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2025年7月11日
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
ポイント
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の研究グループは、森林土壌の二酸化炭素(CO₂)放出量およびメタン(CH₄)吸収量を大規模かつ迅速に測定するための新たな分析手法を開発しました。これまで、森林土壌のCO₂放出量やCH₄吸収量は「ガスクロマトグラフ法」と「ガスアナライザー法」の2つの手法で測定されてきましたが、ガスクロマトグラフ法は、広域での多地点観測に対応可能だが、分析に時間がかかるという問題があり、ガスアナライザー法は現場で迅速な分析が可能であるものの、広域での同時観測には向いていませんでした。本研究では、この2つの手法を融合し、ガス試料を真空ボトルに保存して持ち帰り、実験室内でガスアナライザーにより分析する手法を開発しました。この手法により、ガスクロマトグラフ法の約1/7の分析時間に短縮することが可能となりました。また、分析手法の信頼性の評価によく用いられる「直線性」「反復性」「頑強性」の3つの観点から検証した結果、いずれも高い精度を示し、従来の測定手法と同等以上の性能が確認されました。この新手法により、森林土壌の温室効果ガスの動態をこれまでより大規模に高頻度での観測が可能となります。今後、この手法を活用することで、森林土壌における温室効果ガス動態への環境変化の影響をより正確に把握し、気候変動研究のさらなる発展に大きく貢献することが期待されます。本研究成果は、2025年6月26日に森林総合研究所研究報告でオンライン公開されました。
森林土壌は、地球温暖化に大きく関わる二酸化炭素(CO₂)を放出すると同時に、メタン(CH₄)を吸収する重要な役割を担っています。森林土壌は、枯れた樹木や落ち葉を通じて炭素を土壌中に蓄積することから、炭素の吸収源として評価されていますが、その蓄積された炭素は微生物によって分解され、再びCO₂として大気中に放出されるため、このCO₂の動態を正確に把握することが、気候変動対策を進める上で極めて重要です。また、土壌中の微生物が大気中のCH₄を吸収することは知られていましたが、近年、温室効果ガスとしてのCH₄の重要性が国際的に注目されており、その貴重なCH₄吸収源である森林土壌の役割に関心が高まっています。通常、森林土壌のCO₂放出量やCH₄吸収量の測定には、地表面にチャンバーと呼ばれる容器を設置し、その容器内のCO₂やCH₄の濃度を経時的に測定、その濃度の変化速度から算出する方法が用いられています。その際のCO₂やCH₄の濃度分析には「ガスクロマトグラフ法」と「ガスアナライザー法」の2つの手法が主に使われてきました(図1)。しかし、これらの手法にはそれぞれ課題がありました。ガスクロマトグラフ法は、現場で採取したガスサンプルを真空ボトルに保存し、実験室に持ち帰って分析するため、全国規模の観測など多くの地点での観測が比較的容易に行うことが可能です。しかし、ガスクログラフによる分析に時間がかかるため、迅速なデータ取得が難しいという欠点がありました。一方、ガスアナライザー法は、測定機器を現場に持ち込むことでリアルタイムにガス分析ができ、迅速なデータ取得が可能ですが、測定機器が高価なため、測定機器の調達や運搬、複数チームの確保が困難なことが多く、大規模な同時観測には不向きでした。また、ガスアナライザーによる濃度分析は多量のガス試料を機器に導入する必要があり、真空ボトルで採取されたような少量ガス試料の測定はできませんでした。このように、従来の手法では「大規模な同時観測」と「迅速な分析」を両立することが難しく、温室効果ガスの動態を迅速に把握する上で大きな課題となっていました。
図1. ガスクロマトグラフ法とガスアナライザー法の利点と欠点。
そこで、これらの2つの手法を融合させ、ガスサンプルを真空ボトルに保存して実験室に持ち帰り、迅速分析が可能なガスアナライザーを用いて少量ガス試料中のCO₂およびCH₄濃度を測定する新たな手法を開発しました(図2)。その結果、ガス分析に要する時間がガスクロマトグラフと比較して約1/7にまで短縮されました。この新手法の信頼性を検証するため、ガス濃度の大小にかかわらず正確な測定ができるか(直線性)、同じサンプルを測定した際に一貫した結果が得られるか(反復性)、さらに従来のガスクロマトグラフ法と比較して安定した精度を維持できるか(頑強性)という3つの観点から評価を行いました。その結果、新手法は多様な分析条件下で極めて優れた直線性を示し、反復性についても従来法と同等以上の精度を実現しました。さらに、従来の測定手法と幅広い濃度レンジでほぼ同じ結果が得られることが確認され、新手法の頑強性が証明されました(図3)。この新手法により、従来の手法が抱えていた課題を克服し、森林土壌におけるCO₂放出量およびCH₄吸収量の測定を大規模かつ迅速に行うことが可能となりました。
図2. 新たな手法の概要。本手法では、CO₂およびCH₄を含まない窒素ガスを流量コントローラで制御しながら連続的に流します。次に、ガスシリンジを用いてサンプル挿入口から試料ガスを流路に注入します。この際、ガスサンプリングループと6連バルブによって、一定の体積のサンプルが流路内に取り込まれます。その後、流路を通過したサンプルはガスアナライザーで検出・分析され、CO₂およびCH₄の濃度が測定されます。
図3. 新手法とガスクロマトグラフ法で測定した(a)CO₂濃度および(b)CH₄濃度の比較結果。黒の点線は1:1の関係を、赤の実線は測定データに基づく回帰直線を示します。
この新手法により、森林土壌における温室効果ガスの動態を、従来よりも広範囲かつ迅速に測定できるようになり、関連分野の研究効率の向上が期待されます。今後は本手法を活用することで、温室効果ガス動態に及ぼす環境変化の影響をより正確に把握し、気候変動研究のさらなる発展に大きく貢献することが期待されます。
論文名:Portable gas analyzer for stored gas samples: A rapid alternative to gas chromatograph for determining gas concentrations in closed chamber techniques
著者名:Tadashi SAKATA, Taiki MORI, Shoji HASHIMOTO
掲載誌:森林総合研究所研究報告
DOI:10.20756/ffpri.24.2_95
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