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更新日:2025年12月24日

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宇宙から熱帯林に生息するフン虫の多様性を地図に描いてみた

掲載日:2025年12月24日

熱帯林環境を評価する指標となりうることが知られているフン虫(糞虫)類*の種数、個体数、バイオマスなどを、衛星画像データから推定する数式モデルを作成し、推定値を地図化できることを世界で初めて示しました。

孤立・分断化が進む熱帯林の生物多様性保全は、人類の喫緊の課題のひとつです。その重要性を示すには、様々な分類群の生物多様性を広域で把握することが必要ですが、実測するには多大な労力と費用がかかります。その代替え方として、地上で測定した多様性データと人工衛星の画像データの関係を解明し、画像データから多様性を推定する数式モデルを作成して推定値を地図化する方法があります。この方法をフン虫類で試みました。この方法を広げれば、世界中の熱帯域のフン虫類の多様性を地図化して把握できるようになるかもしれません。

インドネシア共和国ボルネオ島東部の天然林、約20年前の火事林**、二次林***、植林地とチガヤ草原で2006〜2008年の毎年12月に、同じ方法でフン虫類を捕獲し、多様性データを作成しました。このデータと人工衛星スポット5の画像から得られる様々な指数を10〜270m角のグリッドサイズで計算した価との関係を解析し、多様性を推定する最適数式モデルを作成しました。次に、20×20km内の全ての地点の画像データから、モデルを用いて多様性を推定し、その価を地図にして示しました。その結果の一部を下図に示します。

左図のように森林性種の種数は天然林と火事林内の燃え残った谷筋の林で多く、天然林間で分布が分断されていることがわかりました。ところが、その個体数は谷筋と平行して分布し、火事後再生中の尾根筋で多いこともわかりました(右図)。これは、尾根筋で哺乳類が多いことを示している可能性があります。フン虫類はふんの種類に対する特異性は弱いため、環境変化への適応性が高い一部の森林性種が尾根筋の再生林に多いふんを利用して増加したものと考えることができます。

*コガネムシ上科食糞群に属する甲虫のグループ。主に、動物のふん(糞)や死骸を餌としている。フンコロガシは、フン虫のなかで、ふん玉を転がす生態をもつ種の総称。
**ここでは、原生的な天然林が20年前に火事で焼けた後に再生中の森林を指す。
***ここでは、火入れや伐採など、繰り返し人為の影響を受けた後に再生した森林を指す

熱帯林環境を評価する指標性が高いことで知られるフン虫(糞虫)類の種数や個体数の分布を推定する地図を衛星画像から作成できることを世界で初めて示しました。孤立・分断化が進む熱帯林の生物多様性を多大な労力・費用をかけずに広域的に把握でき、その保全に役立つ成果です。

研究グループは2006〜2008年の各12月、ボルネオ島東部に位置する林野約2万ヘクタールで、フン虫類を捕獲して分布状況を実地調査。これらデータと、衛星画像から得られる正規化植生指数など各種指数との関係を解析して種数、個体数、バイオマス、多様度指数などの多様性を推定する数式モデルを開発し、20キロ四方について多様性分布図を作成しました。その結果、森林を好むフン虫類は天然林と、火事林内に燃え残った谷筋とで多くの種が分布し、天然林間で分布が分断されていることが分かりました。また、全体の種数、バイオマスと多様度指数も同様の傾向がありました。

一方、火事に遭った尾根筋で個体数が多かったことから、餌となるふんを排せつする哺乳類が尾根筋に多いことも示している可能性があります。

 

(本研究は、Journal of Forest Researchにおいて2025年7月に公開されました。)

 

バリクパパン市の地図上にフン虫類の種数と固定数のデータを表す
図:地図化されたバリクパパン市北部20×20km内の森林性フン虫類の推定種数(左図)と個体数(右図)。赤枠内は天然林を示し、火事林はそれらを取り巻くように広がっている。右図の下部や右部にある個体数最大域は水域がエラー表示されたもので、除外できる。

 

筒状のトラップにインドネシアのコガネムシが約20匹捕獲された写真
写真:ピットフォールトラップに捕獲された美麗種Proagoderus schwaneri

 

  • 論文名
    Mapping predicted dung beetle diversity in the lowland tropical forests of Borneo by utilizing indices derived from a satellite image(衛星画像から得られた指標を利用して予測した、ボルネオの低地熱帯林におけるフン虫類多様性の地図化)
  • 著者名(所属)
    上田明良(北海道支所)、伊東宏樹(元北海道支所)、Dhian Dwibadra (Res. Ctr. for Biosys. Evol., Nat. Res. and Innov. Agency, Indonesia (BRIN))、Sih Kahono(Res. Ctr for Appl. Zool., BRIN)、Titis H Syah(East Kutai Agri. Coll. Sch.)、高橋正義(森林管理研究領域)
  • 掲載誌
    Journal of Forest Research,2025年7月
    DOI:10.1080/13416979.2025.2526945(外部サイトへリンク)別ウィンドウで外部サイトへリンク
  • 研究推進責任者
    研究ディレクター 八木橋 勉
  • 研究担当者
    北海道支所 上田 明良

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