研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2021年 > 極限環境の湖から胎生の繁殖形態を持つ新属新種の線虫を発見 ~極限環境生物および繁殖形態進化のモデル実験材料として期待~
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2021年8月20日
明治大学
国立研究開発法人 森林研究・整備機構 森林総合研究所
明治大学農学部農学科の新屋良治准教授、同博士前期課程1年山下達矢、森林総合研究所の神崎菜摘主任研究員およびインディアナ大学Erik Ragsdale 准教授らの研究チームは、極限環境の湖として知られる米国カリフォルニア州のモノ湖から発見した線虫注1)を、Tokorhabditis tufae(トコラブディティス トゥファエ)と命名し、新属新種記載しました(図)。
地球上にはおよそ生物が生存できないような過酷な環境(極限環境)があり、そういった場所から特に環境適応力の高い微生物、緩歩動物(クマムシ)、線虫のような生物が発見されることがあります。研究チームは、アメリカ合衆国カリフォルニア州に位置し、猛毒ヒ素を豊富に含む極限環境湖として知られるモノ湖から、高いヒ素耐性を有する線虫を発見し、2019年に報告しました。しかしながら、その当時新たに発見された線虫種の分類学的詳細は明らかになっていなかったため、今回、本線虫種の生物学的特徴をより詳しく調べ、分類学的記載を行いました。
先行研究では便宜上、Auanema属に属する未記載種として本線虫種を扱っていましたが、Auanema属線虫は卵生(産卵による繁殖形態)であるのに対して、モノ湖で発見された線虫種は胎生(母親の子宮内で子供が孵化する繁殖形態)である点で明確に異なることが示されました。さらに、子宮内の卵は母親から栄養を受け取っていることを示唆する様子が観察されました。以上により、本線虫種は胎生の繁殖形態に特徴づけられる新属の線虫種であることが明らかになり、ギリシャ語で「出産」を意味する”tokos”からヒントを得て、Tokorhabditisという新属名を提唱しました。なお、種名にある”tufae”はモノ湖のシンボルである石灰石の構造物「Tufa」に因み名付けられました。
一般に線虫は卵生の繁殖形態を持っているため、今回の胎生による繁殖形態を有する線虫は極めて稀です。新たに記載されたTokorhabditis tufaeでは、胎生化に伴う母から子への栄養供給があると示唆される一方で、卵生線虫と比較し産仔数の減少や寿命の短縮が見られます。さらに本線虫種には3つの異なる性(雌、雌雄同体、雄)が存在し、棲息環境に応じて性をコントロールしている可能性があります。今後本線虫種における生殖・繁殖メカニズムを調べることで、繁殖形態の進化がどの程度、またどの様に極限環境への適応に寄与するかについても理解が進むことが期待されます。卵生から胎生への繁殖形態の変化は動物における進化の過程で幾度となく起こっていますが、その分子メカニズムについては依然として多くの不明点が残されています。今回記載されたTokorhabditis tufaeは、モデル生物として知られる線虫Caenorhabditis elegansと比較的近縁であるため、極限環境適応だけでなく、胎生化の進化プロセスを理解するための優れたモデル実験系としても利用されることが期待されます。
図. 新属新種として記載された線虫Tokorhabditis tufaeの顕微鏡画像
注1)線虫
線形動物門に属する多細胞動物。動物や植物に寄生する寄生虫の1グループとして良く知られているが、実際は線虫の多くは非寄生性であり、物質循環などに関与している。多くの線虫は肉眼では見えないほどに小さい(1ミリ前後)。地球上において最も個体数や種数が多い動物群の1つであると考えられている。(元に戻る)
掲載雑誌:Scientific Reports
論文名:Tokorhabditis n. gen. (Rhabditida, Rhabditidae), a comparative nematode model for extremophilic living
著者:Natsumi Kanzaki, Tatsuya Yamashita, James Shiho Lee, Pei-Yin Shih, Erik J. Ragsdale and Ryoji Shinya
論文掲載先URL:https://www.nature.com/articles/s41598-021-95863-1
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研究担当者: 広報担当者: 森林総合研究所 企画部広報普及科広報係 |
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