今月の自然探訪
更新日:2025年10月2日
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一般的にきのこ狩りのシーズンは、梅雨が明ける6月から7月と秋に入って9月から11月となっています。秋の訪れにより気温が適度に下がるときのこは発生するのですが、気象庁の長期予報によると、この原稿を執筆している8月時点で今年秋の気温は例年より高いと予測されており、きのこ狩りシーズンの訪れは遅くなるかもしれません。また、気温が下がらないため、鍋物といったきのこをたっぷり使う料理の出番は例年より遅くなりそうです。
野生きのこが発生する時期は気温によって左右されますが、スーパーの店頭に並んでいるほとんどのきのこは空調が整った施設で栽培しているため、季節を問わず手に入れることが出来ます。きのこの栽培は、発生したきのこを支える土台や水分調整等の役割を担う木粉に、生長を促すコメヌカ等の栄養剤を混ぜた培地を作るところから始まります(写真1)。栽培瓶に詰めた培地へきのこの元を植え付け、温度と湿度を調整した培養室にて育てた後(写真2)、発生室にてきのこを発生させます。ところで何がきっかけとなってきのこは発生するのでしょうか?きのこは傘に子孫を増やすための胞子を作りますが、生育環境が整っていると胞子を作る必要が無いため、きのこは発生しません。気温が低下すると野生きのこが発生するように、栽培きのこを発生させるためには気温の変化等の刺激が必要になります。気温以外にも水や光が刺激になることが分かっていますので、発生室では気温を下げ、湿度を上げると共に光を照射しています(写真3)。
かつて発生室では照射源として蛍光灯が使用されていました。きのこ自身はビタミンDを作りませんが、蛍光灯からはごくわずかに紫外線が漏れており、漏れた紫外線がきのこに含まれているエルゴステロールをビタミンDに変化させていました。今では照射源は省エネのためLEDに取って代わられましたが、LEDは紫外線を発生しないため、今の栽培きのこにビタミンDはほとんど含まれていません。現代日本人のビタミンDの摂取量は厚生労働省の定めた目安量を下回っており、積極的な摂取が望まれています。エルゴステロールは紫外線によって容易にビタミンDへ変化するため、機会を見つけてエノキタケ、ブナシメジおよびシイタケ等をザルに並べて半日程度日光浴させてみては如何でしょうか?
(きのこ・微生物研究領域 平出 政和)
写真1:きのこの栽培の始まりとなる培地の作製
写真2:栽培瓶に詰めた培地へ植え付けたきのこの元を培養室で育成
写真3:発生室でのきのこの発生
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