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木材パルプの製造排液から新しい繊維原料をつくりだす

2022年1月19日掲載

論文名

Lignin valorization through efficient microbial production of β-ketoadipate from industrial black liquor(リグニンの利活用を目的とした、微生物によるパルプ蒸解排液からのβ-ケトアジピン酸の効率的な生産)

著者(所属)

鈴木 悠造・大塚 祐一郎・荒木 拓馬(森林資源化学研究領域)、上村 直史・政井 英司(長岡技術科学大学)、中村 雅哉(森林資源化学研究領域)、片山 義博(環テックス株式会社)

掲載誌

Bioresource Technology, 337:125489, 2021年10月 DOI:10.1016/j.biortech.2021.125489(外部サイトへリンク)

内容紹介

木材は主にセルロース、ヘミセルロース、リグニンという主に3つの成分で構成されています。木材から紙の原料であるパルプを製造する主な方法では、化学処理によりリグニンを除去する工程が必要です。この工程で出される排液には、複雑な化学構造のリグニンから生成する様々な低分子フェノール類が含まれています。組成が複雑なこれらの成分を単一の化合物に集約することができれば、これまで高付加価値な利用が難しかったパルプ製造排液の利用価値を高めることができます。

私たちはこれまでの研究で、これら低分子フェノール類を代謝して、2-ピロン-4,6-ジカルボン酸(PDC)という単一の物質に集約できる組換え微生物を開発してきました。微生物によるリグニン分解過程の中間代謝物であるPDCは、生分解性ポリマーの原料としても利用できることが明らかになっています(注)

今回、私たちはリグニン利用の多様性を広げるために、PDCと同様なリグニン分解過程の中間代謝物であるβ-ケトアジピン酸(KA)に着目しました。KAは合成繊維(ナイロン)の原料であるアジピン酸に類似した化学構造をもち、石油を起源とする繊維原料の代替となりえる化合物です。私たちは種々の低分子フェノール類をKAに集約できる組換え微生物を開発しました。さらに、開発した微生物をもちいて、パルプ製造排液からも直接KAが生産できることも実証しました。今回の成果は、木材成分を総合的に利用する技術の開発に貢献するものです。

(注)過去の研究成果の記事も参照してください。

木材パルプの製造排液からポリマー原料をつくりだす」(2020年8月28日掲載)

 

(本研究は、2021年10月にBioresource Technologyにおいてオンライン公開されました。)

 

図:低分子フェノール類を単一のKAに集約
木材パルプの製造排液に含まれるリグニン由来の低分子フェノール類を単一のKAに集約。

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【研究推進責任者】
森林総合研究所 研究ディレクター 大平 辰朗
【研究担当者】
森林総合研究所 森林資源化学研究領域 鈴木 悠造
【広報担当者】
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