研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2023年紹介分 > マツノマダラカミキリの繁殖を抑制する寄生線虫の系統関係を解明
ここから本文です。
掲載日:2023年6月26日
マツ材線虫病の媒介昆虫マツノマダラカミキリ(以下、マダラ)のみを宿主として、その精巣・卵巣に寄生し繁殖を妨げる線虫Contortylenchus genitalicola(コントルティレンクス・ゲニタリコラ、以下ゲニタリコラ)(写真)は同属の他の種と生理的、生態的特徴が大きく異なっていながらも、やはり近縁の系統関係にあることがDNA分析で分かりました。これは、重要な生物学的特性が想像以上に簡単に進化するということを示す一例となります。これに加えて、得られた培養線虫を用いることにより、ゲニタリコラのマツ材線虫病防除への利用に向けた実験的研究の進展につながることが期待されます。
同属の他の種はすべてキクイムシに寄生し、人工培養ができないのに対して、ゲニタリコラだけはカミキリムシに寄生し、糸状菌を餌とした培地上で培養できるなど、生理、生態的特徴が同属の中でも大きく異なります。さらに、ゲニタリコラは別の種とは一部の形態的特徴も大きく異なっており、系統関係の解明が求められていました。
マツ材線虫病は「マツ枯れ」や「松くい虫」とも呼ばれ、マダラが植物寄生性線虫マツノザイセンチュウを媒介して起こる森林病害です。そこで、主にマダラを対象として、農薬による化学的防除、病原菌・天敵昆虫・寄生線虫などによる生物的防除が行われています。今回の研究で、ゲニタリコラの進化的位置づけが明らかになるとともに、培養株が再分離されたことにより、この線虫を利用してマダラの繁殖を妨害するという生物的防除への新たな展開が期待されます。
(本研究は、Nematologyにおいて2023年5月にオンライン公開されました。)
写真(左):マツノマダラカミキリ成虫。体長は25-30mm程度
写真(右):Contortylenchus genitalicolaの寄生を受けたマツノマダラカミキリ精巣。T:カミキリの精巣; N:大型の寄生態雌線虫。画面中央から右寄りにかけて白く見えるのは小型の寄生態幼虫線虫。精巣の直径が3-4mm程度
お問い合わせ
Copyright © Forest Research and Management Organization. All rights reserved.