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2025年7月4日(金曜日)13時10分より、京都市北文化会館ホールにて「森林総合研究所関西支所令和7年度公開講演会」を開催しました。
関西支所主催の公開講演会は、地域の皆様に森林の不思議さや奥深さ、現代社会との関わりについてわかりやすくお伝えすることを目的として、毎年開催しているものです。
当日は約141名の方々にご来場いただき、活気あふれる講演会となりました。
今回のテーマは「動く山、動く土―タイムスケールの異なる「土の動き」を解明する―」でした。まず初めに、「土のでき方と山の土のあり方」と題して森林総合研究所の研究者が趣旨説明を行いました。続いて石川県立大学の大丸裕武教授により、「2024年1月の能登半島地震による山地環境の変容」と題する基調講演をいただきました。その後、「ベリリウム10―数千年に及ぶ土の動きから読み解く京都市東山の地形発達―」、「グローバルフォールアウト―大気圏内核実験から降下した放射性物質の所在―」の2題の講演を森林総合研究所の研究者が行いました。これらの講演により、近年相次いで発生した山地災害を振り返りながら、土の動きを追跡する最新の研究手法やその成果を紹介しました。
来場者の皆様からは質問用紙を通じて数多くのご質問をいただきました。講演内容に基づいた幅広い内容の質問をいただき、皆様の科学的な興味を深めていただけたと受けとめております。
講演会の最後には、質疑応答を行い、お寄せいただいた質問のいくつかに対して、講演者4名が回答しました。会場で答えきれなかった質問も含めて、本ページ末尾に掲載しましたのでご覧ください。
また、アンケートにも多数の回答をいただきました。これらは次年度以降の講演会の充実のために活用させていただきます。ご協力ありがとうございました。





講演の動画はYouTube「森林総研チャンネル」で公開しています。ぜひご視聴ください。
(講演名をクリックすると動画ページに移動します。)
趣旨説明「土のでき方と山の土のあり方」
(森林総合研究所 立地環境研究領域土壌特性研究室長 岡本 透)
基調講演「2024年1月の能登半島地震による山地環境の変容」
(石川県立大学 生物資源環境学部環境科学科 教授 大丸 裕武 氏)
講演1「ベリリウム10―数千年に及ぶ土の動きから読み解く京都市東山の地形発達―」
(森林総合研究所関西支所 森林環境研究グループ 渡壁 卓磨)
講演2「グローバルフォールアウト―大気圏内核実験から降下した放射性物質の所在―」
(森林総合研究所関西支所 チーム長(広域林地解析担当) 伊藤 江利子)
ご来場者の皆様からいただいた、講演に関する質問に対する回答を掲載します。
なお、質問については、同種の質問をまとめるなど、編集を行っているものがございます。また、回答することが困難と判断したものについては、本ページへの掲載を割愛させていただきました。下記以外の質問がございましたら、地域連携推進室までお問合せください。
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Q.緑の社会資本において(1)国土の保全(2)水源の涵養(3)生物の多様性(4)地球温暖化の防止(5)木材の生産(6)木の文化・森林文化の重要さが示されていますが、【山の土の動き】「動く山、動く土」はこれらにどのような影響を与えているのでしょうか?(あるいはどのように関係しているのでしょうか?) A.(1)(2)は土壌を保全することが必須です。(3)は攪乱に依存している生物もいるため、土の動き自体、動きの頻度とそれに伴う植生の変化も考慮する必要があります。(4)植生が土壌を覆うことが炭素貯留や水循環に対してプラスに影響し、地球温暖化の防止につながっていると考えられます。(5)木材生産活動をすると、作業道敷設や伐採により地表面が攪乱され、大きく山や土が動く可能性が高まるため、地表面の攪乱が最小限になるよう心掛ける必要があります。(6)過去の過剰な植物資源の利用が、土や山の動きに大きく影響し、昔の人々もそれに対して対策をしていたことなどを、できるだけ多くの人と共有し、過去の経験を踏まえて適切な森林利用の仕方を考える必要があります。 |
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Q.タイムスケールの異なる土の動きは、動きのメカニズムも大きく異なると思います。それらをうまく統合して考えることは可能でしょうか? A.うまく統合して考えることは可能ですし、考えるべきです。土の動きは、規模が小さいほど日常的に起きていて、規模が大きくなるほど稀にしか起こらない、と考えられます。 |
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Q.山の形成・侵食は土の形成を介してなされるという理解でよいでしょうか? A.山の形成自体は、日本が4枚のプレートがぶつかる場所に位置していることでもたらされる隆起や火山活動により生じています。山が高くなることで、斜面ができ、その場の傾斜などに応じて侵食が起こります。山における土の形成は、その場所の安定度を示していて、安定している場所では土は厚く、不安定な場所では侵食が生じるため薄くなる傾向があります。 |
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Q.説明をきいて、山は降下物(黄砂やテフラ)が積もって高くなっているように感じました。長い時間でみたときに、京都の大文字山は1,000年、100年前よりも数センチメートルでも高くなっていくのでしょうか?隆起もしていることを考えたらもっと高く(たとえば30センチメートルくらいには)なっていますか? A.山には傾斜があるため、傾斜に応じた降下物の堆積量と侵食量のバランスで土層のでき方が違ってきます。傾斜が緩ければ堆積量が上回り、傾斜が急であれば侵食量が上回ることになります。大文字山ではありませんが、山の尾根部でも火山灰が数センチメートル以上堆積している場所を見たことがあります。そのような場所では、降下物が溜まっている分だけ山の高さが増していると言えるのかもしれません。 |
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Q.地表にあった遺跡遺物が主に埋まるのは火山灰や黄砂などの降下物の影響より地中微生物の影響の方がずっと大きいのではないでしょうか? A.遺跡遺物が短期間に土に埋まった要因として挙げられるのが、河川沿いや平野で洪水で運ばれてきた堆積物に覆われること、火山の近くで火山灰や火砕流に覆われることなどです。一方、火山から遠く離れた目立った河川のない丘陵地や台地でも、遺跡遺物は土の中から発掘されています。本講演では降下物の代表的なものとして火山灰と黄砂を例に挙げてお話ししましたが、近くに裸地や作物の植わっていない畑があると、そこからの降下物も飛んできます。そうしたことから、降下物の堆積速度と地中微生物の活動とを直接比較したことはありませんが、降下物の影響の方が大きいと現時点では考えています。 |
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Q.黄砂の影響があるのは日本のどの範囲にわたるでしょうか? A.黄砂の影響は日本全域に及びます。 |
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Q.(上に載っている植物遺体・腐葉土の影響は除いて)どんな石・地質が栄養のある土壌になりますか?植物にとってよい土はどんな石からできますか? A.植物の生育に必要な必須元素のうち、リン、カリウムが多く含まれている岩石が良いと考えられます。カリウムは岩石に比較的多く含まれますが、リンを多く含む岩石は限られます。近年では、リン肥料の原料となるリン鉱石の枯渇が危惧されています。一方、カルシウム、マグネシウム、重金属など特定の化学成分の量が多過ぎると普通の植物はそこでは生育することが難しくなります。こうした場所では、過剰な化学成分に対応できる植物が生育し、そうした植物は稀少性が高いことが知られています。 |
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Q.1.3キロメートルにもおよぶ規模(ブロック)で地すべりが起こっていることが判ったとのことですが、その1.3キロメートルのブロックはどのような地質帯だったのですか?岩盤との関係性はありますか?そのブロックの中心は崩れないのはどういう理由(地質)でしょうか? A.地質構造はまだよくわかっていないのですが、深いところで堆積岩の地層に沿ったすべりが発生したと予想しています。岩盤の中心が崩れないのは、すべりが深いところで発生していて、ブロック的な動きがあったからだと予想しています。このような地すべりは並進型地すべりとして、地すべり分野でも注目されてきました。同様の現象は、山形県の七五三掛地すべりや、日光地震の際の今市市の地盤変動(縦井戸が途中で横方向にずれる現象が見られた)など、国内でも報告があります。 |
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Q.山の動きを可視化する技術について詳しくお聞きしたいです。地形のデータのみから解析可能なのでしょうか? A.この種の解析はこれまでは専門的な画像解析技術を有する民間の航測会社で解析を行っていました。しかし、オープンソースの画像解析ライブラリーのOpen-CV(Open Source Computer Vision Library)である程度解析可能なことが分かり、Open-CVを用いた解析ソフトを自作して解析しました。具体的にはOpen-CVのテンプレートマッチングという機能を用いて地震前後の地形のデータを画像化して、地震によるズレを分析しました(工学分野の物体変形解析ではよく使われる技術です)。その結果、専門会社の分析よりもノイズは多いものの地盤変動の傾向を把握することができました。 |
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Q.低予算で地形解析を行ったとのことですが、例えば「QGIS」(フリー・オープンソースのソフトウェア)でも可能なのですか? A.QGISの機能はかなり高機能ですが変位解析(地形の変形を解析する)などになると、高レベルのプログラミング言語であるPythonの知識が必要になります。基本的に、かなりのことがOSS(オープンソースソフトウェア)でできます。生成AIを効果的に用いれば、従来よりも習得は容易だと思います。ツールもデータもどんどんオープン化が進んでいますのでやる気さえあれば、最前線の開発ができます。 |
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Q.地形解析結果を示すのにCS立体地図を使われていましたが赤色立体地図は使われないのでしょうか? A.山地域では赤色立体図の方が地形が鮮明なこともあり、効果的だと思います。今回の災害発生当初は能登の赤色立体図が無償公開されていなかったため、早い段階で公開が進んだCS立体図を利用しました。 |
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Q.地震による崩壊発生の、場所による危険度の違いはどの程度わかっていますか?豪雨による場合と比べて避難はより困難なので、これがわかることは重要だと思います。 A.これは、非常に難しい問題です。平野部については地形から地盤を評価する技術が進んでいるので液状化マップが作成されていますが、地震時の斜面崩壊には、地盤の物性や複雑な構造が大きく影響するため、山地域の地震の揺れの面的な分布を予測することは難しいのが現状だと思います。 |
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Q.地質にあった植物を植えることで地すべりしにくい斜面を作ることはできますか? A.地すべりは基本的に深い層での変位で起きるため、森林の効果には限界があります。しかし、浅い地すべりでは樹木の根が土を抱えて流れ出しを押さえる効果(ネットワーク効果)が多少はあり得ると思います。これについての研究はまだ十分には進んでいません。 |
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Q.土砂災害の防止に森林の効果が効いていると伺いましたが、樹高以外に樹種や植生の違いによる効果はありますか?検証がなされているようであれば詳しくお聞きしたいです。 A.能登半島西部の山地崩壊の解析で、広葉樹と人工林の間に有意な差はありませんでしたが、基本的にバイオマスの量で崩壊防止機能は評価できそうだ、という結果が得られました。広葉樹の地域で崩壊が多く見られることもありますが、能登半島では広葉樹が低木の場合が多くあるため、樹高で評価してよいと考えています。今後の解析で差異が見つかる可能性がありますが、樹高や傾斜ほどの影響度はないと予想しています。 |
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Q.石川県に限らず山の斜面にはしわのように崩壊跡の段差がみられます。間伐を適正に行わないから斜面が”ずる”(崩壊する)と言いますが、崩壊の深さは根系の範囲を超えており森林施業でどうなるものでもありません。防災の視点からこのような誤解を減らす方法には何が考えられるでしょうか? A.森林の崩壊防止機能に対する過大な期待については、悩むところです。人類が出現する以前から、原生林に覆われた山地斜面は盛んに崩壊しており、私たちが住んでいる沖積平野は、崩壊した土砂の堆積によるもので、その恩恵とも言えます。森林の崩壊防止機能に関するこのような誤解は、里山に対する憧憬や過度の理想化も影響しているとも感じています。ただ、近年、いわゆる里山の成立史や近世期の土地利用を冷静に分析した下記のような普及書も出ており、徐々に現実的な認識になっていくことを期待しています。 |
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Q.まだ今後もリスクの大きい斜面がたくさんあると理解しましたが、そのデータや情報をもとに行政(あるいは地域住民)は何か対策を講じているのですか? A.山林については石川県の林務部門と連携して研究を行っており、知見を提供していく予定です。地震や豪雨で発生した崩壊地の分布はかなりわかってきましたが、非常に数が多く、現状では危ない場所から距離をとって避難場所を設定することが最優先だと感じています。 |
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Q.災害で流木が被害を拡大するとのことですが、間伐後の「等高線置き」(注.切り捨て間伐後に間伐木を等高線方向に集積しておくこと)は流木の発生防止に有効ですか?それとも流れ出してしまいますか? A.新たに発生した崩壊地や地すべり地などの裸地では間伐後の等高線置きは土砂流出を抑止するうえで有効だと思います。流木の多くは立木や残地材の形で崩壊前から斜面上に存在していたものです。倒木を除去することで、裸地化した斜面ではかえって土砂が移動しやすくなる可能性があります。ただし、ガリー(※)のように水流が集中する場所では、床固工のようなもので、縦侵食を防止する対策を行いながら排水を促すことも必要になると思います。 |
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Q.臨床医学的なアプローチが必要との話だったが、具体的にどのようなものを想定していますか? A.ボーリングや貫入試験といった現地ピンポイントでの地盤調査が考えられますが、それなりの手間とコストがかる一方で、人間の健康診断におけるCTスキャナーやX線のように面的に全体を網羅できるわけではありません。広域を対象としたリスク評価では、現状では的確な微地形判読から過去の滑動状況を推定する精度を上げるのが現実的なアプローチだと考えています。 |
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Q.これまでの研究成果が防災・復興にどう活かされているのでしょうか? A.研究グループでは、国のプロジェクト(略称:PRISM、BRIDGEなど)で地形判読技術の普及に全国的に取り組んできています。山地の地域防災を考えるうえで微地形判読を行うのはいまや常識という雰囲気になってきていると思います。地元の石川県では県の災害リスク調査事業などを通じて、地形判読の技術を活用することを提言しています。 |
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Q.きめの細かいハザードマップのようなものを作っていくことは考えているのでしょうか? A.難しい問題ですが、危険か安全かを0か1で示すのではなく、CS立体図などを提示して、地形環境から、その場所で起こりうることを想定してもらうのが基本だと考えています。自治体職員や地域の山をよく知る方々(林業や治山工事に携わった方々)は地形判読の呑み込みが早いです。そうした方々が地形を解釈する力をつけていくことが重要だと感じています。講演者自身も、これまで林野庁の、”もりぞん”(※)の普及などに関わりましたが、以前よりも地形に関する知識は関係者に広がっていると感じています。このような活動を通じて、現地の人のリアリティを生かした、受け身ではない、ハザードマップ利用の可能性を探っているところです。 |
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Q.能登半島で起きた災害ですが、人口密集した都市でも同じ危険性があると思います。研究結果が過疎化が進む地域を見捨てる形になってはいけないと思いませんか? A.重要なのは地域の住民の方が対策をどのように受け取るかということだと思います。一般論として人口密度が低い場所ではハード対策よりも安全な場所に住むというソフト対策を選択する傾向が高いと思いますが、それを”見捨てる”と感じるかというのは伝え方の問題という気がします。防災対策においては”見捨てられた”と感じさせないリスクコミュニケーションが重要だと思います。 |
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Q.2千年前の地震からの回復過程の解明が、今後の防災に役立つ可能性があるのではないでしょうか? A.科学的な解明を深めていくには、さらにデータを積み重ねていくことが必要です。災害が繰り返し発生している事実は曲げられませんが、どのような被害がどれぐらいの頻度で起こり得るのかを認識して、今後の防災対策に活かして欲しいと思います。 |
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Q.地形が動く前に予測できる技術、又は過去に動いた様子を広域で把握できる技術はできそうでしょうか?それらがあれば(防災視点から)効果的に人口移動をするためのゾーニングができるのではないでしょうか? A.動く前に予測できる技術(とくに地震)はかなり難しいと思います。動き始めた斜面は合成開口レーダーを搭載した人工衛星の画像による解析からかなりわかるようになってきました。 |
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Q.0次谷に堆積して土が厚くなる仮説は本当ですか?(注.0次谷は谷を形成する起点となる小さな集水地形をいいます。) A.地形学に関連する長年の研究で確立された土層に覆われた丘陵地斜面における基本的な概念のひとつです。 |
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Q.花崗岩が風化して崩れると斜面下の土が厚くなる、0次谷が土が薄いのはどんどん流れ出てしまうから、0次谷から1次谷、2次谷へと土が動く。このような理解で正しいでしょうか? A.急傾斜の0次谷では、基盤岩の風化によって土ができるだけでなく、ソイルクリープ(土粒子のゆっくりとした移動)によって土が集まり、土の層が厚くなります。 |
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Q.基盤岩が風化し土に変化していく過程において、風化のしくみについて教えてください。簡単に言うと、岩が土に変わるうえで何が原因になって進むのかメカニズムを知りたいです。主には空気や水などの作用によると聞きますが、他の作用(バクテリアや地熱など)もありますか? A.岩石が土になるためには、主に物理的風化、化学的風化、生物的風化の3つの過程があります。物理的風化には、気温の変化や水の凍結によって岩石が砕ける作用が含まれます。化学的風化では、水が岩石にしみ込むことで鉱物が分解されたり、酸化反応が起こったりします。生物的風化には、植物の根が岩石の亀裂や隙間を押し広げたり、根返りによって岩石が動かされたりするほか、有機酸が供給されて岩石が分解されることもあります。 |
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Q.風化による土の生成は岩石内部・下部に向かってではないのでしょうか? A.土と岩石との境界面は徐々に岩石の内部へ向かって進んでいきます。 |
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Q.大規模な土壌移動はこれまでどおり岩石の風化速度の差による説明のほうがすっきりわかるのではないでしょうか? A.人によって見解が異なりますが、そのような見解も確かにあります。一方で風化速度が速いといわれる岩石のほうが表層崩壊の発生数が少なかったという事例もあります。 |
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Q.東山より南側(京都市東山区の清水山~将軍塚)のあたりも、土の形成や土石流のスパン(時間間隔)については、今回の講演の東山の場合と同じような説明ができるのでしょうか? A.斜面で生じている現象はおおむね同じです。ただし、地質が堆積岩なので、土の生成速度や土石流の時間間隔は、花崗岩斜面よりも長くなることが予想されます。 |
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Q.ホルンフェルスは侵食されにくく、花崗岩はされやすいということだと、何千年も先には東山の峰の間の両線は窪地になってしまうのでしょうか? A.安心してください、何千年後でも同じような山のかたちを見ることができるはずです。この場所における地表面の低下量をベリリウム10の分析から推定したところ、千年あたり1メートルにも達しませんでした。 |
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Q.花崗岩とホルンフェルス、どちらも宇宙線による被ばく条件が等しいと言えるのでしょうか?基盤岩により表層の土壌厚は異なるとの話でしたが、土壌の厚さは関係しないのでしょうか?たとえば同じ基盤岩でも、岩の表面のほうが宇宙線の影響をより大きく受け、ベリリウム10の濃度が高くなるということはないのでしょうか? A.宇宙線の被ばく量は、標高が高い場所ほど、また高緯度の地域ほど大きくなります。しかし、花崗岩とホルンフェルスの斜面では標高差が100メートル未満であり、緯度もほぼ同じであるため、地表面でのベリリウム10の生成量は、ほとんど同じと考えて差し支えありません。ただし、宇宙線は地中に入ると、大気中よりも急速にエネルギーが減衰するため、土壌の厚さは無視できない要因となります。つまり、標高や緯度が同じような条件であれば、土が厚い場所ほどベリリウム10の生成量は少なくなるといえます。 |
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Q.砂質で侵食されやすい土壌(花崗岩由来)と粘着力の大きい(ホルンフェルス由来)で堆積部のセシウム137の濃度に違いはありますか? A.砂質で侵食されやすい土壌(花崗岩由来)と、粘着力の大きい土壌(ホルンフェルス由来)では、堆積部のセシウム137濃度に違いが出る可能性があります。砂質土壌は侵食されやすく堆積部に集まりやすい一方で、セシウムの固定力は弱いため、堆積した土壌中のセシウム量はあまり多くないかもしれません。これに対し、粘着力の大きい土壌はセシウムをよく固定しますが、土壌自体はあまり移動せず、堆積部に集まりにくいと考えられます。そのため、堆積部でどちらの濃度が高くなるかは、単純には予想できないと考えられます。 |
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Q.グローバル・フォール・アウト(GFO)の日本での分布は、東北日本海側に多いと説明されましたが、それはなぜでしょうか?冬の季節風の影響でしょうか? A.理由のひとつは確かに冬の季節風です。季節風のために日本海側では冬に雪雲が発達して多雪となり、降水と一緒に上空から落ちてきた放射性セシウムが地表に沈着しやすくなります。一方で、東北日本海側では降水中の放射性セシウム(※)濃度が冬に高いという特徴があります。このこともGFOの地域分布の濃淡に影響しますが、なぜ東北日本海側で降水中の放射性セシウム濃度が冬に高くなるかについては分かっていません。 |
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Q.調査地点の地形的条件(地形分類)をパターンで分けて考えてはいないのでしょうか?鉛直方向のデータを読み解くよりも先に地形の情報から比較的楽にわかることもあると思います。 A.これまでの研究では、尾根・斜面・谷底といった地形分類と、(土砂移動の目印となる放射性セシウムの)鉛直分布データを組み合わせて解析し、土砂移動過程の推定を行っています。鉛直分布と地形パターンの両方を参照することで、移動過程をより正確に読み取ることが可能になります。しかし、この手法が有効になるのは、土砂が完全に安定した地点(リファレンスサイト)を見つけ、その地点における放射性セシウムの累積降下量を把握できた場合に限られます。ところが、リファレンスサイトを決めることは非常に難しく、試料も十分に採れない上に後から採り直すこともできません。今回の研究ではこうした問題を克服するために、これまでに集まった膨大な試料を活用して新たに土砂移動過程を描き出す手法を編み出しています。 |
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Q.表層にだけセシウム137があり、2層目以下にはないというパターンについて、土壌が安定でないという説明でしたが、全く土の移動がなく安定していたという説明もできませんか? A.表層のみにセシウム137が存在し、下層には全く検出されないパターンについては、一見すると「沈着後に土壌移動が全くなかった安定した状態」を示しているように見えます。しかし実際には、その地点のセシウム137蓄積量は安定型に比べて著しく少ないということが分かりました。もし本当に土壌移動がなかったのであれば、蓄積量は安定型と同程度であるはずであり、この点と矛盾します。したがって、このパターンは「土壌が全く動かなかった」のではなく、「表層土壌が流出し、その際にセシウム137も失われた」と解釈するのが妥当と考えられます。 |
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Q.侵食型のパターンについてですが、深い層から浸食が生じるといったことはありませんか? A.基本的には表層からの侵食が中心です。ただし地滑りや豪雨、人為的攪乱によっては深い層まで削られることもあります。 |
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Q.セシウム137の量と鉛直分布から推定した安定・侵食の区別は周辺地形条件とあっていたのでしょうか? A.斜面の傾斜度とはあまり強い関係は見られませんでした。緩斜面では谷底に堆積型が多く分布する傾向はありましたが、安定型については地形から予想しても一致することはほとんどありませんでした。ただし地形解析は電子データから計算していますので、その解像度の今後の向上次第で結果も変わる可能性があります。 |
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Q.放射性セシウム(今回の講演ではセシウム137)の量と鉛直分布からみた15の土砂移動パターンのような考えや分類は、先行事例であるチェルノブイリでも同様の分析や分類はなされていたのでしょうか? A.チェルノブイリでも放射性セシウムの鉛直分布に基づく分析は行われていましたが、主に「土壌中で放射性セシウムがどのように移動するか」に焦点が当てられていました。これに対し、「放射性セシウムを固定した土壌そのものがどのように移動するか」という視点での研究は土壌侵食が大きい地域で行われてきました。ただし、この研究には放射性セシウムの累積降下量が正確に把握されていることが前提となります。今回の研究の新しい点は、累積降下量が不確実な状況においても膨大なデータを活用して土砂移動の様相を詳しく描き出した点にあります。 |
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Q.北欧の成果を念頭に日本ではどうなのかという視点で研究を始められたそうですが、放射性セシウムの土壌中の動きについて世界的には調べられていますか? A.はい、北欧、ヨーロッパ、ロシアなどで盛んに研究されてきました。特にチェルノブイリ事故以降、国際的にデータが蓄積されています。また放射性セシウムを利用した土砂移動の研究は現在でも世界中で行われています。 |
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Q.放射性セシウム自体の人体や野生生物に対する影響はどのようなものがあるのでしょうか? A.核実験由来の放射性セシウムは、最終的に健康に影響が出ない程度の量にとどまりました。しかし、もしも大量に存在すると体内に取り込まれ、カリウムと似た性質のため筋肉や臓器に蓄積し、長期的には内部被ばくのリスクとなります。野生生物でも同様に体内に取り込まれ、生態系への影響が懸念されます。 |
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Q.1950年代ごろのハゲ山からの植生回復途中でも放射性セシウムの移動が少ないのはなぜでしょうか? A.当時も表層である程度の移動は起きていましたが、植生が回復しつつあったことで土壌が保持され、移動は森林の内部でとどまりました。そのため、放射性セシウムが森林の外へ大量に流出するほどの大規模な移動には至らなかったと考えられます。 |
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Q.放射性セシウム(セシウム137)の拡散を防ぐには土壌の移動を抑える森林管理が重要とありましたが、具体的にどんなことが必要でしょうか? A.強い侵食を防ぐためには、下草や落葉層を守ること、間伐や作業道の設置を適切に行うことが大切です。土壌を裸地化させない管理が基本であり、さらに土砂が河川に流れ出さないようにするため、排水路や緩衝帯の設置、傾斜地での作業順序の工夫など慎重な設計も必要です。こうした対策を組み合わせることで、森林土壌の安定性を維持しつつ、侵食による放射性セシウムの流出や土砂災害のリスクを低減することができます。 |
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Q.核実験由来の放射性セシウムの量は核実験の停止と放射性同位体の壊変により減ってくると思います。その時に放射性セシウムのかわりに土の動きを見るための指標はありますか? A.実際に核実験由来のセシウム137の濃度は現在かなり低下しており、検出できる限界に近づいています。同じ数十年の半減期を持つ核種のなかでは、自然起源の放射壊変系列核種である鉛210が土壌移動の指標として用いられることがあります。ただし、これらはセシウム137と比較して研究事例は非常に少ないです。 |
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Q.ここ数十年での土壌の移動がわかるなら、100年から1000年の移動量の推測もできるのですか? A.直接は難しいですが、モデルや他のトレーサー(安定同位体や鉱物)を組み合わせればある程度の推定は可能です。ただし不確実性は大きくなります。 |
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Q.科学的研究資料・サンプルの保管・維持について、今後の方向・新しい分析方法などあれば教えてください。 A.近年、放射能と一緒に土壌有機物や微生物群集まで調べる多角的な分析が試みられているようですが、森林総合研究所ではそこまでの進捗はまだありません。また、世界的には土壌コアや試料を冷暗所で長期保管し、将来の再解析に備える流れが進んでいるとのことです。高分解能のゲルマニウム検出器などを用いた将来的な分析に備え、試料の状態を損なわずに維持・保管していくことが重要と考えています。 |
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