される光は少ないため、沢山の光が戻ってきます。「近赤外分光法」は、戻ってくる光の強さを測ることによって、血液の濃度を算出し、脳の活動状態を評価する方法です。

注2) 心臓は規則正しく心拍を打っているように思われますが、実際には一拍ごとの心拍間隔はゆらいでおり、そのゆらぎに自律神経活動が関わっています。心拍のゆらぎを周波数解析することにより、リラックス時に高まる副交感神経活動を反映する高周波成分(HF)と、ストレス時に高まる交感神経活動を反映する低周波成分と高周波成分の比(LF/HF)が算出されます。これは「心拍変動性」と呼ばれ、近年、血圧や脈拍数に代わる代表的な自律神経活動計測として主流になっています。


図1:木材への足裏接触が脳前頭前野活動、副交感神経活動、交感神経活動にもたらす効果

図1:木材への足裏接触が脳前頭前野活動、副交感神経活動、交感神経活動にもたらす効果。

 19名の平均値、Int J Environ Res Public Health 15(20)、2135、2018を改変。

*1 酸素化ヘモグロビン濃度が低下すると、血流量が低下し、脳が鎮静化します。

*2 高周波成分(HF)は、リラックス時に高まる副交感神経活動を反映します。

*3 低周波成分と高周波成分の比(LF/HF)は、ストレス時に高まる交感神経活動を反映します。

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