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土壌中の微生物に不足する養分を予測するための定説が覆された

2021年10月11日掲載

論文名

Does the ratio of β-1,4-glucosidase to β-1,4-N-acetylglucosaminidase indicate the relative resource allocation of soil microbes to C and N acquisition?(土壌のβ-1,4-グルコシダーゼ活性とβ-1,4-N-アセチルグルコサミニダーゼ活性の比は微生物による炭素・窒素獲得への資源投資配分を表しているのか?)

著者(所属)

森 大喜(九州支所)、青柳 亮太(森林植生研究領域)、北山 兼弘(京都大学)、Jiangming Mo(中国科学院)

掲載誌

Soil Biology and Biochemistry、160: 108363、2021年9月 DOI:10.1016/j.soilbio.2021.108363(外部サイトへリンク)

内容紹介

土壌中の微生物は、落ち葉などの有機物を分解することによって、生態系の“ごみ掃除”と物質の再循環を行っています。彼らは酵素注1)を生産し、有機物を自らが吸収できる形態まで分解することによって、成長に必要な炭素や窒素などの養分注2)を獲得しています。

それでは、ある生態系において、土壌微生物に炭素と窒素のどちらがより不足しているかを知ることはできるのでしょうか?これまでの定説では、BG(炭素を含むが窒素は含まない部分の有機物分解に関わる酵素)とNAG(窒素を含む部分の有機物分解に関わる酵素)の比(BG/NAG)によってこれを知ることができるとされていました(図1)。窒素が不足すると、微生物は窒素を獲得できるNAGをより多く生産するためBG/NAGは低下する一方、炭素不足の状態では逆にBG/NAGは上昇するというわけです。

しかし我々は、NAGは窒素だけでなく同時に炭素の獲得にも使われることから、NAG生産が増加するのは窒素不足の場合に限らない(つまり炭素不足の状態でも炭素獲得のためにNAG生産が増加しうる)と考え、この定説に異を唱えて解析を行いました。定説によれば窒素添加によって窒素不足は解消されBG/NAGは上昇するはずですが、窒素添加前後のBGとNAGの活性を報告している世界中の論文を集めて解析したところ、実際にはそうならないことがわかりました(図2)。本成果によって、過去の研究が見直され、微生物による物質の再循環への理解が進展すると期待されます。

注1)酵素は触媒として機能するタンパク質です。土壌中有機物の分解反応は、主に酵素によって進行します。

注2)正確には炭素はエネルギー源です。

(本研究は2021年9月にSoil Biology and Biochemistryにおいてオンライン公表されました。)

 

図1 土壌中の微生物に不足する養分を予測するための定説

図1 土壌中の微生物に不足する養分を予測するための定説。
窒素が不足する生態系では、微生物はより多くのNAGを生成して窒素獲得力を高めると考えられてきた。

 

図2 BG/NAGに対する窒素添加の影響

図2 BG/NAGに対する窒素添加の影響。
窒素添加前後のBG/NAG(自然対数)をプロットしている。破線は1:1ラインを、赤色はBG/NAGが低下していたデータを示す。定説によれば、窒素添加土壌ではBG/NAGが上昇するはずだが、データを解析してみると半数以上のデータにおいてBG/NAGが低下していた。

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