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セルロースナノファイバーは液中で、従来の理論とは異なった屈曲性(折れ曲がりやすさ)を示す

掲載日:2024年12月5日

木材由来の新素材であるセルロースナノファイバー(CNF)注1) は、堅くて強く、そして熱を加えても変形しにくいという工業用素材として必要とされる優れた性質を持つ新素材です。この新しい素材であるCNFを実際に工業的に利用するためには、各特性を解析する手法の開発と、製造工程の管理や工業用素材としての品質管理に必要な技術の開発が求められます。

多くのCNFは水に分散した状態で製造されます。そのために、製造工程の管理や素材の品質管理には、水中でのCNFの変形のし易さや、その変形による流動性の変化などの特性を明らかにする必要があります。しかしながら、水に分散したCNFの粘度は非常に低いために、今までの方法では、水中でのCNFの特性を高感度で測定することができませんでした。

本研究では、CNFが分散している低粘度の水を高粘度のグリセリンに置換するという方法と、独自に開発した測定装置を使うことで、水中でのCNFの粘弾性注2) という特性を正確に検出することに成功しました。その結果、CNFの弾性(貯蔵弾性)が、従来の理論では説明できない特徴的な半屈曲性注3) に由来することを初めて明らかにしました。本研究成果は、現在進められているCNFの工業原料化の促進に貢献できると考えています。

注1) CNFは、植物の細胞壁に含まれるセルロース結晶を、水中で機械的な力を加えるなどの処理により取り出した直径数ナノメートルの繊維です。化石資源代替の天然素材として、プラスチックやゴムの強化繊維などとしての利用研究が進められている機能性の新素材です。

注2) コイルバネのように、力を加えると延びて、力を取り除くと元に戻ろうとする性質を弾性といい、また力を加えると変形はするが、力を取り除いても元に戻らない性質を粘性と言います。高分子はこの両方の性質を持つことから粘弾性体と言われます。粘弾性体の弾性(貯蔵弾性)と粘性の比率は、高分子の種類や温度の他に、外から加える力(図1では周波数で示す)の変化によっても異なります。使用環境によっても異なる粘弾性を明らかにすることは、高分子を実際に利用する際には必要とされています。

注3) 乾燥スパゲッティは茹でる前は堅いですが、ゆでることで柔らかくなります。このスパゲッティを高分子に当てはめると、ゆでる前が堅い棒状高分子で、茹で上がって自由に曲がるようになった状態が屈曲性高分子に相当します。半屈曲性高分子とは、この中間の曲がりやすさを示す高分子です。生体高分子には、DNAやアクチンなどの半屈曲性高分子に該当するものが多くあります。

本研究は、Biomacromoleculesにおいて2024年8月に公開されました。)

図1:外から加える力を変化させた時のCNFの弾性係数の変化
図1:外から加える力を変化させた時のCNFの弾性係数の変化

 

  • 論文名
    Viscoelastic and birefringence relaxation of individualized cellulose nanofibers in the dilute and semidilute regions(希薄域及び準希薄域における孤立分散型セルロースナノファイバーの粘弾性および複屈折緩和)
  • 著者名(所属)
    田仲 玲奈(森林資源化学研究領域)、井上 正志(大阪大学)
  • 掲載誌
    Biomacromolecules、25(9)、5718-5728、2024年8月 DOI:10.1021/acs.biomac.4c00038(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 久保 智史
  • 研究担当者
    森林資源化学研究領域 田仲 玲奈

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