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支場長小林富士雄
今年は、林業試験場関西支場が産声をあげてほぼ40年、現在の伏見桃山に落ち着いて丁度30年目にあたります。
この間、森林・林業を取り巻く情勢は大きく変わり、これにともなって我々の研究課題も変遷してきました。古くはアカマツ林の施業、せき悪地の緑化など、ついで短期育成林業、松くい虫など、比較的最近では環境保全などの研究が想い浮かびます。
これらの研究の進め方を振り返ってみると、支場の研究は本場専門部の研究を地域分担するという傾向がありました。最近に至り、林業試験場全体の研究推進方策を論議した結果、現行体制下で最も効率的な運営を計るためには、本場専門部と立場の研究の間には一応の仕切をつくり、本場では専門別研究を、立場は地域のニーズに合う研究を別々に進めることになりました。
必要があれば、立場でも専門部門の研究分担をするが、支場の主力は地域研究に注ぎ、担当地域の自然的・社会経済的条件に適合した地域林業技術の総合化・体系化を進めるということです。平たくいうと、本場の下請けでなく、地域にひらいた研究を、ということになりましょう。
このように我々サイドでは支場の役割を明確にしましたが、これを果すためには、地域の関係者の方々のご理解がなによりも大切だと思います。今回このような小冊子を刊行することにしたのは、この季刊新聞を通じて地域にとけこむキッカケにしたいという希望に他なりません。従来にもましてのご支援と同時に、ご意見・ご叱正をお寄せくださるようお願い申しあげます。
山本久仁雄
近畿・山陽地域の低位生産地帯には、およそ85万haほどのアカマツ林が広く分布している。これらのマツ林は、とくに戦後、松くい虫によるはげしい害をうけたため、その多くを失い、この跡地の取扱いが林業上の重要な課題になっている。
これらやせ地に適する植栽樹種、植栽適地の範囲および樹種ごとの生長特性を明らかにするため、国内および外国産の6樹種についておこなった20年間の調査結果をまとめたので紹介する。
試験地は、岡山県吉永町の標高230~250mの山腹(傾斜20~25°)にあり、母材は流紋岩で、土壌型はEγ~BD(d)である。年平均気温はおよそ14℃、年降水量は1、400mmである。植栽樹種としてはスギ、ヒノキ、アカマツ、クロマツ、テーダマツ、スラッシュマツの各2年生色を3、000本/haの密度で1966年3月に植栽した。
植栽20年後の1986年3月までの樹高生長をみると、マツ類がスギ、ヒノキより、かなり良好であった(図-1、表-1)。これらマツ類を兵庫・岡山地方の収穫予想表にあてはめると、アカマツ地位1等地、スギ、ヒノキは2等地程度の生長状態であった。一般に、幼齢期における外国マツの生長は旺盛であるといわれているが、本試験地での樹高生長の経過をみると、10年生ごろよりアカマツのほうが優位になっている。直径生長の場合も樹高生長とほぼ同じ傾向がみられたが、ヒノキの場合、12年生ごろから生長量が急に大きくなり、マツ類との差が縮まる傾向がみられた。材積生長はアカマツがもっとも大きく、22年生のアカマツ材積では197m3/haで、他のマツ類の1.3~1.9倍、またヒノキ、スギの3.3倍であった。
以上は、限られた林分での調査結果であるが、本試験地の場合、植栽後20年間の生長はアカマツがもっとも優れている。したがって、今後、低位生産林地の森林造成には、アカマツを中心に見直す必要がある。現在、松くい虫被害対策のひとつとして、マツノザイセンチュウにたいする国内産の抵抗性マツの種苗が供給されつつあり、また、外国産のテーダマッ、スラッシュマツも抵抗性が強いので、松くい虫被害跡地への更新樹種として注目されている。なお、将来、抵抗性マツの天然更新の必要性が起きてくるので、天然更新が容易なアカマツ・クロマツの生長経過などを参考にして、これらの問題をさらに検討すべきであろう。
図-1. 各樹種の樹高と直径生長 (↓…根元直径)
試験区 |
現存本数 (本/ha) | 現存率 (%) | 平均直径 (cm) | 平均枝下高 (m) | 平均樹高 (m) | 最近5ヶ年の平均樹高生長 (m) | アカマツを100とした比 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
符号 | 樹種 | |||||||
P1 | スギ | 2、887 | 89 | 7.2 | 2.4 | 7.2 | 0.60 | 61 |
P2 | ヒノキ | 1、944 | 65 | 9.6 | 1.9 | 7.5 | 0.50 | 64 |
P3 | テーダマツ | 1、889 | 67 | 12.2 | 6.5 | 10.9 | 0.52 | 64 |
P4 | スラッシュマツ | 1、690 | 58 | 11.7 | 7.1 | 10.1 | 0.37 | 86 |
P5 | クロマツ | 2、295 | 78 | 10.9 | 5.7 | 10.4 | 0.59 | 88 |
P6 | アカマツ | 2、488 | 82 | 12.3 | 7.2 | 11.8 | 0.63 | 100 |
田畑勝洋
スギカミキリによる被害が最盛期に達したスギ林分内でも、成虫が飛んでいるのを見た人は少ないという。
林内が暗く、成虫自身も黒っぽく、また、粗皮や樹皮のわれ目などのすき間にひそむ習性をもつことも発見出来ない理由の一つである。実際、林内で樹幹に黒色の寒冷紗をまいて、虫がひそむのに好適な条件を作ってやり、マーキングした成虫を放して、寒冷紗にかくれた成虫を調べてみると表-1のように、放出した地点からさほど遠くには移動せず、せいぜい0~3m以内にそのほとんどを発見することができる。
1982年 |
1983年 |
||||
雌 | 雄 | 雌 | 雄 | ||
総視察数 | 321 | 622 | 270 | 626 | |
移動距離の頻度(%) | 0m | 179 | 390 | 270 | 626 |
(55.8) | (62.7) | (48.1) | (56.9) | ||
1m~ |
102 | 174 | 89 | 187 | |
(31.8) | (28.0) | (33.0) | (29.9) | ||
5m~ | 32 | 45 | 30 | 59 | |
(10.0) | (7.2) | (11.1) | (9.4) | ||
10m~ | 7 | 7 | 11 | 14 | |
(2.1) | (1.1) | (4.1) | (2.2) | ||
15m~ | 1 | 6 | 10 | 10 | |
(0.3) | (1.0) | (3.7) | (1.6) | ||
最大移動距離(m) | 15.8 | 23.3 | 29.9 | 23.6 | |
平均移動距離(m)* | 4.04 | 4.19 | 5.55 | 4.58 |
* 移動しなかったものを除く
では、スギカミキリはいつ、どんな条件があれば飛ぶのであろうか。フライトミル(強制飛翔測定装置)を使って、成虫の飛翔する時刻やその時の気温などを調べてみると、図-1に示したように午前10時頃から午後3時頃までの時間帯によく飛ぶことがわかる。よく晴れた日で外気温が15℃を越えると飛翔行動がみられ、25℃以上になると、活動がきわめて活発になり、おそらく飛翔による林外への移動分散がみられるのもこのような気象条件下であろうと思われる。また、成虫の飛翔能力は若いうちは高く、日齢が進むにつれて衰えてくるようである(図-2)。日中の気温が25℃前後の快晴かまたは晴れた日にスギ枝で作った放出木(高さ20cm、太さ1.5cm)に成虫を放してやるとしばらくは触角をぐるぐる回転させたり、体の位置を随時かえたりしているが、風の方向を認識すると突然、上空に向って離陸する。1回の飛翔でどのくらいの距離を飛ぶことができるかを調べた結果では、飛ぶスピードはおよそ3m/秒で、最長飛行距離は約2~3kmであろうと推測される。しかし、上空では風に流されて飛んでゆくものと思われるので、飛行距離はさらにのびると考えられる。この飛翔能力は林内の木から木または林分から他の林分への移動の重要な要素であると同時に、被害の伝播や増加に大きなかかわりをもっているのである。
図-1. 飛翔開始時刻の分布 (伊藤、 未発表)
図-2. 温度別フライトミル試験の結果
5分以上連続して飛翔した個体
30分以上連続して飛翔した個体
(伊藤、 未発表)
本種は、名前が示す通り、中部以北では畑地を中心とする平地にきわめて多く見られる。日本特産種であるが、同属のものはほぼ全世界に分布している。わが国においては本州と九州にのみ生息する。
地下生活に良く適応した体型をしていて、尾が短く頭胴(吻端・鼻先から肛門)の長さの半分以下である。また耳介も短く体毛外にあまり突出しない。著しく草食性に進化しており、農作物をはじめシロツメクサ・レンゲソウ等の草本類や樹皮を食害する。河川敷や若い造林地のような草本の繁茂した場所に選択的に生息する。農林業上の害獣であると同時に、衛生的にもツツガムシの宿主としても東北地方で衛生害獣として良く知られている。
地下20~30cmにトンネルを堀り営巣し、草や食物の貯蔵所、便所などもつくる。1つのトンネルは5~7m2の広がりを持ち、複数頭が利用する。一般に、春、秋、に繁殖率が高く、冬、夏には低い。(妊娠期間20~21日)1産で平均5仔、少なくとも数回出産する。1ケ月半で仔獣は性的に成熟する。
(北原)
関西支場の正門に立って、まず目につくのはロータリーに繋がる80mたらずのメタセコイヤの並木である。
この並木は支場がここ桃山町永井久太郎に移転した昭和31年春、京都大学から挿木苗を貰い受けて植付をしたもので、その生長は支場の年輪ともいえる。現在、34年生の平均樹高は21m、平均径は47cm、大きなものは樹高24.3m、直径63cmであり、両側の枝は重なり合って深い緑の陰を路面に落としている。
春の新緑、晩秋の紅葉など四季それぞれの風情をもつ並木であるが、とくに夏は並木全体がクマゼミ、アブラゼミの大合唱に包まれ、風流な蝉時雨どころではなく、むしろ喧騒ですらある。そんな喧騒の中に暑さをのがれ緑陰の涼を求める親子や、蝉とりの子供たちが集まる市民にも親しまれたメタセコイヤの並木である。
(長谷川)
近畿、中国、四国地方の国と府県の林業関係試験研究機関の長の集りである関西地区林業試験研究機関連絡協議会の第39回総会が6月6日関西支場大会議室で開かれました。
会議は、まず議長に国立林試四国支場長を選び、最近の研究情勢、全国林試協の動向、各研究部会活動の経過と今後の計画などについて協議を行い、国に対する要望事項を採択しました。
なお、現在活動している研究部会は次の8部会で、この秋から来春にかけてそれぞれの部会が開催されます。
このほか、休部となっている樹木保全部会があります。
育種部会、育苗部会、育林部会、立地部会、経営部会、林業機械部会、特産部会(しいたけ協同研究班、マツ菌根研究班)、保護部会
関西支場と大阪営林局が技術開発課題を紹介しあい、共同研究の進め方の検討を行うため「技術開発等情報連絡会議」が7月30日、大阪営林局でひらかれました。
会議は局側から局長、経営・事業両部長、関係課長が、支場側から支場長、両部長、全室長が出席したほか、森林経営研究所、日本の松の緑を守る会からも関係者が出席し、技術開発課題の検討や情報の交換が行われました。
(長谷川)
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