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オオヤマレンゲの分布の謎が明らかに

2021年2月5日掲載

論文名

Subspecies divergence and pronounced phylogenetic incongruence in the East-Asia-endemic shrub Magnolia sieboldii(東アジア固有低木オオヤマレンゲに見られた亜種間分化および系統的矛盾)

著者(所属)

菊地 賢(北海道支所)、大曽根 陽子(森林総合研究所PD)

掲載誌

Annals of Botany, 127(1), 75-90, Sept 2020 DOI:10.1093/aob/mcaa174(外部サイトへリンク)

内容紹介

登山者に「天女花」として人気のあるオオヤマレンゲは、標高1000~2000mに生育するモクレン属の落葉低木です。亜高山帯に自生することから涼しい場所を好むと思われますが、分布の北限は北関東で、なぜかそれより北方には分布しません。また、オオヤマレンゲは大陸では中国南東部に隔離分布する一方で、近隣の朝鮮半島には亜種のオオバオオヤマレンゲが分布するという、生物地理学的に不思議な分布をしています。そこで、オオヤマレンゲとオオバオオヤマレンゲの系統分化と分布の変遷注)について解析を行なった結果、2つの亜種は300~400万年前頃の古い時代に分化した後、およそ100万年前に交雑し、西日本のオオヤマレンゲ集団にオオバオオヤマレンゲの遺伝子が混じった可能性が高いことが明らかとなりました。また、どちらの亜種も雨の多い地域を好みますが、オオヤマレンゲが北日本に分布しないのは夏に雨が比較的少ない気候を好まないためであること、オオバオオヤマレンゲは冬の乾燥に耐えられるために朝鮮半島に分布しているらしいことも分かりました。一方、どちらの亜種も約7~1万年前の最終氷期には分布域を暖かい南方に大きく変化させるのではなく、低標高域に移動することで生き延びてきたことも分かりました。以上の結果は、日本列島の森林生物相が大陸とも関連しながら進化したことを示すとともに、南北で異なる気候や複雑な地形が森林生物多様性の維持に寄与してきた可能性を示唆するものです。このように生物種の分化過程や多様な生物種が維持される仕組みを解明することは、日本列島の生物多様性の保全に役立つ知見となります。

 

注)系統分化と分布の変遷

同じ生物種でも、隔離分布や環境への適応などが原因となり、亜種などの幾つかの系統に分かれることがあります。このような系統が生まれる過程を系統分化と言います。また、種の分布は歴史的に見て一定ではなく、過去の気候変動に影響され、変化してきたものと考えられます。本研究は、そのような系統分化や分布の変遷について明らかにしたものです。

 

(本研究は、2020年9月にAnnals of Botanyにおいて公表されました。)

 

写真:オオヤマレンゲの花
写真:オオヤマレンゲの花。6月~7月ごろに開花します。

 

図:オオヤマレンゲの系統分化の模式図

図:オオヤマレンゲの系統分化の模式図。オオヤマレンゲとオオバオオヤマレンゲは、古い時代に分化し、その後、氷河期に朝鮮半島と九州が陸橋でつながったときに交雑し、西日本のオオヤマレンゲに遺伝子が混じったと考えられます。

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