研究紹介 > 研究成果 > 研究成果 2025年紹介分 > タスマニア島固有針葉樹の遺伝的多様性に植民地化後の開発は影響せず
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掲載日:2025年12月25日
オーストラリア、タスマニア島の古固有*1)針葉樹ヒューオンパイン(Huon pine)は、植民地時代以降の大規模な伐採や焼失にもかかわらず、遺伝的多様性*2)を維持していることが分かりました。
タスマニア島は過去にオーストラリア大陸と陸続きでしたが、最終氷期の後(約1万年前)に海水面が上昇し、大陸から分かれました。19世紀初頭には植民が始まり、島の開発が進みました。ヒューオンパインはタスマニア島のみに生育する固有の常緑針葉樹で、成長が遅いながら長寿命で2500歳を超えるものもあります。材質が良く耐朽性も高いため、用材として大量に伐採されました。植民地化前に10,600ヘクタールあったヒューオンパイン原生林は、ダム工事や火災、伐採により約10%にまで減少し、現在は伐採が禁止されています。
ヒューオンパインの遺伝的多様性を調べるため、伐採されていない原生林(12地点)と伐採が行われた森林(21地点)から33集団(890個体)の葉を採集しました(図1)。葉からDNAを抽出し、核DNAのSSR*3)及びSNP*4)を用いて遺伝的多様性を比較しました。
その結果、原生林と伐採された森林のヒューオンパインの遺伝的多様性に有意な差はなく、伐採による遺伝的多様性の減少は見られませんでした(図2)。川の流域ごとに遺伝的多様性は違っており、また予想に反して、伐採が行われた低い標高よりも高い標高にあるヒューオンパインの遺伝的多様性が低下していました。これらの結果は、人による乱開発よりもはるか昔の古環境によって作られた遺伝的多様性が優先していることを示しています。
*1) 古固有:昔は広い地域に生息していたが、環境条件の変化などにより現在は狭い地域にのみ生息している状態。
*2) 遺伝的多様性:同じ種の中で個体ごとに遺伝子(DNA)の違いがあること。遺伝的多様性が高い(DNAの違いが多い)ほど、環境の変化に耐えて生き残る可能性が高いとされる。
*3) SSR:単純反復配列。DNA塩基配列中の短い繰り返し配列の長さの違いを利用して各個体を判別しグループ分けする。
*4) SNP:一塩基多型。DNA塩基配列中の1塩基の違いを利用して各個体を判別しグループ分けする。

図1:タスマニア島のヒューオンパイン
(a) 採集地の位置、緑色の丸は原生林の集団、灰色の丸は過去に伐採された集団
(b) 採集地の原生林の航空写真(撮影:Rob Blakers)

図2:原生林および伐採された林のヒューオンパインの遺伝的多様性の比較
Ho、Ar、PArの各指標において統計的に有意な違いがないことから、伐採による遺伝的多様性への影響は見られなかった。nSSR:核DNAのSSR、MIG-seq:SNP、Ho:観察されたヘテロ接合度(変化が見られる遺伝子数の割合)、Ar:対立遺伝子多様度(同じ遺伝子内に生じた様々な変化の割合)、PAr:固有対立遺伝子多様度(特定の集団でのみ見られるAr)。
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