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キャベツの害虫として有名だが,もしこのチョウがいなくなってしまったら寂しいだろう。日本の春の野を代表するようなチョウだが,古い時代に野菜とともに国外からやってきた種であると考えられている。日本の全都道府県に分布しているが,沖縄へは戦後に侵入した。
一般に昆虫の産卵数は多く,モンシロチョウの雌は200卵程度を産む。東京付近では1年に6世代くらいを繰り返す。雌雄が同数産まれ,もし全部が育って成虫になるとしたら,春にあなたの家の近くで見た1匹の雌の子孫は,5世代後の秋には200億匹になって,その子世代の2兆匹が越冬して次の春に飛ぶ計算だ。だがそんなことは起こらない。春にはまた前年と同じくらいの数のチョウを家の周りで見かけるはずだ。
家庭菜園のブロッコリーなどにも幼虫がついているが,それはきわめて幸運に生き残った幼虫で,そして食べるのは基本的に葉っぱだけなので,少ない場合には見逃してあげよう。最近は幼虫での越冬も増えているらしい。
モンシロチョウ属の名Pierisは,樹木のアセビの属名にも使われている。ある春の夕暮れ,空き地に育った菜の花の黄色いじゅうたんの中で遊ぶ子供たちをみた。なんとなく懐かしさを覚える光景に頬が緩み,少年の日の記憶にある菜の花畑のむせかえるような強い香りが鮮明によみがえってきた。彼女たちはモンシロチョウの生まれかわりだったかもしれない。科学園記録種。(た)
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