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プレスリリース

2026年2月5日

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所
熊本大学

豪雨をもたらす雨雲を調べる新たな地上観測装置
スマートレインサンプラーの開発

ポイント

  • 任意の時間間隔で降雨を自動採取する装置を開発しました
  • この装置を使えば「雨雲の降雨履歴や水蒸気量」が分かるようになります
  • 線状降水帯などの豪雨をもたらす“危険な雨雲の特徴“の解明につながると期待されます

概要

国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所、熊本大学の研究グループは、任意の時間間隔(30分~99時間59分)ごとの降雨を自動で採取する装置を新たに開発し、“スマートレインサンプラー(Smart Rain Sampler)”と命名しました。この装置を用いて得られた降雨の安定同位体比(*1)を分析することで、それぞれの降雨ごとの“雨雲の降雨履歴や水蒸気量”を取得することに成功しました。今回開発した装置を活用することで、線状降水帯などによる豪雨をもたらす“危険な雨雲の特徴“の解明につながると期待されます。本研究成果は、2026年2月5日に水文・水資源学会誌で公開しました。

背景

近年、全国各地で発生する線状降水帯などによる豪雨によって大きな被害が起きていますが、その発生メカニズムについては、未解明な点が多いです。このような豪雨の発生に関する予測精度を向上させるためのカギとして、降雨の安定同位体比に注目が集まっています。降雨の安定同位体比には、降雨をもたらす雨雲が海面から蒸発し、雨を降らせながら移動するという“雨雲の降雨履歴”が保存されています(図1)。そのため、降雨の安定同位体比を気候モデル(*2)に組み込むことで豪雨の予測精度の向上が期待できます。しかし、現状の降雨の安定同位体比観測の観測間隔は、数週間からひと月程度が一般的であるため、詳細な降雨過程を検討するための時間分解能が不足していました。一方、近年、人工衛星などにより大気中の水蒸気量の広域分布量の把握が可能となりました。しかし、実際に地上に雨を降らせた個別の雨雲の水蒸気量に関しては、これまでよくわかっていませんでした。

水の安定同位体比(水分子に占める重い水分子の割合)を示す図
図1 海から蒸発してできた雨雲が雨を降らせながら移動する間に起こる水の安定同位体比の時間変化(=“雨雲の降雨履歴”)

内容

任意の時間間隔(30分~99時間59分まで設定可能)で、降雨を自動で採取する装置を新たに開発し、“スマートレインサンプラー(Smart Rain Sampler)”と命名しました(写真1)。この装置を用いて得られた雨水を分析することで、降雨の降り始めから降り終わるまでの1時間ごとの安定同位体比の連続データを取得することに成功しました。このデータから降雨安定同位体比の時間変化(”雨雲の降雨履歴”)を調べました。これにより、降雨を発生させた雨雲の起源が、単一だったのか複数だったのかを判別できるようになりました。起源が単一の場合はレイリー式 (*3)で解析することで、降り始めの時点の“雨雲の水蒸気量”を推定できます。例えば、2021年の梅雨期に熊本市に約20mmの降雨をもたらした雨雲の水蒸気量は約50mmと推定されました。

任意の時間間隔で降雨を自動で採取する装置の写真
写真1 開発したスマートレインサンプラー(Smart Rain Sampler)
(熊本大学理学部屋上、撮影2025年5月13日、撮影者:壁谷)

今後の展開

今回の結果は、雨雲が雨を降らせ始めた時点の水蒸気量を示しています。この“雨雲の水蒸気量”は、本研究により初めて明らかになった値です。近年、人工衛星などを用いて広い範囲の「大気全体の水蒸気量」を広域に推定することが可能になりました。人工衛星などによる日本周辺の広域の水蒸気量の目安としては、冬の乾燥した時期で約10mm、梅雨や夏の湿った時期では約50〜60mmとされており、今回の結果と大まかな傾向は一致していると考えられます。今後、両者のデータを蓄積し、比較していくことで、季節による雨雲の水蒸気量の変化や、豪雨が起きたときの水蒸気量の特徴などが、より詳しく分かってくることが期待されます。
現在、私たちの研究グループでは、熊本県の熊本市と山鹿市の2か所に本装置を設置し、降雨の安定同位体比を継続的に測定しています。この装置は、電源がない山間部にも設置できるため、さまざまな場所での観測が可能です。この装置を日本各地の山間部に広く設置すれば、台風や線状降水帯などによって起こる豪雨の際に、「雨雲がそれまでにどのように雨を降らせて来たのか?」や「雨雲にどれだけ水蒸気が含まれていたか?」といった情報を詳しく知ることができます。さらに、こうした観測で得られる1時間ごとの降雨の安定同位体比データを気候モデルに取り入れ、人工衛星による広い範囲の観測データと組み合わせることで、線状降水帯などによる豪雨をもたらす“危険な雨雲の特徴”を解明する手がかりになると期待されています。

論文

論文名:スマートレインサンプラーにより採取した降雨安定同位体比の時間変動に関する研究

著者名:壁谷直記・清水晃・一柳錦平(熊本大学)・大竹樹生(元熊本大学)・清水貴範・飯田真一・酒井佳美・鳥山淳平・釣田竜也・小林政広

掲載誌:水文・水資源学会誌

DOI:10.3178/jjshwr.39.1912

研究費:環境省・地球環境保全等試験研究費「気候変動への適応に向けた森林の水循環機能の高度発揮のための観測網・予測手法の構築」(農 1942)

共同研究機関

熊本大学大学院先端科学研究部

用語解説

*1)水分子を構成する水素、酸素にはそれぞれごく微量の質量数の異なる同位体が存在しています。これらの存在割合を調べることで、水分子にあたかもタグを付けたかのように追跡することが可能となります。(元に戻る

*2)大気や海洋などの中で起こる現象を物理法則に従って定式化し、コンピュータによって再現しようとする計算プログラムのこと。気候モデルには、全球モデル(GCM: Global Climate Model)や領域モデル(RCM: Regional Climate Model)などがあります。(元に戻る

*3)レイリー式は混合物を蒸留する際の留出物と残存物の濃度の関係を示す式です。これを用いると、水蒸気中の水分子が凝結して降雨となる際の水蒸気と降雨の安定同位体比の時間変動を示すことができます。(元に戻る

 

お問い合わせ先

研究担当者:
森林総合研究所 九州支所山地防災研究グループ 主任研究員 壁谷直記

広報担当者:
森林総合研究所 企画部広報普及科広報係
Tel: 029-829-8372
E-mail: kouho@ffpri.go.jp

 

 

 

 

 

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