今月の自然探訪
更新日:2025年11月4日
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樹木の根は、木の根元からたどっていくと、枝分かれしながら細くなっていき、先端まで行くと直径2mmに満たないほど細くなります。この根系先端部の細い根のことを「細根」と呼んでいます。
細根は、その量としては根系全体の数%~10%程度ですが、根系の中で最も生理活性が高く、土壌から養分や水分を吸収して樹木の生育を支えています。しかし、すべての生命と同様に細根にも寿命があり、数週間から長くても数年と言われています。これは、細根が老化・枯死すると、それに伴って樹木が養分や水分を吸収する能力も低下、喪失することを意味します。そのため、数十年から百年以上を生きる樹木が土壌から養分や水分を獲得し続けるためには、枯死して失われた細根を補うために新たな細根を成長させる必要があります。
このように、樹木の根系において新たな細根の発生~成長~枯死が繰り返される現象を「細根のターンオーバー」と呼びます。ターンオーバーというと、世の中ではお肌の新陳代謝を思い浮かべる人が多いようですが、細根のターンオーバーは根の新陳代謝と言えるでしょう。
図1は新潟県のブナ林で撮影した土壌中の細根の画像です。写っているのは外生菌根菌と呼ばれる共生菌が感染した状態の細根(菌根)ですが、これらの細根が春から夏にかけて大きく成長することや、秋から冬にかけて褐色化して艶もなくなり、次の春までに一部が消失したことが分かります。つまり、このケースでは、発生直後には高い生理活性を持っていた細根も、数か月~1年後には老化・枯死へ向かったものと思われます。
このように、樹木は寿命の短い細根を毎年作り直す必要があるため、結果的に大量の細根を生産することになります。特に貧栄養な土壌では、少ない養分を広い範囲からかき集める必要があるため細根の生産量が大きく、葉の生産量を超えることもあります。また、そのような場所では落葉を超える量の枯死細根が土に還ることにもなります。このことは、なかなか想像することが難しいのですが、秋になると地面を覆う落ち葉と同じくらいの量の枯死細根が土の中で発生していることを意味しています(図2)。
これらの枯死細根は、土壌中の生物の餌や住処になったり、分解されて土壌の養分になったりすることにより再利用されます。このように、細根は、樹木の生存にとって必要不可欠な存在であるとともに、その速いターンオーバーにより、土壌中の食物網や森林生態系の物質循環を支える存在でもあるのです。
(立地環境研究領域 野口享太郎)
図1:ブナ林(新潟県)における細根の成長の様子
(野口(2017)Tree Doctor No.24 より)

図2:ブナ林(新潟県)における秋の落葉後の林床の様子
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