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年報第42号 関西支所研究成果発表会記録

システムダイナミックスを用いた木材生産・流通・加工の統合化モデル開発の試み

野田英志(経営研究室)

1. 課題と方法

人工林資源の成熟化にともない、地域森林資源の持続的で効率的な利用が求められています。そのためには森林育成から木材の生産・加工・流通そして消費に至るまでの、森林資源利用に関わる経済循環をトータルなシステムとして捉えることが重要です。この地域森林資源の循環利用システムを「ウッドシステム」と呼ぶことにします。

本研究では、この「ウッドシステム」の動特性を定量的に捉えることを目的として、システムダイナミックス(SD)の手法を用いた基礎的なモデルの開発を行いました。具体的には、実需(川下の木造住宅建築)に対応した、プレカット部材等の供給から、乾燥製材品の加工、これに必要な丸太の集荷、山元での人工林材の伐出に至る、受注生産型の木材経済循環の統合化モデルをつくりました。本報告ではこのモデルを使って、時間経過等に伴うシステムの変化や振る舞いを計量的に捉え・評価し、モデルの修正・改良に結びつける思考実験の例を紹介します。

2. 基礎モデルの概要

当モデルでは、人工林材の伐出から加工・流通・消費に至るフローとストック(在庫・仕掛品・労働力等)の関係、および関連情報の流れ、木材(モノ)の流れと逆方向のカネの流れと財務状況等を統一的に関連づけ、把握できるシステム構成としました。モデルの概要図、前提諸条件については省略しますが(関西支所年報40号、p19~20を参照)、高性能林業機械(傾斜地対応のタワーヤーダープロセッサ)による伐出システムや自動化ラインの製材加工システムなど、関西地域で考えられる高能率の技術群を組み込み、年間3万m3強(1シフトの標準素材消費量)の製材加工規模を想定したモデルとしています。

3. モデルの実行―Plan-Do-Seeの思考実験例―

以上のようなSDによる基礎モデルを作成して、思考実験のベース(実験台)をつくり、次にこのモデルを走らせて、システムの挙動をチェック・評価し、パラメータの変更やモデル構造の修正等を通して、システムの問題探索やその改善に向けた実験を行います。なお当該モデルでは、建築着工数・木材価格を外生変数として、平成7年3月から12年8月までの66ヶ月間のシステムの動特性を観察しました。ここでは、そのうちの製材加工過程での総収益改善に向けた模擬実験を紹介します。

実験その1。図は略しますが、実験装置である[Simulator Panel]を使い、当初モデルを実行しますと、第10ヶ月目に製品受注増に伴う製品在庫急減で欠品が生じ、10から12ヶ月期の大幅な総収益悪化をもたらします。当初モデルの基本設計は、山元での伐出生産に至るまで(途中の在庫による調整があるものの)、実需の変動に即応した生産活動がなされるというものでしたが、伐採から丸太の工場搬入までのタイムラグが大きく即応不能なこと、しかも伐出操業率の変動が大きく増幅されてしまい、非現実的なものであることがわかります。

そこで改善策の1つとして、伐出操業率を70%~105%の間に制御することで、素材生産の平準化を考え、再度、この修正モデルを走らせます。その結果は、製品の欠品問題は解消し、加工総収益の大幅な改善が図られるとともに、山元での伐出操業率・労賃水準の変動が平準化され、また伐採から市場での丸太選別・集積に至る原木供給プロセスでのサイクルタイム改善もなされます。これらのことから、実需に即応したシステムを山元の伐採活動にまで適用するのには問題があり、山元での素材生産は実需変動も見ながら、別途、制御することが必要だとわかります。

次に、総収益改善に向けた実験その2として、第38ヶ月期(平成10年4月)以降の総収益の恒常的悪化の改善を試みます。総損失の恒常化は、システム全体の崩壊、企業経営で云えば倒産につながる大問題であり、現在の林業・国産材業界に通じる状況です。ここではその対処策の1つとして、工場作業員の削減(5名)と営業マンの強化(2名)、設備改善投資(5千万円)による工場生産性の向上を行ってみます。作業員の削減は固定費(労務費)減となると同時に、残された作業員の労働強化につながります。設備投資はその軽減効果を狙ったもので(逆に考えることもできますが)、減価償却費増となります。なおモデルでは、設備投資額と生産性上昇の相互関係は実データに基ずくものではなく、今後のデータ収集が課題として残されています。

上記の新たな設定で、モデルを走らせますと、当初は減価償却費負担が大きく、40ヶ月期に一時的に赤字増となりますが、以降は、収益の改善が図られ、ほぼ月間4百万円強の総収益増が得られました。

当モデルを使った思考実験は、この他にも外生変数を変えてシステムの強度を見たり、計測期間を延ばしてシステムの挙動予測を行ってみたり、種々の実験が考えられ、流域林業システム構築のツールとして使えるよう改良の予定です。

複層林施業の課題
―短期二段林施業―

竹内郁雄(造林研究室)

1. はじめに

複層林は、二段林の造成から始まり、二段林として維持するものと順次多段林化してゆくものに分かれる。複層林の長所は多いが、この長所を発揮させるのは、気象害の危険性が小さい地域で集約な管理がされた場合のみである。長期にわたって複層林を健全に維持管理するには、多くの条件が必要なうえに一斉人工林に比べ多大な労力と費用がかかり、高度な伐採・搬出技術が必要で、現在の厳しい経営環境からは難しいと言わざるを得ない。複層林を造成する場合は、比較的管理が易しく経営面からみて最も可能性のある短期二段林施業にすべきである。ここでは、スギ、ヒノキからなる短期二段林施業について検討する。

2. 上木の管理

短期二段林施業は、種々の方法が考えられる。ここでは、下木植裁後に上木の間伐を行わず、下木の下刈り期間が終了した後に上木を皆伐する方法とする。上木となる一斉林の皆伐予定より7~10年前に、上木の半分前後を収穫することで林内相対照度を50%前後とし、下木を植栽する。上木がスギでは、間伐後に枝下部に後生枝(萌芽枝)が発生し材質の低下を招くことがあるので注意がいる。後生枝は、それまでの密度が高い林分ほど、枝下高率(枝下高/樹高)の高い個体ほど発生が多い傾向がみられる。このため、二段林化する前に低密度とし、個体の保持葉量を増加させる管理が望ましい。しかし、そのような管理を行うと下層植生が増加し、下木の下刈りに経費がかかるマイナス面が生じる。なお、ヒノキは後生枝が発生しないため、このような心配はない。

林内の光環境は、上木の葉量が増加するにしたがい低下する。下木植裁時に60%前後であった林内の光環境は、スギ上木が80年生では7年後に20~40%に低下するし、ヒノキ上木では40%前後に低下する。40年生くらいで成長のよいスギを上木とすれば、間伐後45%だったものが6年後には15%にまで低下する。このように、林内の光環境は、上木成長が大きい林分ほど低下が早く、また、造成前の密度が高く個体あたりの保持葉量が少ない林分ほど低下が早くなる。このため、二段林の造成は、成長がよい林齢の若い一斉林を上木とするのは望ましいことではなく、少なくとも60年生以上の林分を対象とすべきであろう。

3. 下木の生育

植裁後15年生位までの下木が健全に生育する光環境は、相対照度でほぼ20%以上、樹高成長が年間20cm以上の場合である。上記した80年生のスギやヒノキの上木であれば、植裁後7~10年後に下木樹高は2~3mに達する。この間に下刈りが必要となるが、被陰下での雑草木は皆伐地に比べ生育が遅いため、4~5回の下刈りを行えばよい。下刈りは、被陰下の作業となり雑草木も柔らかいため疲労度は低いと考えられる。

下木が下刈り期間を脱した後に上木を皆伐すればよい。蓄積が435m3/haの上木をすべて皆伐し架線で搬出した例では、7年生で平均樹高2.2mだった下木本数の43%が無被害、軽度の枝折れなどで回復の見込みがあるものが24%、将来欠点を生じると思われるものが7%、駄目になったものが26%であった。この林分は、架線集材であったため架線下の集材場所で特に被害が多かった。その後は、補植することなく、順調に生育している。

上木伐採後の下木成長は、伐採翌年から増大しはじめ、3~4年後には成長が回復する。これは、下木であるときは年輪幅が狭く、上木伐採以降は年輪幅が大きくなることで、年輪構成の上から好ましくない。これを是正するには、成長が急激に増大する上木伐採2~3年後に枝打ちを行うことで解決できる。

4. おわりに

短期二段林施業は、皆伐しないため林地を裸地化しないという点では評価できる。また、上木の皆伐時には、植栽木がある程度大きくなっており、下層植生も豊かであるため、土壌の保全という見地からも望ましいといえよう。しかし、複層林造成のため上木密度を低くすることは、気象害に対する抵抗力が低下することであり、上木期間中は森林の健全性が低下することは否定できない。また、ここで述べた方法は、上木の収穫を2回に分けて行うことで、1回で皆伐するのに比較し伐採・搬出の効率が低下する。一方、下木の成長は、下木期の成長の遅れを上木皆伐後に取り返すことができないし、上木の皆伐時に被害を受けることは避けられない。

今後は、ここで述べた技術的な課題や問題点について、その対処方法を開発することが必要で、長所を伸ばし短所を補う技術の確立が望まれる。