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京都府南部の山城水文試験地に設置された二酸化炭素動態観測タワー
先の第151回通常国会で、旧林業基本法に代わって、新しく森林・林業基本法が成立しました。林業を取り巻く厳しい状況や森林に対する国民の多様な要請とそのグローバル化などを踏まえ、今後取るべき基本的な方向を定めた森林・林業政策のバイブルといえましょう。従来の木材生産主体から森林の有する多面的機能の持続的発揮や林業の健全な発展を期して、森林の適正な整備の推進と保全の確保、効率的・安定的な林業経営の育成、林産物の供給及び利用の確保を掲げています。しかし、この基本理念をどう具現化していくか、実際の筋道を打ち出す「森林・林業基本計画」の策定作業は現在進行中です。
地域資源に立脚した森林・林業・木材産業の振興策樹立のためには、森林所有者、従事者、事業者やその行政を推進する国、地方公共団体関係者だけでなく、一般国民の多様なニーズに関する理解とともに、ボランティア協力等も考慮した総合的取組が求められています。そのための基本として、技術の裏づけとその普及の効率的推進が不可欠であり、関連研究成果が求められるのは自明です。新基本法の中では、研究開発の目標の明確化と関連研究機関相互の連携強化を第14条に明文化しており、研究成果の早期発信とその技術化が期待されていることを我々は肝に銘じておく必要があります。
関西支所では、地域に根差した研究開発を目指し、これまで関西地域の森林・林業を巡る歴史的背景と地域ニーズを考慮して「先進開発地域の森林機能特性の解明とその総合的利用方法の確立」に向けて研究を展開してきました。
関西地域の森林・林業の現状を俯瞰すると、自然生態系の断片化・孤立化が進み、生物多様性の低下が危惧されるとともに新たな未経験な病虫獣害の発生や手入れ放棄・放置人工林問題、都市住民との交流を通じた森林の環境資源、教育・文化資源としての機能発揮への期待等々、多くの解決すべき課題が山積しています。
これらの問題を解決するためには、先ずは基盤となる地域特性に応じた森林のもつ諸機能の解明とそれらに基づく機能の総合発揮のための評価手法の開発と管理・計画手法の開発等、従来の成果を踏まえた一層の研究の深化が求められています。
このような地域特性に対応した研究を実施するために、平成12年度も3大課題のもとで「風致林・都市近郊林生態系の機能、都市近郊林の水土保全機能、森林の風致及び環境形成機構、断片化した森林生態系の維持・遷移機構の解明」、「多様な森林施業技術及び森林の生物害管理技術の高度化、持続的林業経営方式の体系化」及び「地域森林資源管理手法と森林資源の総合的利用、地域森林・林業と気候変動の関連解明」などに関する調査研究を実施し、それぞれに有効な知見、提言に関わる成果を得ております。本年報は、独立行政法人化前の平成12年度の当支所における研究課題一覧表、試験研究の概要、主要な研究成果、研究資料及びその他関連資料を取りまとめたものです。これらの成果が皆様の業務にいささかでもお役に立てば幸甚に思います。
平成13年12月
森林総合研究所関西支所長 真島 征夫
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