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クロマツ苗木の回復の早さは湛水ストレス期間の長さによって決まる

掲載日:2025年5月15日

クロマツ苗木は、夏場に17日間根系が水に浸かった状態でもその後、細根の吸水能力を回復できることが栽培実験から分かりました。津波被害を受けた海岸林の再生現場における、湛水した植栽木の復旧・維持管理に役立つ成果です。

東日本大震災の津波被害地における海岸林再生事業では、根系を発達させるために盛土を造成し、苗木を植栽しました。しかし、盛土では重機の走行に伴う繰り返しの締固めによって、降雨が地下に浸み込まず地表面に水たまりができることがあります。樹木の根が長時間水に浸かっている状態にあると呼吸に必要な酸素が足りなくなり、植栽したクロマツ苗木の成長に悪影響が出ることが心配されます。研究チームは、2年生のクロマツ苗木を用いて7日間(短期間)、17日間(中期間)、32日間(長期間)それぞれ湛水処理(根系が水に浸った状態)を実施し、細根の吸水能力の指標である蒸散速度の変化を、湛水処理していない苗木(対照木)と比較しました。

その結果、湛水処理を実施すると蒸散速度はいずれも低下したものの、短期間と中期間湛水処理した苗木の蒸散速度は、湛水処理を解除した後に速やかに増加し、1ヶ月後には対照木と同等までに回復しました。しかし、長期間湛水処理した苗木では、回復は一部にとどまることが分かりました。さらに新しく細根が伸びた苗木が回復でき、そうでなかった苗木は回復できないことも明らかになりました。

(本研究は、Journal of Forest Researchにおいて2025年1月に公開されました。)

クロマツ苗木の蒸散速度の測定の様子の写真

写真1:クロマツ苗木の蒸散速度の測定の様子

湛水処理前、湛水中、湛水処理を解除した後のクロマツ苗木の蒸散速度の推移の折れ線グラフ

図1:湛水処理前、湛水中、湛水処理を解除した後の蒸散速度の推移。
点線は根系が水に浸かっていない状態、実線は根系が水に浸かっている状態の測定結果を示す。

  • 論文名
    The effects of waterlogging duration on responses of above- and belowground organs of Pinus thunbergii seedlings after the release from waterlogging(滞水期間がクロマツ苗木の滞水解除後の地上部及び地下部の回復に及ぼす影響)
  • 著者名(所属)
    藤田 早紀(森林防災研究領域)、野口 享太郎(立地環境研究領域)、丹下 健(東京大学)
  • 掲載誌
    Journal of Forest Research, 30,200-212, January 2025、 DOI:10.1080/13416979.2025.2459969(外部サイトへリンク)
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 浅野 志穂
  • 研究担当者
    森林防災研究領域 藤田 早紀

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