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この記事は「多摩森林科学園のブログ(2012.8-2019.3)」に2016年5月1日に掲載されたものです。園内の植物相の変化はその後も調査が続けられています。
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多摩森林科学園の重要な研究課題のひとつに都市近郊林の研究があります。今回の記事はそのような研究(島田ら2014)の紹介です。
大都市周辺にある森林(都市近郊林と呼ばれます)では、身近な野生生物の保全などが重要視されています。しかし、長期間にわたるモニタリングのデータがなく、孤立した森林でどれだけ多様な生物を保全できるのかよくわかっていませんでした。東京の郊外にある森林総合研究所多摩森林科学園では、1953年から植物目録がつくられてきました。この資料を使って、約50年間の都市近郊林の植物相を比較し、その変化について検討しました。
その結果、過去(1953年、1965年)に記録された植物種(一部亜種、変種などを含む)は合計790種、現在(2010年)では767種で、全体の種数の変化はわずかでした。この中で過去にだけ記録された植物は164種、現在にだけ記録された植物は141種、過去と現在の両方で記録された植物は626種でした。つまり、2割弱の植物が入れ替わっていました。さらに、過去には記録され、現在消失した植物は、新しく侵入した植物より希少種の割合が高く(過去のみ32.9%、現在のみ6.4%)、新しく侵入した植物では、外来種の割合が高い (過去のみ6.7%、現在のみ63.8%)ことがわかりました。
このように、都市近郊林の植物は種数だけで見ると大きく変わっていないようにみえますが、内容を見ると希少種が減って外来種が増えるという質的な変化がありました。地域本来の在来種が外来種に置き換わっていったことは、生物多様性を守る視点からみると、実質的には本来の生物多様性が低下したといえるので好ましいことではありません。こうした変化には、周辺の開発行為による孤立化の進行や、近郊林内の土地改変、林内を利用する人々の採取圧など、さまざまな要因が影響していると考えられます。(S)
(写真はキショウブを対象とした外来植物駆除の様子です)
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