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シイタケ害虫ナガマドキノコバエ類の天敵寄生バチの繁殖生態を解明

2020年12月25日掲載

論文名

Laboratory evaluation of Orthocentrus brachycerus (Hymenoptera: Ichneumonidae), as a potential biological control agent in mushroom cultivation. (キノコ栽培における生物防除資材としての可能性を秘めたシイタケハエヒメバチOrthocentrus brachycerus(ハチ目:ヒメバチ科)の室内評価)

著者(所属)

向井 裕美、北島 博(森林昆虫研究領域)

掲載誌

Journal of Applied Entomology、2020年11月 DOI:10.1111/jen.12843(外部サイトへリンク)

内容紹介

ナガマドキノコバエ類(以下「キノコバエ」)は、菌床シイタケ栽培において被害をもたらす深刻な害虫です。私たちは近年、ナガマドキノコバエ類の幼虫に寄生するシイタケハエヒメバチ(以下「ハチ」)を発見し、実験栽培ハウスのなかでハチの存在がキノコバエの増殖を抑制することを示しました(注)。このハチをキノコバエの天敵として実際の栽培現場で有効に利用するために、本研究ではハチの寄生や産卵に関わる繁殖生態の解明に取り組みました。

ハチの雌は、キノコバエの幼虫を見つけると急いで近寄り、尾部の先端にある針のような構造をした産卵管を突き刺して幼虫の体内に卵を産みつけます(動画1)。キノコバエの幼虫の体内で孵化したハチの幼虫は、キノコバエの幼虫の体の組織を食べて成長し、やがてその幼虫を殺してハチの成虫となります(動画1、写真1)。ハチを多数飼育して実験をした結果、1頭のキノコバエの幼虫から1頭の次世代のハチが出現することを確認しました。さらに、たった1頭の雌バチが15日間の生涯に平均141頭のキノコバエの幼虫に産卵し、その90%にあたる127頭を死亡させ、最終的に81頭の次世代のハチが出現することを明らかにしました。

本研究により、ハチの生涯産卵数やキノコバエに対する潜在的な致死率が明らかになり、キノコバエの被害を受けている栽培ハウスで必要なハチの頭数を試算できるようになりました。今後は、周囲の環境に生息するハチを栽培ハウスに導入するための誘引技術や、ハチの寄生能力をさらに向上させる技術など、ハチを天敵資材として実用化するための研究を推進していきます。

(注)森林総研プレスリリース「シイタケ害虫の新たな天敵を発見―菌床シイタケを脅かすキノコバエをハチが退治する―

 

(本研究は2020年11月にJournal of Applied Entomologyでオンライン公表されました。)



動画1:https://youtu.be/i4uhoJjOfjU(外部サイトへリンク)

ハチがキノコバエの幼虫に産卵する様子と、キノコバエの体内でハチの幼虫が成長する様子。
記載論文のMovie S1とS2を一部改変して使用した。

 

写真1:ハチに寄生されたキノコバエの幼虫の全体写真

写真1:ハチに寄生されたキノコバエの幼虫の全体写真(A及びBの左側)と白破線で囲った部位の拡大図(A及びBの右側)。赤矢印はハチの幼虫の頭部側を示す。各写真中のスケールバー(白実線)は1mmを示す。
記載論文のFig.1を一部改変して使用した。

 

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【研究担当者】
森林総合研究所 森林昆虫研究領域 向井 裕美
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