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断片化した熱帯雨林では樹木の雑種化が進行している

2019年2月4日掲載

論文名

Overlapping flowering periods among Shorea species and high growth performance of hybrid seedlings promote hybridization and introgression in a tropical rainforest of Singapore(シンガポールの熱帯雨林におけるサラノキ属樹木の開花時期の重複と雑種実生の高い成長パフォーマンスは雑種化と遺伝子移入を促進させる)

著者(所属)

田中 憲蔵(植物生態研究領域)、上谷 浩一(愛媛大)、Kang Min Ngo(南洋理工大・CTFS)、Nik Faizu(CTFS)、Lum KY Shawn(南洋理工大)、五十嵐 秀一(愛媛大)、則近 由貴・市栄 智明(高知大)

掲載誌

Forest Ecology and Management、435:38-44、Elsevier、March 2019、DOI: 10.1016/j.foreco.2018.12.038(外部サイトへリンク)

内容紹介

東南アジア熱帯雨林は種の多様性が高く、優占するフタバガキ科樹木だけでも約500種が分布します。熱帯雨林では、近縁種同士が雑種を作らない仕組みがあるため、種間の遺伝的独自性が保たれ種の多様性が維持されてきました。しかし、開発により断片化した森林では、フタバガキ科樹木の雑種が高頻度で見つかっています。種を健全に保全するためには、雑種の開花や繁殖能力を調べ、雑種を介した種間での遺伝子の交流(遺伝子汚染)の有無を明らかにすることが不可欠です。

この研究では雑種第一代(F1)の成木の開花期間の観察から、F1と近縁種間で開花期が重複し、その種子にも発芽能力があることを発見しました。また、F1由来の実生の遺伝子を解析したところ、両親種との戻し交配やF1同士の交配など様々な組合せが含まれ、種間で遺伝子の交流が起きることが分かりました。さらに、この実生の成長や生存率は両親種や近縁種より優れていたことから、生存競争に有利であると考えられました。つまり、断片化した熱帯雨林ではフタバガキ科樹木の雑種化が進行し、純粋な種に別種の遺伝子が流入して遺伝子が汚染され、種の独自性が失われる危険があることが分かりました。

これらの知見は、健全な森林の維持に必要な面積の評価など雑種化のリスクを軽減する保全技術の開発につながります。

注)遺伝子汚染:人間活動により近縁な種間で雑種が生じ、戻し交配などを通じて遺伝子が混ざり合うことで元の種の独自性が失われること。遺伝子移入や浸透交雑とも呼ばれる。

(本研究は2018年12月にForest Ecology and Management誌にオンライン公表されました。)

 

写真1:フタバガキ科サラノキ属の雑種と両親種の花(左)と雑種の実生(右)

写真1:フタバガキ科サラノキ属の雑種と両親種の花(左)と雑種の実生(右)
フタバガキ科樹木を含む東南アジア熱帯雨林の樹木の多くは、3~10年間隔で一斉に開花し結実します。開花したサラノキ属雑種の花は両親種であるセラヤサラノキ(Shorea curtisii)とテンバガサラノキ(S.leprosula)との中間的な形をしていました(左)。また、めしべなど繁殖に必要な器官も正常で、種子からは健全な実生が発生しました(右)。

 

 

図1:フタバガキ科サラノキ属の2種類の雑種と両親種を含む近縁種の開花時期
図1:フタバガキ科サラノキ属の2種類の雑種と両親種を含む近縁種の開花時期
フタバガキ科サラノキ属(Shorea)の2種の雑種の開花期は、両親種や近縁種と重複していました。これらの樹種の花粉を運ぶ昆虫も共通なので、両親種との戻し交配や雑種同士の交配などが起こり、雑種を介して複数の種間で遺伝子の交流が進む可能性があります。

 

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