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山城試験地(京都府木津川市:北谷国有林内)にある観測タワー
2011年は、2006年の国連総会で決議した「国際森林年(the International Year of Forests)」です。テーマは「人々のための森林」で、世界の人々の森林に対する理解と森林への関わりを持ってもらうことを促すものです。森林総合研究所では、国内テーマ「森林を歩こう」やサブテーマ「未来に向かって日本の森を活かそう!」のもと、次世代に引き継ぐ豊かな森林(もり)づくりや暮らしの中に木を取り入れることを進めるための研究開発の推進や様々な催しを開催します。
平成21年度には、関西支所を主体とした運営費交付金プロジェクト「現代版里山維持システム構築のための実践的研究(H21~25)」を開始しました。この研究プロジェクトは、平成18~20年に関西支所が主体として実施し、里山施業マニュアル「里山に入る前に考えること」等を成果とした研究プロジェクト「人と自然のふれあい機能向上を目的とした里山の保全・利活用技術の開発」を継承しており、「新しい里山林管理指針」を目指して、地域住民および地方自治体との協働による実証試験として実施するものです。管理伐採による健康な里山復活の実証・住民の意識改革による環境配慮型生活と住民による里山管理の推進・自治体による森林資源の利用管理システムの実証を3つの柱としています。平成21年度は、長岡京市の行政担当者、里山保全参画者、大学と関西支所の研究者等による専門部会を設立し、その後の現地説明会、高齢コナラ林の伐採、木質資源利用方策としての薪炭生産等、研究計画は順調に実行に移されて進展しています。なお、この研究プロジェクトの一部は、森林資源を伐出して組織的に利用することによる住民の意識変化のモニタリングとして抽出し、「里山の“社会-生態システム”における動的安定性回復のための社会実験」のプロジェクトとして、トヨタ財団の2年間の研究助成を受けて平成20年度途中に開始しています。
全国の里山で放置竹林が拡大し、人工林や二次林を浸食しており、同時に景観上の問題や水土保全機能等、森林生態系への悪影響も懸念されるようになってきました。関西支所の島津実験林は竹林試験地であり、1970~1990年代に伐採試験や水収支の試験の実績があり、稈年齢や管理履歴の記録が正確に残されています。平成21年度には、当該実験林における竹林のモニタリングを継続的に実施するとともに、過去の記録を活用して、モウソウチクの生態的特性の解明や老齢竹稈の材質変化の解析のための調査を再開しました。
一時預かり保育施設「すぎのこ」の運用を、平成20年度末に完成した木造試験家屋を活用して、平成21年4月から開始しました。4月28日には、エンカレッジ推進事業のアドバイザーの原ひろ子先生(お茶の水女子大学・名誉教授)を講師としてお招きして、開設記念式を開催し、テレビ会議システムを利用して全所的に中継されました。平成21年度は年間を通じた利用の中でも、研究職員では会議や学会時期に利用頻度が高くなる傾向がありました。事務職員等の利用もあり、共働き家庭に限らず、保育者の病気による利用など、一時預かり保育室の開設によって親子共に不安と負担が軽減されたと考えています。同時に、室内の温湿度および音等の木造家屋の環境測定を開始し、冬場にはペレットストーブの運用と環境測定も開始しました。
JSTサマー・サイエンス・キャンプを関西支所としては初めて担当し、「森林の炭素量推定~樹木地上部から根の量を推定する~」のテーマで実施しました。7月29日午後から31日の午後までの2日半、全国からの高校生10名の参加を得て、ヒノキの根を実際に掘り出して、部位毎に切り分ける地道な作業をしてもらいました。部位毎の重量の測定値を用いて地上部と根の関係を導き出し、実際の立木のCO2吸収量を算出し、地下部の根も含めた森林のCO2吸収量を推計しました。
研究成果の普及広報ではこの他にも、近畿中国森林管理局の「水都おおさか森林の市」、近隣の中学生を対象としたチャレンジ体験学習、森の展示館を活用した森林教室、京都科博連サイエンスフェスティバルのニ講演会の担当等、多彩な活動を実施しました。10月21日(水曜日)の公開講演会「里山の二酸化炭素吸収量をはかる」では、京都府南部の山城試験地(京都府木津川市)に設置した2本のタワーにおける森林のCO2吸収量観測に基づく研究成果を中心としました。講演では、実際に試験地で使用している観測機器と同じ装置を会場に持ち込み、それらの機器の動作をビデオカメラによりスクリーンに映し出し、参加者が実感的に理解できるように工夫を凝らしました。
平成19年度の独立行政法人林木育種センターとの統合を受け、関西支所は関西育種場との連携協力を進め、関西育種場の一般公開への参画、育種センター主催の講演会「世界の林木育種の最新動向」の関西地区講演会の開催、関西支所の研究者業務報告会への関西育種場研究者の参加等により、相互理解を深めています。
農林水産省は、「緊急雇用対策」(平成21年10月23日緊急雇用対策本部決定)において森林・林業の再生に向けた中長期的な政策の方向を明示し、森林・林業を基軸とした雇用の拡大を図るため、「森林・林業再生プラン」を作成しました。そこでは、「コンクリート社会から木の社会」へ社会構造の転換による低炭素社会づくりを目指すとされていますが、林業関係では、放置された森林の整備のために、森林組合による施業の団地化・高網密度路網の整備・高性能機械の導入促進による効率的な低コスト木材生産、および森林の管理・経営を担う人材育成により、10年後の木材自給率50%を目標として掲げています。平成22年以降の具体的な動きを注視する必要があります。平成22年8月
森林総合研究所関西支所長 藤井智之
一括版のpdfファイルはこちらです。年報第51号(平成22年版)(PDF:3,832KB)
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