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プレスリリース

2025年5月28日

国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
大日本除虫菊株式会社(KINCHO)

市販ノズル型殺虫剤『園芸用キンチョールE®』を使ってナラ枯れから樹を守る
市民活動でできる樹幹内のカシノナガキクイムシ駆除

ポイント

  • 生きた樹の幹に穿入するカシノナガキクイムシを直接駆除するはじめての手段として、市販ノズル型殺虫剤『園芸用キンチョールE®』が使えるようになりました。
  • 穿入から4週間目までに殺虫剤を注入することで、樹幹内に穿入しているほとんどのカシノナガキクイムシを駆除できます。
  • 入手や使用が容易なノズル型殺虫剤を用いることで、市民活動でも生きた樹に穿入するカシノナガキクイムシの駆除ができます。

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、大日本除虫菊株式会社(KINCHO)(以下、KINCHO)は、ナラ枯れの病原菌の運搬者であるカシノナガキクイムシが生きている樹の幹に穿入した場合に、市販ノズル型殺虫剤である園芸用キンチョールE®を用いて駆除できることを明らかにし、殺虫剤として使用できるように 適用拡大*1)を行いました。
ナラ枯れは、病原菌をもったカシノナガキクイムシが樹に穿入して繁殖することで、樹が枯れたり衰弱したりする病気です。これまでさまざまな防除法が開発されてきましたが、生きている樹に穿入したカシノナガキクイムシを駆除する方法はありませんでした。
森林総合研究所とKINCHOは、カシノナガキクイムシの穿入から4週間目までに市販ノズル型殺虫剤である園芸用キンチョールE®を用いて穿入孔へ殺虫剤を注入することで、幹内のカシノナガキクイムシを駆除できることを明らかにし、殺虫剤として使用できるように適用拡大を行いました。これにより、生きている樹の中にいるカシノナガキクイムシも駆除できるようになりました。
園芸用キンチョールE®は、カシノナガキクイムシのほかにサクラ類を加害する外来種であるクビアカツヤカミキリにも使用できます。入手や使用方法も容易なため今後、公園や緑地などでの市民活動による害虫防除が活発になって行くことが期待できます。
本研究成果は、2025年3月27日に森林総合研究所研究報告Vol.24-No.1(通算473号)に掲載されました。

背景

ナラ枯れはカシノナガキクイムシ(写真1)の穿入によって起こる病気で、ミズナラやコナラなどの落葉ナラ類や、常緑のシイ・カシ類などで被害が見られます。最近では関東地域の都市域などで急速に被害が拡大し、大きな問題となっています。これまで、カシノナガキクイムシが樹へ穿入することを予防する方法や、枯死した被害木内のカシノナガキクイムシを薬剤燻蒸などで駆除する方法が行われてきましたが、生きている樹に穿入しているカシノナガキクイムシを直接駆除する方法はありませんでした。そこで、森林総合研究所とKINCHOは、薬液をカシノナガキクイムシの孔深くまで届けられる、市販ノズル型殺虫剤である園芸用キンチョールE®の駆除効果を検討しました。

内容

カシノナガキクイムシが生きている樹の幹に穿入すると、直径1.5mm前後の孔があき、孔の入り口から木くずが排出されます(写真2)。園芸用キンチョールE®付属のノズルを装着して、ノズルの先端をこの孔にできるだけ深く(30mm程度)挿入し、1~2秒間穿入孔から殺虫剤が逆流するまで注入しました(写真3)。殺虫剤の注入を、カシノナガキクイムシが幹に穿入してから2週間後と4週間後に行いましたが、どちらも殺虫剤を注入した孔では木くずの排出が止まり、95%以上のカシノナガキクイムシが駆除できました(図1)。一方、カシノナガキクイムシが幹の内部を掘り進んで造るトンネル状の坑道は時間の経過とともに長くなることから、園芸用キンチョールE®はカシノナガキクイムシが穿入してから可能な限り早く使用する必要があります。KINCHOでは、この研究成果をもとに園芸用キンチョールE®をカシノナガキクイムシに対する殺虫剤として使用できるように適用拡大を申請しました。この申請は、令和6年2月14日に承認され、はじめて生きている樹の中のカシノナガキクイムシを直接駆除できるようになりました。

ナラ枯れを起こす、左カシノナガキクイムシのオスと、右カシノナガキクイムシのメスの写真
写真1 カシノナガキクイムシ
出展:森林総合研究所、カシノナガキクイムシとその仲間
https://www.ffpri.affrc.go.jp/research/2forest/09for-entom/documents/kashinonagakikuimushi.pdf

カシノナガキクイムシが生きている樹の幹に穿入した様子
写真2 カシノナガキクイムシの穿入孔と排出される木くず

園芸用キンチョールE®付属のノズルを装着して、ノズルの先端をこの孔にできるだけ深く挿入している様子
写真3 園芸用キンチョールE®の使用例

左:カシノナガキクイムシ穿入後2週目に殺虫剤を注入、右:カシノナガキクイムシ穿入後4週目に殺虫剤を注入し、駆除効果を示したグラフ
図1 生きているコナラの樹に穿入したカシノナガキクイムシに対して園芸用キンチョールE®を注入した時の駆除効果

今後の展開

近年の、特に関東地方におけるナラ枯れの拡大では、公園や緑地など人の往来が多い場所で樹の枯死被害が発生しており、市民団体等が防除活動を行っている事例も見られます。園芸用キンチョールE®は、ホームセンターなどで入手が可能で使用方法も容易なため、市民活動でも使用できる方法です。ただし、たくさんの穿入孔のそれぞれに殺虫剤を注入する作業は労力を要することから、枯れては困る樹を選定して園芸用キンチョールE®を使用していくことも必要です。園芸用キンチョールE®は、カシノナガキクイムシのほかにサクラ類を加害する外来種であるクビアカツヤカミキリにも使用できます。今後、公園や緑地などでの市民活動による害虫防除が活発になって行くことを期待します。

論文

論文名:生立木樹幹に穿入したカシノナガキクイムシに対する市販ノズル型殺虫剤の効果

著者名:北島博、衣浦晴生、滝久智、松本剛史

掲載誌:森林総合研究所研究報告Vol.24-No.1(通算473号)

DOI:https://doi.org/10.20756/ffpri.24.1_15(外部サイトへリンク)

研究費:森林総合研究所交付金プロジェクト (課題番号202109)、生研支援センターイノベーション創出強化研究推進事業(体系的番号JPJ007097)、「With/Postナラ枯れ時代の広葉樹林管理戦略の構築」(課題番号04021C2)

共同研究機関

大日本除虫菊株式会社(KINCHO)

用語解説

*1):適用拡大
殺虫剤を含む農薬は農薬取締法に従って、対象となる作物や適用病害虫の範囲、及び使用方法などを決めて登録されています。既に登録されている農薬において、病害⾍等に対する効果や作物の⽣育に対する害に関する試験結果をもとに、対象や使用方法を広げることを適用拡大といいます。(元に戻る

 

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 企画部研究企画科 科長 北島博

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.affrc.go.jp

 

 

 

 

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