研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2024年紹介分 > 多雪地域由来のトドマツ苗木は雪解け直後から根の発達が進む
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掲載日:2024年3月15日
北海道に広く自生するトドマツの苗木の根を雪解け直後から春先にかけて調べた結果、多雪地域として知られる道北産の苗木では、毎年の根の成長が少雪地域の道東産の苗木よりも早い雪解け直後から始まっていることが分かりました。
亜寒帯に分布するドイツトウヒやヨーロッパアカマツなどの針葉樹では根の成長が季節的に早く始まることが知られていましたが、どうして地温が低い季節から根が成長するのか、その意義や生理的なメカニズムについては不明な点が多数あります。本研究では、積雪環境が多様な北海道に広く自生するトドマツの苗木を用いた産地試験※ を北海道立総合研究機構林業試験場の苗畑で行い、苗木の由来産地によって、冬から春にかけた季節の間で、根の成長時期や形態・構造が異なるかどうかを調べました。
その結果、土壌が凍結しにくい多雪地域の苗木では、雪解け直後の4月上旬から春先の5月にかけて、形態や構造の発達が始まろうとしている根端の数が増加しました(図)。また、積雪下の苗木では発達した根が観察されました(写真)。これらの結果は、根が成長する季節性が自生地の冬の環境に応じて遺伝的に決まっていることや、発達した根が冬の低い地温条件でも維持されていることを示唆しており、亜寒帯性針葉樹の根における寒冷適応戦略を解明するための新たな手がかりになりました。
※ 産地試験:生育環境が同じ畑(ほ場)で、産地が異なる樹木を栽培して生残や成長を調べ、遺伝的な特性の違いを評価する試験のこと。
(本研究は、International Journal of Plant Sciencesにおいて2024年1月にオンライン公開されました。)
図:異なる地域に由来する苗木の根端長(左)および根端数(右)の掘り取り時期(雪解け直後:4月、春先:5月)による変化。丸は平均値、エラーバーは標準偏差を示す。
※ 根端長は新たに伸長した白い根の長さを、根端数は白根の数を測定しました。
※ 図は論文中の図を基に作成しました。
写真:積雪下の苗木の掘り取りの様子(左)および苗木の根の様子(右)。
苗木は2021年3月上旬に積雪深約1mの下から掘り取られた。苗木の根のうち、黒三角は発達が始まろうとしている白根の一部を、ピンクの三角は特に発達した白根を示す。
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