研究紹介 > トピックス > プレスリリース > プレスリリース 2025年 > スギ大断面製材の含水率を電波で“壊さず”測定 —「大断面・高含水率」の技術的ハードルを突破—
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2025年12月1日
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
国立研究開発法人産業技術総合研究所
日本アンテナ株式会社
ポイント
国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、国立研究開発法人産業技術総合研究所、日本アンテナ株式会社の研究グループは、断面積の大きい平角*3(厚さ140mm×幅213mm)において、含水率約0%から約150%までを非破壊で精度よく測定できる新たな技術開発に取り組み測定装置を試作しました。製材品を乾燥する前の含水率を把握することは乾燥工程の効率化や品質保証において重要ですが、含水率の高い木材の非破壊測定は精度の確保が難しく、含水率の正確な把握が課題となっていました。今回試作した装置は、木材を測定部に置けば約20秒で含水率を表示します。検証実験では、未乾燥のスギ平角60本を対象に、重量による推定よりも高い精度で含水率を測定できることを実証しました。これにより、乾燥不良や過乾燥による割れの発生を防ぎ、木材乾燥の省エネルギー化や製材の歩留まり向上への貢献が期待されます。
本研究成果は、2025年12月1日に「木材工業」で公開されました。
木材は再生可能な建築資材として需要が拡大しています。製材直後の木材は多量の水を含んでおり、乾燥工程における割れや変形といった不具合の原因となります。特に、梁などの大断面製材(平角など)では、乾燥前に水分量(含水率)を正確に把握することが効率的な乾燥や品質保証のために不可欠です。しかし、製材直後の生材の含水率を正確に把握することが難しく、高含水率のものと低含水率のものを一緒に乾燥していることが多いのが現状です。その結果、乾燥不良や過乾燥の製材品が発生し、乾燥コストの増加や割れ・変形の原因となっています。乾燥前に製材品の含水率を正確に把握することができれば、乾燥機に投入する製材品の含水率のばらつきを小さくすることが可能になり、乾燥不良や過乾燥の防止による歩留まりの向上と省エネルギー化に寄与することができます。
そのため、高い含水率をもつ大断面製材を非破壊で高精度に測定できる実用的な技術の確立が課題となっていました。製材品の重量から含水率を大まかに推定する方法も試みられていますが、木材自体の重量と水の重量を区別できないため、精度に課題があります。そこで私たちの研究グループは、「大断面製材の高含水率を非破壊で精度よく測定できる装置とアルゴリズム」の開発に取り組みました。
本共同研究グループは、断面積の大きいスギ平角を対象に、含水率約0%から約150%までを非破壊で精度よく測定できる新たなアルゴリズムの開発と測定装置の試作を行い、その精度を検証しました。
試作した装置は、上下にアンテナを内蔵する測定部、木材を測定部へ送るレールおよびノートパソコンから構成されます(図1)。上下のアンテナから発信される電波は測定部内の空間を伝播して再びアンテナで受信されるため、測定部内に木材が存在すると、その含水率に応じて電波の波形(振幅と位相)が変化します。この信号変化を解析することで、木材の含水率を非破壊で推定できます。測定に要する時間は約20秒です。
アンテナには、高含水率域の測定精度が高く安価な単ループアンテナを採用しました。また、測定部の内壁を電波吸収体で被覆することで、設置環境や測定者の動作の影響を受けることのない安定した測定を実現しました。さらに、周波数帯域410MHz~770MHzのうち水分量と相関の高い周波数10点を選択し、それらの測定値を組み合わせて解析する独自のアルゴリズムを構築しました。これにより、測定誤差の原因となる木材内部の水分勾配や節などの影響を低減することに成功しました。
スギ平角60本を対象に行った検証試験では、従来の重量を測定する手法では含水率が高いまたは低いと大まかにしか推定できず、測定値も密集して区別が難しいという問題がありました。これに対し、本研究の手法では含水率を定量的に測定でき、かつ従来法より高精度であることを実証しました。

図1 試作した含水率測定装置
図2は、長さ1mのスギ平角60本について、それぞれの重量を測定した結果(左)と、同一試験体を試作装置で測定した結果(右)を示しています。実測含水率は、各測定後に平角の中央部30cmを切り出し、103℃の乾燥器で恒量となるまで約1週間乾燥して得られた全乾重量から算出しました。今回の検証試験では、同じ15kgの平角であっても、含水率が48%の試験体と107%の試験体が存在しました(左図:赤プロット)。一方、試作装置を用いた場合(右図)、同じ材の測定値はそれぞれ57%(実測との差+9%)、87%(実測との差-20%)となり、含水率の差が判別可能であるとともに、実測値との誤差範囲は最大で-20%~+9%の範囲に収まりました。

図2 実測含水率と重量および試作装置による測定値の関係
今後は、乾燥現場で本装置を実際に活用し、乾燥前の含水率の正確な把握が製材の乾燥効率の向上にどの程度寄与するかを数値的に示す予定です。これにより、乾燥時間の短縮やエネルギー使用量の削減効果を定量的に明らかにし、木材産業における省エネルギー化やコスト削減の可能性を広く発信します。
また予備実験では、スギ平角だけでなくスギ材チップの含水率測定においても高い精度が得られることを確認しています。今後は、チップの形状が異なる場合でも同様の精度が維持できるかを検証し、バイオマス燃料分野等での活用を視野に入れます。
さらに、スギ以外の樹種への応用を進めることで、建築用製材からエネルギー利用まで幅広いニーズに対応できる技術として展開する構想です。将来的には、製材工場や建設現場での標準的な測定手段となり、木材製品の乾燥工程の最適化と品質保証として木材利用の拡大と安定供給につながり脱炭素社会への貢献も期待されます。
論文名:全乾状態から含水率約150%までの平角材を対象とした電波を用いた含水率測定装置及びアルゴリズムの開発と精度検証
著者名:三好由華、山下香菜、昆盛太郎(産業技術総合研究所)、渡部謙一(産業技術総合研究所)、山田暁弘(日本アンテナ(株))、小野 豊(日本アンテナ(株))、瀧澤豊吉(日本アンテナ(株))、比留間利通(日本アンテナ(株))
掲載誌:木材工業
研究費:共同研究(研究費受け入れ有)
特開2025-074939「電磁波センシング装置」
国立研究開発法人産業技術総合研究所
日本アンテナ株式会社
*1 大断面製材
本研究では、実験に使用した厚さ140mm×幅213mmの材を、在来構法で用いられる柱等の一般的な寸法(105〜120mm角)を超える断面を持つ材として、便宜上「大断面製材」と呼ぶ。(元に戻る)
*2 含水率
木材中の水分の重量を乾燥させた木材の重量(全乾重量)で割った値(%)。(元に戻る)
*3 平角
断面が長方形で、厚さと幅が共に7.5cm以上の製材品。梁(はり)・桁(けた)に使用される。(元に戻る)
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